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米国の安全勧告、自動運転に欠かせない日本の高精度3D地図に商機

米国はダイナミックマップへの投資が後ろ向き
米国の安全勧告、自動運転に欠かせない日本の高精度3D地図に商機

ダイナミックマップのイメージ(ダイナミックマップ基盤提供)

 日本の自動運転用の高精度3次元地図である「ダイナミックマップ」技術に追い風が吹いている。米国での自動運転車両による死亡事故を受け、米国家運輸安全委員会(NTSB)が安全勧告を行い、自動運転機能は設計条件下だけで使用を限るように対策を求めたためだ。車両が走行する環境が条件にあてはまるか、正確に判断するにはダイナミックマップが不可欠。米国はダイナミックマップ整備に後ろ向きとされてきたが、商機が訪れようとしている。

 「(自動運転技術にとって)NTSBの勧告はブレーキでなくチャンス。技術力で応えたい」と三菱電機の津田喜秋主席技師長は説明する。内閣府の支援事業「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)のテーマの一つ「自動走行システム」に参画し、ダイナミックマップを作る計測システムを構築してきた。

 SIPの成果をもとに事業会社のダイナミックマップ基盤(東京都港区)が設立され、三菱電機やゼンリン、自動車メーカー10社などが出資している。日本では全高速道路と自動車専用道、約3万キロメートルのダイナミックマップを2018年度までに整備する予定だ。

 これに対し、米国はダイナミックマップへの投資が後ろ向きとされる。国土が広く、すべての道路はデジタル化しきれない上、高速道路は周囲にほぼ何もない道路が多く、費用対効果が低いためだ。交通インフラに投資するより、自動運転車両の技術開発に投資する方が現実的だ。

 ただNTSBの安全勧告により、この状況が変わるかもしれない。例えば一般道の上を高速道が走る場合、現在のGPS(全地球測位システム)ではどちらを走っているのか区別が難しい。地下道や高層ビルが立ち並ぶ都市部のハイウエーも、衛星だけでは測位が困難だ。

 ダイナミックマップなら道路の識別に加え、レーンごとの交通規制も識別できる。ハイウエー専用などの自動運転機能を販売する際、ダイナミックマップは有利になる。SIPでサブプログラムディレクターを務める本田技術研究所の杉本洋一上席研究員は「NTSBの勧告に基づき法律が施行されるまで5―10年かかることもある」と指摘。そのころにはシステム主体で運転する「レベル3」以上の自動運転車両が実用化される。

 NTSBの勧告は将来を見越したもので、これから制度や運用が本格的に作られていく。このプロセスに日本企業が参画してリードできるかも注目だ。おりしもSIPで大規模公道実証が始まり、各社でデータの蓄積が進む。しかし、米国の企業や研究機関はこれに参加していない。

 SIPの葛巻清吾プログラムディレクター(トヨタ自動車先進技術開発カンパニー常務理事)は、「SIPと日本自動車工業会、自動車技術会が一体となり、世界に技術提案する体制がうまく機能している」と説明する。

 現在、ダイナミックマップは国際標準化機構(ISO)に提案して国際標準化を進めているほか、ダイナミックマップ基盤はインフラ保守や防災に転用するなど用途を開拓中だ。この派生ビジネスの市場価値を示せればダイナミックマップへの投資を促せる。安全勧告を商機に変えられるか注目される。
(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2017年10月23日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
日本の技術者・研究者を中心に進められてきたSIPですが、これからは米国でのポリティカルな技術開発にどれだけ食い込めるかが問われます。トヨタ、日産、三菱電機は日本企業と表現するのが適切なのかわかりませんが、欧米にいる技術政策部隊の交渉力はどの程度あるのでしょうか。日本政府としてもこの機を逃していいはずがないので、経産省やジェトロがどれだけ頑張れるか。自動運転を国策として推進してきた真価が問われます。

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