ドラマ『陸王』に見る、会社を育てる戦略
<情報工場 「読学」のススメ#45>『0 to 100 会社を育てる戦略地図』
テレビドラマの世界では、相変わらず池井戸潤原作作品が大人気のようだ。2013年7月に放送が開始され空前のヒットとなった『半沢直樹』を皮切りに、『ルーズヴェルト・ゲーム』『花咲舞が黙っていない』『民王』『下町ロケット』、そして現在放送中の『陸王』と、放送局や放送曜日・時間帯を問わず、いずれも高視聴率を記録している。
とりわけ銀行や企業を舞台にしたサクセスストーリーが多いTBS系列「日曜劇場」として放送される作品は、ビジネスパーソンを勇気づけ、「明日(月曜)から頑張ろう」と思わせてくれる。同枠で放送中の『陸王』は、企業の新商品開発の物語だ。需要が減り経営が傾きかけた老舗の足袋屋「こはぜ屋」が、起死回生の一手として画期的なランニングシューズを開発、ライバルの巨大企業の妨害などにもめげず、見事成功を収める(かどうかは放送中なのでわからないが)。
やや勧善懲悪の図式的な展開に鼻白むことがないではない。だが、『陸王』からは、起業や新規事業立ち上げの楽しさや産みの苦しみ、そして「何が大切なのか」を知ることができるだろう。
そんなドラマの手に汗握る展開を楽しみながら、是非ページをめくってほしいのが『0 to 100 会社を育てる戦略地図』(ポプラ社)だ。起業する「前」の段階から、上場を果たすまで、会社や事業をどのように作り上げていけばよいのか、ステップに分けて実例を挙げながらわかりやすく解説している。
著者の山口豪志さんは1984年生まれ。2015年に自ら創業した株式会社54代表取締役社長のほか、プロトスター株式会社代表取締役COO、株式会社スタディストアドバイザーなど、多数の肩書きを持つ。これまでに日本最大の料理レシピサービス「クックパッド」の運営会社の創成期から関わり、2012年にはクラウドソーシングの日本における嚆矢である「ランサーズ」に3人目の社員として参画。いわば起業や事業創造のプロフェッショナルと呼べる人物だ。
山口さんは会社の成長段階〈0〉(起業)から〈100〉(上場)までを以下の6フェイズに分割している。
〈→0〉(ゼロマエ):起業前夜
〈0→1〉(ゼロイチ):顧客の発見
〈1→10〉(イチジュウ):商品の完成
〈10→30〉(ジュウサンジュウ):採用と組織づくり
〈30→50〉(サンジュウゴジュウ):新規事業開発
〈50→100〉(ゴジュウヒャク):上場に向けて
起業をガイドする書籍は他にも多数あるが、同書が出色なのは「ゼロマエ」、すなわち起業の前段階にも言及していることだ。一般的には個人が起業のアイデアを抱く時点を〈0〉(起点)と考える人が多いかもしれない。だが、山口さんが言うには、そこを起点にすると、結局アイデアだけで何もできずに終わってしまいがちなのだ。
アイデアだけで会社を始めようとしてはいけないということだ。アイデアはまず「テーマ」になるまで育てなければならない。「テーマ」とは何か。山口さんによれば、それは「想い」と「アイデア」が掛け合わさってできるものだ。そしてそのテーマが「共感」されることで起業の「カタチ」ができあがる。そこまで来てようやく〈0〉の地点に立てる。
つまり起業のスタート地点に立つには「想い」「アイデア」「共感」の3要素が必要ということだ。「想い」と「アイデア」がガッチリと絡み合い、それが多数の人に「共感」されることで力強い「テーマ」になっていく。豊かに枝葉を伸ばし花を咲かせるための「起業の種」が生まれるのだ。
三つの要素のうち「共感」は忘れられがちだが、きわめて重要な要素といえる。起業は一人ではできない。「一人会社」から始める場合でも、顧客なり、外注・協力者なり、仕入先なり、必ず複数の人間が関わる。
