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東芝再建、カギ握る韓国企業の“お金”

ハイニックスの融資が独禁法に抵触するか否か
 東芝が半導体メモリー子会社、東芝メモリ売却の優先交渉先に「日米韓連合」を選定した。今後詰めの調整を進めて正式決定すれば、2期連続の債務超過回避にも光が見える。しかし、2018年3月末までに売却手続きを完了できなければ債務超過が解消されず、再建は頓挫する。売却先を日米韓連合に定めたものの、猶予は残り9カ月。18年3月末までに独占禁止法の審査がクリアできるかが死活問題だ。

 独禁法に基づく企業結合の審査は各国の司法当局も行う。国際的に増加している大型M&A(合併・買収)では、こうした各国の審査が問題になる例が少なくない。

 東京エレクトロンによる米アプライドマテリアルズ、ソフトバンクグループによる米T―モバイルUSの買収案は米司法当局の反対などにより撤回に追い込まれた。台湾・鴻海精密工業によるシャープ買収でも、中国当局の審査遅延で当初の買収予定が約1カ月遅れた。

 東芝としてはファンドや銀行が中心の日米韓連合を売却先に選ぶことで審査の長期化リスクを回避したい考えだ。出資者には競合する半導体メモリー事業を行う企業がいないため、半年程度で独禁法の審査が完了できる可能性が高い。

 審査が長引いて経営のリスクが高まれば、市場への影響が重要視される。このため、東芝のように市場への影響が大きい企業が審査の長期化で倒産してしまうことを防ぐため、審査を早める措置が取られることがある。

 独禁法の本来の目的は競争の排除や制限から市場を守ることにある。独禁法に詳しい矢吹公敏弁護士は「特定企業を存続させたほうが競争を生むと判断される場合がある」と説明する。

 一方、融資という形で支援する韓国・SKハイニックスに、東芝メモリの経営権取得に関わる行動があれば独禁法の問題が再び、顕在化する。

 矢吹弁護士は「潜在的に経営権を持つ出資と判断された場合、独禁法に抵触する可能性がある」と指摘する。日米韓連合を選択して独禁法審査の長期化を避けようとする東芝だが、思惑通りに事が進むかはまだ分からない。
             

(文=後藤信之、政年佐貴恵、渡辺光太)
日刊工業新聞2017年6月22日「深層断面」から一部抜粋
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
 NAND型フラッシュメモリー市場は、データセンター(DC)向け需要が好調で、20年頃まで安定的な成長を見込む。東芝メモリの「最低でも2兆円」の評価額は、この成長市場で世界2位のシェアを持つ競争力の高さが根拠の一つだ。しかし売却交渉の最大のネックである「時間ロス」は、その競争力も低下させかねない。  競争の主軸は、3次元(3D)構造のNANDメモリー。16年から同製品の量産を始めた東芝は、13年から量産を始めた首位の韓国サムスン電子を追う格好だ。その技術力の差は徐々に縮まっており、売却話が持ち上がる前から設備投資競争は激化。東芝は、当初はこの春にも四日市工場(三重県四日市市)で現在建設中の第6製造棟の次の新棟建設を決める計画だった。  しかし売却交渉の混迷を受け東芝メモリの投資の動きは鈍っている。その間にサムスンは猛攻撃をかけ、東芝を引き離しにかかっている。IHSテクノロジーの南川明ディレクターは「一番の問題は時間。長引けば長引くほどサムスンにとっては好都合」という。  現在の3D構造NANDは需給がタイトだが、サムスンやSKハイニックスが増産投資を仕掛けており、19年頃には市況が軟化する見通し。中国メモリーメーカーの参入も予測され「好調なまま20年まで続くとは考えられない」(南川ディレクター)。機動的な投資ができる体制を早期に構築しなければ、競合との差は開く一方だ。

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