個人データが“金脈”に。「情報銀行」の検討本格化

そもそもデータは誰のものか

 改正個人情報保護法の全面施行により、産業界から要望が強かった個人データ(パーソナルデータ)の扱いに関して、匿名加工すれば本人の合意がなくても活用可能となった。ただ、個人データは本人のものであることに変わりはなく、匿名化すれば何をしてもよいわけではない。事業者はデータの利活用で問われる安全性と利便性両立させながら、社会的な信頼を築いていく努力を怠ってはならない。

 日々発生する膨大なデータからこれまで見えなかった「何か」を読み解き、有益な知見や新たな収益源を見いだす。これがビッグデータの妙味であり、宝の山とも呼ばれる由縁だ。

 一口に宝の山といっても玉石混合ではあるが、中でも「金脈」ともいえるのが個人データだ。個人データはそれ自体に値が付くのは周知の通り。ビッグデータという文脈からいえば、その価値はさらに大きい。

 個人に関わる多様なデータを名寄せして、時系列でそろえれば新たなビジネスが創出できるためだ。利用者の視点からもニーズはある。自分の医療・健康データを生涯に渡って安心・安全に一元的に管理できる仕組みとして、「健康ビッグデータ」なども俎上(そじょう)に乗っている。

 ただ、個人データはプライバシーに関わるだけに、慎重な扱いが求められるのは言うまでもない。改正個人情報保護法の施行に当たり、ビッグデータ活用のガイドラインも示されたが、それですべてが解決できるわけではない。一般的には、法制度より技術革新が先行するのが常であり、技術革新と制度とのギャップが至るところに存在する。
                  

 例えば顔認証。顔認証は技術革新が目覚ましく、個人を特定する照合精度は動画であっても99%以上と高精度だ。用途は犯罪を防止したり、迷子を探したりと、いろいろな利用シーンが想定されるが、使い方次第では両刃の刃となる。

 カメラ映像の場合、悩ましいのは本人の同意がなくても写ってしまうためだ。店舗などでは監視カメラを設置する際、警察に届け出をしなければならない。これに顔認証が含まれると、運用面での扱いはややこしくなる。

 店舗などで撮ったカメラ映像は保存期間が半年以上になると、生活者からの開示請求や削除要求に応えねばならない。顔認証を用いる場合には、個人が特定できないように性別や年令といった属性情報のみを保存すれば特段の問題はないが、分析していることを知った利用者は違和感を持つかもしれない。

 もちろん、危険性ばかりをあげつらっても意味がなく、便利な技術は前向けに活用することが望ましい。だからこそ、個人データの扱いやプライバシーへの配慮を分かりやすく世間に伝え、利用者の信頼を得る努力が必要なのだ。

 商品の購入時に特典が貯まるポイントカードもまた然りだ。ポイントカードはすでに生活シーンに定着している。ポイントと引き替えに個人データを取得して活用することはごく自然なことだ。

 ただ、スマートフォーンとの連携などサービスが広がる中で「何をどう連携させて分析しているのか」が見えにくい。そこがずっとグレーゾーンとなっていることには疑問が残る。

 顧客の囲い込み策としてポイント制度は有効な手立てといえる。しかし、ポイントと引き替えに個人データを収集して、本人が知り得ないような活用がなされていては心外だ。

 個人データを扱う事業者はプライバシーをどう守るかなどの経営方針をきちんと示すことが必要だ。さらにいえば、ポイント制度なしでも利用者が個人データを預けてもよいと思えるような魅力あるサービスが出てきてもよい。

 こうした中、政府は健康や購買履歴などの膨大な個人情報を本人同意の上で事業者が一括で預かる「情報銀行」の創設に向けた検討を本格化している。

 銀行のように、国から認可を受けた企業ならば個人情報を集めてもよいとする考え方だ。例えば自分の運転履歴を情報銀行に預けておき、保険会社が照会を求めてきたら本人が了承する。無事故ならば保険料を安くなるといった具合だ。

 「情報銀行ありきで議論しても意味がない」(IT企業)との指摘もあるが、選択肢が増えることは生活者にとってプラスになる。産業界からも「データ流通」の推進を唱える声が高まっている。
                  

(文=斉藤実)

日刊工業新聞2017年6月15日

日刊工業新聞 記者

日刊工業新聞 記者
06月18日
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まだ手探り状態ともいえるが、データ流通は今後の大きなテーマとなるのは間違いない。プライバシーを含む個人データをきちんと守ることは、企業によっては攻めの一手であることを強調したい。
(日刊工業新聞第一産業部・斉藤実)

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