東芝の損失が膨張する米原発“契約”の中身

超過コストをすべて負担する「固定価格オプション」はなぜ生まれた?

 東芝が米原子力発電事業で7000億円規模の損失を計上する可能性が高まった。何が要因となったのか。関連資料を探ると、建設プロジェクトのコスト超過分を東芝側が負担する「固定価格オプション」というキーワードが浮かび上がる。また足元では工事の遅延リスクが顕在化しておりコストは上昇傾向にある。固定価格オプション、コスト増という二重苦で東芝側の負担が膨張していく構図が鮮明化している。

 東芝は米原発事業子会社のウエスチングハウス(WH)を通じ、米国で二つの原発プロジェクトを進める。米スキャナ電力のVCサマー発電所(サウスカロライナ州)の2、3号機、米サザン電力のボーグル発電所(ジョージア州)の3、4号機の建設だ。

 2016年末、両プロジェクトにおいて、米CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)買収を巡る2000億円超の減損や建設コスト増により、7000億円規模の巨額損失が生じるリスクが明らかになった。

東日本大震災により状況が一変、訴訟合戦に


 「固定価格オプション契約を有効にし、プロジェクトの残りのコストが固定されるよう契約を変更する」―。スキャナ電力が16年5月に公表した報道資料にはこんな記載がある。

 これまでの工事費に5億500万ドル(約564億円)を上乗せする契約変更に応じるが、その後の超過コストはすべてWHが負担することになるとの内容だ。同オプションはどんな経緯で設定されたのか。

 WHが両プロジェクトを受注したのは08年。それから3年後に起きた東日本大震災により状況が一変した。東京電力の福島第一原発事故により、米国でも安全規制が強化され大幅な設計変更が必要になった。

 コスト増を誰が、どんな配分で負担するか。電力会社、WH、WHの協業相手で建設工事を担ってきたS&Wの間で訴訟合戦が起きた。
                

完工時期の2年延期と建設コストの上限77億ドル


 事態が動いたのが15年10月。WHが米CB&IからS&Wを買収し、工事まで一体的に進める体制を整える一方で、電力会社は建設コストの上乗せと完工時期の2年程度の延期を認める―。

 こうした条件で合意し、プロジェクトに発生したすべての訴訟や係争で和解した。そしてこの際、設定されたのが固定価格オプションだ。

 スキャナの場合、16年5月には「固定価格オプションを選択する」と題した報道資料を公表。その中で5億500万ドルという同オプションの価格を明らかにし、同年11月には公共事業の許認可に関わる「サウスカロライナ州公共サービス委員会」の承認を経て、同オプションを行使すると発表した。

 東芝は「当社から公にはしていないが、スキャナの報道資料は確認している」と固定価格オプションの存在を認める。スキャナによって再設定され、固定された建設コストの上限は約77億ドル。これを超えた分はWH・S&W側がすべて負担することとなり、東芝も巻き込む巨額損失リスクの芽が生まれた。

 もう一方のサザン電力とのプロジェクトを巡っても、同社が15年10月に米国証券取引委員会に提出した資料の中で「EPC(設計・調達・工事)契約を改定し、請負業者による契約価格のさらなる上昇を制限する」との記載を確認できる。

1日当たりのコストは、従来の3倍に!?


 固定価格オプションに伴って電力会社が再設定した建設コストの上限を超えなければWH側に追加負担は生じない。しかし状況は芳しくない。

 「ジョージア州公共サービス委員会」が開いたボーグル発電所プロジェクトに関する公聴会。16年11月公開のリポートを確認すると、原子力工学の博士号を持つ専門家らがさまざまな質問に答えている。

 「プロジェクトのスケジュールに対する評価は?」との質問には、「今のスケジュールのまま完工というのは非常にチャレンジング。マイルストーン(節目)達成は継続的に遅れている」と回答し、4カ月の遅れを指摘する声も紹介している。

 「完工予定日に間に合わない可能性は?」との問いに対しては、「間に合わせるため、17年9月まで必要となる1日当たりのコストは、従来の3倍を超えるだろう」。工事遅延と、それに伴うコスト上昇が避けられない実態が浮かび上がる。
              


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日刊工業新聞2017年2月8日「深層断面}

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明 豊

明 豊
02月12日
この記事のファシリテーター

海外のインフラは、コンストラクションが一番リスクが高いのはよく知られていること。だからGEも機器売りと保守といううまみのある部分に徹している。米国の原発建設は長く途絶えていただけに、さらにリスクが高くなるのは仕方がない。契約はケースバイケースなので、内容よりもむしろ東芝側の意思決定が健全に機能していたかだろう。ちょうど不正会計問題で本社側は混乱し、WHの案件はロデリックCEOを中心に米国に任せっきりでコントロールできていなかった可能性が高い。また不正会計問題を終息させにも「原発」を成長事業から外すことはできなかった。
不正会計は別として、海外のインフラプロジェクトにおいて日本企業は常にこのようなリスクがつきまとう。他社もさまざまケーススタディーを学びながら、社内にタフな交渉ができる人材を育て、権限と責任を明確化し、ストップや軌道修正を図れるプロジェクトマネジメント体制を築く必要がある。

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