絶好調の半導体製造装置業界、なぜ重要指標の公表を取りやめる?

1年先の先行指標「BBレシオ」から、中長期の成長性を重視

 半導体製造装置市場が活況で沸く中、ちょっとした“事件”が起きた。日本半導体製造装置協会(SEAJ)は、日本の半導体製造装置の需給を表す「BBレシオ」の公表を止めると発表したのだ。

 BBレシオは出荷額に対する受注額の割合を示す指標。半導体製造装置の場合、3カ月平均の受注額を、販売額で割った数値で、半導体業界のおよそ1年先の先行指標として活用されてきた。

 しかし東京エレクトロンが17年3月期決算発表の際に「今後は受注実績の開示を取りやめる」と発表。それに伴い「BBレシオの意義や影響などを検討して中止を決めた」(SEAJ)という。米国でもBBレシオの公表が中止となっている。

 背景には受注額の開示を止める装置メーカーの増加がある。東京エレクトロンは四半期の受注額開示を取りやめた理由を「短期の株価変動を抑え、中長期の成長性判断をより重視する」ためと説明する。

 BBレシオがなくなっても、市場が安定していれば問題ないかもしれない。しかし半導体業界は短期で状況が激変することも少なくなく、今後の影響に注視が必要だ。

「需要に追い付かない」 増産体制整える


 「(現在の活況は)ピークアウトではなく、これからも市場は拡大する」―。

 半導体製造装置国内最大手の東京エレクトロンの河合利樹社長は、中長期的な市場成長を予測する。同社はウエハーを加工する前工程向けの装置を手がけており、17年1―3月期は2四半期連続で過去最高の受注額を達成。18年3月期の当期利益は2期連続の過去最高となる1630億円を見込む。
                 

 旺盛な需要に備え、設備投資額は倍増の420億円を計画する。70%を九州や山梨県の研究開発拠点の拡張・改修といった開発関連設備への投資に当てる計画だ。残り30%で宮城県の生産拠点への物流棟の新設など増産投資も行う。

 需要増加に対応した設備投資の動きは業界全体に広がっている。国内主要6社のうち、設備投資額が前期比プラスとなるのは4社。

 検査装置や成膜装置などを手がける日立ハイテクノロジーズは、米国や台湾の拠点で顧客向けのデモ装置を増やす。洗浄装置などを手がけるSCREENホールディングスも積極投資に踏み切る方針で、約60億円を半導体洗浄用装置などの製品評価設備などに投じる。

 ウエハーの切断装置などを手がけるディスコは、18年3月期の設備投資額は前期比マイナスだが、生産能力を増強している。18年12月には主力工場の桑畑工場(広島県呉市)で、ウエハーを切断・研磨する消耗品の新生産棟が完成する予定。

 生産スペースは従来に比べて1・5倍になる計画だ。また呉工場(同)の生産設備を増強し、消耗品の生産能力を引き上げる。

 同社の関家一馬社長は「早く増産投資しないと需要に追いつかないとの現場の声があった」という。装置の引き合いも旺盛で「通期で過去最高の業績を狙えそうだ」(関家社長)と強気の姿勢だ。

 各社は将来の受注に向けた先行投資も強化する。主要6社全てが研究開発費を積み増す計画だ。半導体の先端プロセスの高度化に伴い年々開発費の負担が重くなっているが、先端領域で受注を獲得できなければシェアは伸ばせない。

 「成長サイクルに向けた投資に取り組む」(日立ハイテクの宇野俊一専務)と、成長市場攻略のための布石を打つ。
             

(文=政年佐貴恵)

日刊工業新聞2017年5月25日の記事を再編集

政年 佐貴惠

政年 佐貴惠
05月28日
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 現在の市場拡大を支えるのは、3次元構造のNAND型フラッシュメモリーだ。けん引役はデータセンター(DC)向けの外部記憶装置、ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)で、「NAND市場は前年比25―30%の市場成長を見込んでいる」(東京エレクトロンの河合社長)。データの大容量化や通信の高速化などに伴い、成長の主軸は従来のスマートフォンやパソコンなどからDC、SSDに移っている。
 さらに今後、期待されるのがIoTや人工知能(AI)、第5世代移動通信方式(5G)、自動運転といった新たなデジタル革命による需要だ。各社の幹部は「従来の市場とは様相が変わってきている」と口々に言う。
 アドバンテストの吉田芳明社長は「高信頼性の要求が高まっている。単に性能の良いテスターを導入するだけでは足りない事例などが起きており、変化の兆しがある」と指摘。東京エレクトロンの河合社長も「高機能半導体だけでなく(非先端の)センサー系も伸びる」とし、市場の構図が変わると見る。

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