テスラ自動運転の死亡事故調査報告、トヨタの専門家はどう見たか
「環境がものすごく厳しくなるとは考えていない」(葛巻氏)
米テスラの自動運転機能を備えた「モデルS」で起きた死亡事故の調査報告で、米国家運輸安全委員会(NTSB)は安全勧告を出し、自動運転の利用制限機能の導入を求めた。自動運転への過信による事故を防ぐためだ。技術対策が必要になり、企業側の責任が大きくなる。日本では内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動走行システムで大規模公道実証実験が始まる。安全勧告は自動運転にブレーキをかけてしまうのか。SIPプログラムディレクターである、トヨタ自動車先進技術開発カンパニーの葛巻清吾常務理事に聞いた。
―安全勧告で利用制限機能やドライバー状態検知システムの導入を求めました。自動運転開発への影響は。
「オートパイロットと思わせ運転手に過信させては危険。これは妥当な判断だ。安全勧告と同時に、米道路交通安全局が公道実験の要件を緩和した。販売される車両は厳しくする一方で、開発を促している。米国で自動運転の価値やポテンシャルが認められていることは変わりない」
―運転者の不適切利用で事故が起きても、利用制限機能が正常に働かなかったと企業が製造物責任を負うことになれば事業が成り立たなくなりませんか。
「利用制限の技術要件や運用は米国と情報共有を進めたい。これまでも運転支援機能を渋滞時に限ったり、速度によってはオフにするなど利用条件を変えてきた例はある。環境がものすごく厳しくなるとは考えていない」
―ドライバー監視についてハンドル操作検知システムでは不十分とされました。
「米ゼネラルモーターズは『スーパークルーズ』に車内カメラによる状態検知システムを採用した。当局との議論の結果だ。ただ車内カメラが唯一の答えではない」
―SIPで大規模公道実証が始まります。ドライバー状態検知システムや自動運転用3次元地図(ダイナミックマップ)を21社が活用しますね。
「ドライバー状態検知に海外を含め13社が参加する。自動運転からドライバーに運転を渡す際に、いま運転ができる状態か判断する基準をつくる。運転手の眼球挙動などを検討している。注意が向いていなければ運転できる状態に呼び戻し、適切な交代猶予時間を確保する。大規模実証はSIPで開発した計器を提供して各社でデータをとる。結果は国際会議を通じて標準化する。ダイナミックマップのようにISO規格にする予定だ」
―勧告で自動運転の限界が見えたのでは。
「『5年後には無人運転』というイメージが期待過多だった。完全自動運転はまだ先だ。センサーやアルゴリズムなどの信頼性や耐久性、コストのめどがつき商品として提供されるようになった。技術は大きく進んでいる。自動運転をどう活用するか本気で考える段階にある。自家用車なら過信防止。過疎地の公共交通なら市区町村や地域住民に支えられた運用が求められる。商用車ならドライバー支援レベルと採算性など、より賢い社会実装を進めていきたい」
【自動運転・死亡事故概要】
2016年5月、米国フロリダ州で自動運転中のテスラ車が道を横断中のトラックに時速119キロメートル(74マイル)で衝突、車両は大破し運転者は死亡した。調査では事故までの走行中に運転者はハンドルに手を添えるようにとの警告に従っていなかった。事故直前、自動運転システムは衝突警報を出さず、速度も落とさなかった。NTSBは運転者の自動運転への過信を原因に挙げ、七つの安全勧告を出した。その中で自動運転機能を設計条件に限る利用制限機能と、運転手の状態を検知し注意不足なら警告する機能を求めた。
―安全勧告で利用制限機能やドライバー状態検知システムの導入を求めました。自動運転開発への影響は。
「オートパイロットと思わせ運転手に過信させては危険。これは妥当な判断だ。安全勧告と同時に、米道路交通安全局が公道実験の要件を緩和した。販売される車両は厳しくする一方で、開発を促している。米国で自動運転の価値やポテンシャルが認められていることは変わりない」
―運転者の不適切利用で事故が起きても、利用制限機能が正常に働かなかったと企業が製造物責任を負うことになれば事業が成り立たなくなりませんか。
「利用制限の技術要件や運用は米国と情報共有を進めたい。これまでも運転支援機能を渋滞時に限ったり、速度によってはオフにするなど利用条件を変えてきた例はある。環境がものすごく厳しくなるとは考えていない」
―ドライバー監視についてハンドル操作検知システムでは不十分とされました。
「米ゼネラルモーターズは『スーパークルーズ』に車内カメラによる状態検知システムを採用した。当局との議論の結果だ。ただ車内カメラが唯一の答えではない」
―SIPで大規模公道実証が始まります。ドライバー状態検知システムや自動運転用3次元地図(ダイナミックマップ)を21社が活用しますね。
「ドライバー状態検知に海外を含め13社が参加する。自動運転からドライバーに運転を渡す際に、いま運転ができる状態か判断する基準をつくる。運転手の眼球挙動などを検討している。注意が向いていなければ運転できる状態に呼び戻し、適切な交代猶予時間を確保する。大規模実証はSIPで開発した計器を提供して各社でデータをとる。結果は国際会議を通じて標準化する。ダイナミックマップのようにISO規格にする予定だ」
―勧告で自動運転の限界が見えたのでは。
「『5年後には無人運転』というイメージが期待過多だった。完全自動運転はまだ先だ。センサーやアルゴリズムなどの信頼性や耐久性、コストのめどがつき商品として提供されるようになった。技術は大きく進んでいる。自動運転をどう活用するか本気で考える段階にある。自家用車なら過信防止。過疎地の公共交通なら市区町村や地域住民に支えられた運用が求められる。商用車ならドライバー支援レベルと採算性など、より賢い社会実装を進めていきたい」
【自動運転・死亡事故概要】
2016年5月、米国フロリダ州で自動運転中のテスラ車が道を横断中のトラックに時速119キロメートル(74マイル)で衝突、車両は大破し運転者は死亡した。調査では事故までの走行中に運転者はハンドルに手を添えるようにとの警告に従っていなかった。事故直前、自動運転システムは衝突警報を出さず、速度も落とさなかった。NTSBは運転者の自動運転への過信を原因に挙げ、七つの安全勧告を出した。その中で自動運転機能を設計条件に限る利用制限機能と、運転手の状態を検知し注意不足なら警告する機能を求めた。
日刊工業新聞2017年10月4日