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ノーベル賞候補で俄然注目、「ペロブスカイト太陽電池」開発前線

パナソニックが実用化へ!?
ノーベル賞候補で俄然注目、「ペロブスカイト太陽電池」開発前線

ペロブスカイト太陽電池(物材機構の動画サイトより)

米科学情報企業のクラリベイト・アナリティクス(フィラデルフィア)は20日、学術論文の被引用数などを基に同社が予想するノーベル賞受賞の有力候補者として、ペロブスカイト太陽電池の発見と応用に貢献した桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授(64)が選出された。


 宮坂教授が09年に製作したペロブスカイト太陽電池の変換効率は3%台だった。12年に10%を突破すると世界中で研究に火がついた。日本生まれの「ペロブスカイト太陽電池」が、“次世代太陽電池”の本命に浮上している。
                 

企業の中でも存在感


 パナソニックは、次世代太陽電池の本命とされる「ペロブスカイト太陽電池」の耐久性向上に成功した。ペロブスカイト太陽電池は発明から10年足らずで、普及が進むシリコン系と肩を並べるまで変換効率が急上昇している。最大の障壁だった耐久性の課題解決に突破口が見えたことで実用化へのハードルが下がった。

 パナソニック先端研究本部新機能材料研究部の松井太佑主任技師が、スイス連邦工科大学ローザンヌ校との共同研究でペロブスカイト太陽電池の耐久性を高めた。

 85度Cの環境で500時間連続して発電させる試験を行い、光を電気に変える変換効率は初期効率に対して95%を維持した。通常の使用環境に置き換えると「2―3年に相当する」(松井太佑主任技師)という。

 ペロブスカイトは特殊な結晶構造の名称。桐蔭横浜大学の宮坂力教授が、太陽電池として作動することを発見した“日本発”の技術だ。

 宮坂教授が2009年に作製したペロブスカイト太陽電池の変換効率は3%台だった。12年に10%を突破すると世界中で研究に火が付き、現在は20%を超えた。

 松井氏らも共同研究を始めてから約3年で、21・6%(4ミリメートル角)の変換効率をたたき出した。量産レベルで24%のシリコン系太陽電池の背中が、あっという間に見えた。

 ペロブスカイト太陽電池は従来の太陽電池と比べ材料費が安く、材料を基板に塗って作製できるため製造コストも低い。電気を作る発電コストをシリコン系の「2分の1―5分の1」(同)に低減できる可能性がある。

 “塗って作る”ので、さまざまなモノを発電に利用できるのも魅力だ。フィルム、ウエアラブル機器、窓、建物の壁面、自動車、室内の家具など、太陽光発電の用途の広がりが期待されている。

 ただ、耐久性が難点だった。劣化が早く、数時間から数日で変換効率が低下していた。松井氏らは構造の歪みが原因と考え、結晶をちょうど良い大きさにできる材料を探索。候補の中から金属のルビジウムを選んで入れた。

 すると結晶の粒が大きくなり、構造が安定し高い耐久性を実現。また、欠陥がないきれいな発電層となり、電気として取り出す前に消える電子が減り、効率も高まった。

 シリコン系を目安とすると、20年間で80%前後の効率維持が求められる。松井氏らは耐久性向上とともに、大型化にも取り組む。基板に塗った材料を均一に乾燥させる工法が必要となりそうだ。

 これまでペロブスカイト太陽電池の研究成果は、研究機関が発表してきた。おそらく太陽電池メーカーの発表は、パナソニックが初めて。太陽電池ビジネスを知り尽くした同社の研究開発は、実用化への大きな前進となった。
パナソニックが耐久性を高めたペロブスカイト太陽電池

(文=松木喬)

日刊工業新聞2017年1月11日



変換効率が高い理由を明らかに


 日本原子力研究開発機構J―PARCセンターと総合科学研究機構は、次世代太陽電池材料として注目される「ペロブスカイト半導体」において、光から電気への変換効率が高い理由を明らかにした。中性子の散乱実験で、半導体内の原子の動きを解析。半導体内の有機分子が回転し、無機分子の格子の振動を抑制した。格子が熱を伝えにくくなり、エネルギーの損失を防いでいた。低コストで高効率の太陽電池の開発につながる。

 太陽電池は、半導体の分子に光が当たった後、「正孔」と「電子」に分離し、それらを電極に移動させ電気として回収する。電荷分離後から電荷が再び結合するまでの時間が長くなるほどエネルギー変換効率は高い。

 ペロブスカイト半導体として、「ヨウ化鉛メチルアンモニウム」(MAPbI3)に注目。同材料において、正孔と電子の分離状態から、再結合し消滅するまでにかかる時間を100倍以上に保てることを示した。