その時に共感されるテーマがわからなければ、協力しようにもどう協力してよいのかわからないし、それ以前に協力する動機が持ちづらい。報酬など金銭面だけのつながりだと、成長や持続性に結びつくような協力は得られないだろう。
『0 to 100 会社を育てる戦略地図』では、「ゼロマエ」だけでなく、6フェイズごとの解説のいたるところに「共感」が重要なキーワードとして散りばめられている。「ゼロイチ」では顧客の共感、「ジュウサンジュウ」では採用者や従業員の共感が必要、といった具合だ。
ドラマ『陸王』でも「共感」がストーリーを進めるエンジンになっているようだ。役所広司扮するこはぜ屋社長の「想い」は、いやというほど伝わってくる。足袋の特長を生かしたランニングシューズの「アイデア」が生まれる過程も面白い。しかし、何と言っても引き込まれるのは、こはぜ屋の社員たちが「陸王」開発というテーマに「共感」し一丸となったり、寺尾聡が演じるソール素材の発明者や、カリスマシューフィッターといった有能な人物たちが次々と「共感」しプロジェクトに加わっていく様子だ。
また、『0 to 100 会社を育てる戦略地図』の「ゼロイチ」のフェイズでは、商品やサービスを「使ってほしい人」を想定すべきとしている。その想定顧客の「共感」が、実際に市場に出せるレベルの商品やサービスを完成させる。
『陸王』を毎週見ている人には言うまでもないだろう。新しいランニングシューズ「陸王」は、竹内涼真が好演する長距離陸上選手の茂木裕人に「使ってもらう」ことを目標に開発が進められる。茂木選手がこはぜ屋の情熱に、次第に「共感」していく様は感動的だ。
ビジネスは「ドライ」なだけでは成立しないのだろう。人間、それも複数の人間が関わる以上、必ず「ウェット」な要素が必要になる。「共感」はもちろんウェットな要素なわけだが、その重要性はいくら強調してもしすぎることはない。ドライとウェット両者のバランスをいかに取っていくかが、起業や経営、リーダーシップの肝と言って差し支えないかもしれない。
(文=情報工場「SERENDIP」編集部)
『0 to 100 会社を育てる戦略地図』
山口 豪志 著
ポプラ社
255p 1.400円(税別)>
とりわけ銀行や企業を舞台にしたサクセスストーリーが多いTBS系列「日曜劇場」として放送される作品は、ビジネスパーソンを勇気づけ、「明日(月曜)から頑張ろう」と思わせてくれる。同枠で放送中の『陸王』は、企業の新商品開発の物語だ。需要が減り経営が傾きかけた老舗の足袋屋「こはぜ屋」が、起死回生の一手として画期的なランニングシューズを開発、ライバルの巨大企業の妨害などにもめげず、見事成功を収める(かどうかは放送中なのでわからないが)。
やや勧善懲悪の図式的な展開に鼻白むことがないではない。だが、『陸王』からは、起業や新規事業立ち上げの楽しさや産みの苦しみ、そして「何が大切なのか」を知ることができるだろう。
そんなドラマの手に汗握る展開を楽しみながら、是非ページをめくってほしいのが『0 to 100 会社を育てる戦略地図』(ポプラ社)だ。起業する「前」の段階から、上場を果たすまで、会社や事業をどのように作り上げていけばよいのか、ステップに分けて実例を挙げながらわかりやすく解説している。
著者の山口豪志さんは1984年生まれ。2015年に自ら創業した株式会社54代表取締役社長のほか、プロトスター株式会社代表取締役COO、株式会社スタディストアドバイザーなど、多数の肩書きを持つ。これまでに日本最大の料理レシピサービス「クックパッド」の運営会社の創成期から関わり、2012年にはクラウドソーシングの日本における嚆矢である「ランサーズ」に3人目の社員として参画。いわば起業や事業創造のプロフェッショナルと呼べる人物だ。
「想い」「アイデア」「共感」が揃って初めて起点に立てる
山口さんは会社の成長段階〈0〉(起業)から〈100〉(上場)までを以下の6フェイズに分割している。
〈→0〉(ゼロマエ):起業前夜
