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カンタス航空のパイロットとGEがアプリを共同開発

運航効率を高め燃料使用量も可視化
 航空業界は、データを活用するという意味では最も進んでいる産業といえるかもしれない。安全性と効率を高めるため、航空業界では世界中を飛ぶ何千機もの航空機からデータを収集し常に入念に調べて分析する、といったことが行われている。

 GEアビエーションは業界を牽引するべく、カンタス航空と共同で、FlightPulse(フライトパルス)というアプリケーションを開発した。これは飛行機が記録しているフライトデータを分析し、航空機の運航効率を高めることを手助けするもので、パイロット自身で各自のフライトのデータにアクセスすることが可能。GEの産業向けクラウド・プラットフォーム「Predix」上で動く商用のモバイルアプリとしては史上初のプロダクトだ。

 そしてこのアプリは、コックピットで実際のアプリユーザーとなるパイロットからのフィードバックを得ながら、カンタス航空とGEとが幾度もの議論を重ねた末に出来上がった賜物である。
                   

 カンタス航空のデーブ・サマーグリーン副操縦士は数年前、燃料担当をしていたときのことをこう振り返る。「保有しているデータ量の莫大さに、途方に暮れていた。その一方でパイロットはデータを持ち合わせておらず、フライトの運航効率を高めるにはどうすべきかを知る術はなかった。パイロット自身がそのデータを必要としていたにもかかわらずだが…」

 航空会社のアナリストは、長年、燃料の使用状況など様々なデータを入手しており、それらを活用しようと詳しく調べてした。ただ「パイロット自身が各自のフライトに関するデータにアクセスできることは、ほとんどなかった」と、GEアビエーションのデジタル・ソリューションズ・プロダクト・マネジャーであるクリス・ソラン氏は言う。

 昨年10月に米国テキサス州オースティンでGEアビエーションのデジタル・コラボレーション・センターを開設した際、GEはすでにこのアプリの試作品を完成させていた。これはパイロット自身が各自のフライトに関わる詳細なデータにアクセスできるようにするアプリで、パイロットのEFB(※)上で動くものである。
※EFB・・・・Electric Flight Bagの略称。見た目は普通のiPadだが、それには、かつてパイロットが持っていた黒色のブリーフケースの中に入っていた重たいバインダーの中身が記録されている。

                    

 このデジタルツールは運航効率を向上させ、二酸化炭素の排出削減に寄与するもので、各パイロットのデータは本人のみがアクセス可能になっている。

 GEはこの試作品を顧客である航空会社数社に紹介した。ソラン氏は振り返える。「紹介したところ全員がこれは素晴らしいと言って興味を持ってくれた。中でも、カンタス航空の燃料チームはこれを是非実現したいと言ってくれた。そして彼らこそが、商用アプリ開発を実行に移すための牽引役になってくれた」

 その中でも、カンタス航空のデイブ・サマーグリーン副操縦士は初期段階からの支持者だ。「変化を現場に委ねなければ、本当の意味で変化を起こすことはできない。そしてそれを委ねるためにはデータを共有する必要があった」とサマーグリーン氏。

 カンタス航空のマレー・アダムス燃料効率担当グループマネジャーは「デイブはいつも私のところにやってきてこの膨大なデータを見つつ、他のパイロットにどうやって伝えるのが良いだろうかと絶えず問いかけていた」と振り返る。

 それを伝える術がなかったからだ。カンタス航空のマット・シモンズ燃料プリンシパルアナリストも続ける。「我々の手元には常に自由に使えるデータが大量にあった。ただ、それを本当にそれを必要としている人に届けることには苦労していた」と。

 ソラン氏はGEの立場からその可能性について長い間検討してた。「そして、ようやくデータを航空機からパイロット一人一人につなげることができるようにまでに発展させることができた」と話す。可能性は目の前にあったのだ。あとは、それを理解して、アプリに落とし込むだけだった。

 2016年の後半、カンタス航空がFlightPulse開発のためのGEのコラボレーションパートナーになって以後、ものごとは急速に進んだ。シドニーにあるカンタス航空のオフィスで11月にはワークショップが開催され、今年1月には20名の熱心なパイロットがベータ版をテストした。
                

 軍用機や商用機のパイロットとしての経験を持つソラン氏は、コックピットで働く同志たちが思っていることを感覚的に理解していた。「アナリストは運航効率を改善するような新しいやり方を提案する。ただ、実際にそれが効果をもたらすかどうかを現場のパイロットたちが理解するのは、多くの場合困難だ。しかし実際のデータが各パイロットの手元にあれば、ほら、これが成果でこんなインパクトがあったよ、と伝えることができる」という。

 このプロジェクトでは、米国オースティンやサンラモン、ポートランドをはじめ、上海やシドニーのチームもアプリ開発をに携わった。GEのオペレーティングシステムPredix上で動くモバイルアプリとして、これほど大規模なものは初めてである。

 GEでカスタマー・エンゲージメント・リーダーを務めるルーク・ボーマン氏は「パイロットたちはEFBと呼ばれるiPad上で何でもこなしてしまう。EFBに組み込むことこそ、まずお客様と合意すべきことだと解っていた。そうでなければ、パイロットたちの通常の作業フローに組み込むことは叶わないからだ」と話す。

 データ装備することで得られる運航効率改善の可能性は計り知れない。FlightPulseは運航効率に焦点を当てているが、GEのアプリはどんな分析でもできるように設計されている。つまり、航空会社のオペレーションに関わる他の分野にもデータを応用できる可能性がある。

 運航効率が上がると二酸化炭素排出量は削減される。燃料を1キロ節約すれば、航空会社の炭素排出量は3キロ超の削減となる。エアバスA380を運航するパイロットは、着陸時にフラップ(※)の角度をより浅くすることで平均して142キロ、さらには、着陸時にエンジンの回転数を上げずに逆噴射(※)することで45キロ、その後旅客ターミナルへ向かうまでの地上滑走時に一部のエンジンを停止することで1分間に10キロの燃料を削減することができる。
※フラップ・・・高揚力装置のことで航空機の主翼後縁部のこと。フラップの角度を小さくするほど、二酸化炭素排出量や地上への騒音も軽減される。
※逆噴射・・・エンジンの噴射方向を異なる向きに変えること。逆噴射することによって航空機の着陸時に減速し、制御することができる。
 「このアプリを使えば、パイロットが自身のデータを見て分析し問いかけることができる」と前出のシモンズ燃料プリンシパルアナリストは言う。サマーグリーン副操縦士もこれに同意し、このアプリの最も大きな利点はパイロットが「自身のオペレーションを見直し、どこを変えればいいのかを検討できる点にある」と話す。

 初回のトライアル後、GEは他のパイロットを対象にさらなるトライアルを重ね、ワークショップで得たフィードバックや開発面での細かな修正をFlightPulseに反映させた。このアプリは今や1,500名を超えるカンタス航空の旅客便と貨物便のパイロットに提供されており、今後数か月のうちに、カンタス航空グループの他の航空会社にも展開される予定だ。

 このアプリによって、「コックピットを離れても燃料効率について話すことができるようになった」とカンタス航空でエアバスA380を操縦するピーター・プロバート機長は話す。

 「カンタス航空とそのパイロットの尽力と協力がなければ達成できなかっただろう」ー。GEのソラン氏はそう話す。
GE REPORTS JAPAN
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
GEの産業アプリで航空分野が着実に実験を上げている印象。まずは特殊な環境、職種、プロダクツほど効果を得やすいのだろう。燃費だけでなく事故を減らす意味でもパイロットのデータ化は重要。

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