 ペロブスカイト半導体太陽電池はエネルギー変換効率が2015年時点で21・6%に到達し、さらに高効率化が期待されている。また印刷技術で作れるため製造コストの低減が見込める。

 成果は英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ電子版に掲載された。

日刊工業新聞2017年8月15日



鉛フリー実現


 東京農工大学大学院工学研究院の嘉治寿彦准教授と近畿大学理工学部の田中仙君講師らは、有機物の「グアニジンヨウ化水素酸塩」を使い、人体に有害な鉛を用いずに次世代太陽電池である「ペロブスカイト太陽電池」の開発に成功した。安全で耐久性の高いペロブスカイト太陽電池の実現につながる可能性がある。成果は10日、英電子版科学誌サイエンティフィック・リポーツに掲載された。

 研究グループは、熱安定性が高いグアニジンヨウ化水素酸塩に着目。真空蒸着により、ヨウ化スズと同水素酸塩を重ねて膜を作ると、可視光を吸収した。X線回折の結果、特徴的なペロブスカイト構造を確認した。ただ、光電変換効率は低いため、数値の向上が課題となる。

 さらに同水素酸塩は熱安定性が高いため、太陽電池を作成するためにヒーターで加熱しても昇華を制御しやすいことも突き止めた。従来の材料は加熱すると昇華と同時に分解も起きてしまい、制御が難しかった。

 また同水素酸塩の真空蒸着中に、ヨウ化スズの溶液も同時に蒸着する手法を試したところ、結晶粒子の大きさを制御することに成功。面積当たりの最大電流(短絡電流密度)を向上することに成功した。この手法は従来、有機半導体だけに用いられていた。

 ペロブスカイト太陽電池は、灰チタン石(ペロブスカイト)と同じ結晶構造を持つ有機無機の混合材料を用いる。桐蔭横浜大学の宮坂力教授が開発した。開発コストが安価なことから世界中で研究が進んでおり、現在の変換効率は単結晶シリコン系の太陽電池に迫る20%となっている。

 ただ、主原料として人体に有害な鉛や、熱分解しやすい有機物などを使うことが、実用化への課題だった。

日刊工業新聞2017年7月11日



100度Cで2600時間の耐久性


 兵庫県立大学大学院工学研究科の伊藤省吾准教授らの研究グループは22日、次世代太陽電池のペロブスカイト太陽電池で初めて100度Cで2600時間の耐久性を確認したと発表した。既存の製品構造から電極材料などを変えて電池を試作した。課題だった耐久性を大幅に改善したことにより、実用化に弾みが付く。5年後の実用化を目指す。独科学誌「ケムサスケム」で発表した。

 ペロブスカイト太陽電池の構造で、電極材料を従来の金からカーボンに変更し、封止材を塗る場所を従来の上から横に変えるなどで耐久性を高めた。これまではスイスの研究者が公表する、85度Cで約500時間の耐久性が最高だった。

 今回試験した同電池の変換効率は5%。伊藤准教授は「ペロブスカイト層の改良などで、実用レベルの20%台に引き上げるめども立った」という。
兵庫県立大が試作した耐久性のあるペロブスカイト太陽電池

日刊工業新聞2016年12月23日



物材機構が新しい添加剤


 物質・材料研究機構エネルギー・環境材料研究拠点の韓礼元(ハンリュアン)上席研究員らは、次世代太陽電池であるペロブスカイト太陽電池のホール輸送層に使う新規添加剤を開発した。暗所で1000時間保存しても性能が劣化しなかった。連続光照射下でも、初期の変換効率が85%まで劣化する時間は、従来の約25時間から150時間と6倍以上伸び、安定性が大幅に改善した。

 韓上席研究員らは、一般的なペロブスカイト太陽電池に使う添加剤「ターシャリーブチルピリジン(TBP)」に注目。TBPとペロブスカイト材料が化学反応を起こすことにより、安定性が低下することを明らかにした。

 さらに赤外分光やX線回折による分析で、反応は主に窒素原子とペロブスカイト結晶の間で起こることを突き止めた。

 反応を防ぐため、窒素原子の隣接する位置にアルキル基を導入。二つの反応原子が空間的に近づくことを防ぐ「立体障害効果」が生じ、化学反応を抑制した。

 一般的なペロブスカイト太陽電池は、暗所でも劣化が進み、200時間で約3割も変換効率が低下する。そのため、安定性の低さの原因究明と新規材料開発による安定性の向上が、実用化の課題だった。

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発」プロジェクトの一環として開発。成果は5日、独科学誌アドバンスド・マテリアルズ電子版に掲載された。

日刊工業新聞2016年10月6日



明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
この1年ぐらいで日刊工業新聞に載ったペロブスカイト太陽電池に関する主要な記事です(内容や肩書はすべて当時のもの)

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