〈0→1〉(ゼロイチ):顧客の発見
〈1→10〉(イチジュウ):商品の完成
〈10→30〉(ジュウサンジュウ):採用と組織づくり
〈30→50〉(サンジュウゴジュウ):新規事業開発
〈50→100〉(ゴジュウヒャク):上場に向けて
起業をガイドする書籍は他にも多数あるが、同書が出色なのは「ゼロマエ」、すなわち起業の前段階にも言及していることだ。一般的には個人が起業のアイデアを抱く時点を〈0〉(起点)と考える人が多いかもしれない。だが、山口さんが言うには、そこを起点にすると、結局アイデアだけで何もできずに終わってしまいがちなのだ。
アイデアだけで会社を始めようとしてはいけないということだ。アイデアはまず「テーマ」になるまで育てなければならない。「テーマ」とは何か。山口さんによれば、それは「想い」と「アイデア」が掛け合わさってできるものだ。そしてそのテーマが「共感」されることで起業の「カタチ」ができあがる。そこまで来てようやく〈0〉の地点に立てる。
つまり起業のスタート地点に立つには「想い」「アイデア」「共感」の3要素が必要ということだ。「想い」と「アイデア」がガッチリと絡み合い、それが多数の人に「共感」されることで力強い「テーマ」になっていく。豊かに枝葉を伸ばし花を咲かせるための「起業の種」が生まれるのだ。
「共感」は起業のエンジンになる
三つの要素のうち「共感」は忘れられがちだが、きわめて重要な要素といえる。起業は一人ではできない。「一人会社」から始める場合でも、顧客なり、外注・協力者なり、仕入先なり、必ず複数の人間が関わる。
その時に共感されるテーマがわからなければ、協力しようにもどう協力してよいのかわからないし、それ以前に協力する動機が持ちづらい。報酬など金銭面だけのつながりだと、成長や持続性に結びつくような協力は得られないだろう。
『0 to 100 会社を育てる戦略地図』では、「ゼロマエ」だけでなく、6フェイズごとの解説のいたるところに「共感」が重要なキーワードとして散りばめられている。「ゼロイチ」では顧客の共感、「ジュウサンジュウ」では採用者や従業員の共感が必要、といった具合だ。
ドラマ『陸王』でも「共感」がストーリーを進めるエンジンになっているようだ。役所広司扮するこはぜ屋社長の「想い」は、いやというほど伝わってくる。足袋の特長を生かしたランニングシューズの「アイデア」が生まれる過程も面白い。しかし、何と言っても引き込まれるのは、こはぜ屋の社員たちが「陸王」開発というテーマに「共感」し一丸となったり、寺尾聡が演じるソール素材の発明者や、カリスマシューフィッターといった有能な人物たちが次々と「共感」しプロジェクトに加わっていく様子だ。
また、『0 to 100 会社を育てる戦略地図』の「ゼロイチ」のフェイズでは、商品やサービスを「使ってほしい人」を想定すべきとしている。その想定顧客の「共感」が、実際に市場に出せるレベルの商品やサービスを完成させる。
『陸王』を毎週見ている人には言うまでもないだろう。新しいランニングシューズ「陸王」は、竹内涼真が好演する長距離陸上選手の茂木裕人に「使ってもらう」ことを目標に開発が進められる。茂木選手がこはぜ屋の情熱に、次第に「共感」していく様は感動的だ。
ビジネスは「ドライ」なだけでは成立しないのだろう。人間、それも複数の人間が関わる以上、必ず「ウェット」な要素が必要になる。「共感」はもちろんウェットな要素なわけだが、その重要性はいくら強調してもしすぎることはない。ドライとウェット両者のバランスをいかに取っていくかが、起業や経営、リーダーシップの肝と言って差し支えないかもしれない。
(文=情報工場「SERENDIP」編集部)
山口 豪志 著
ポプラ社
255p 1.400円(税別)>
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