《TBS編》ザ・インタビュー#1~ベンチャー投資で挑む改革の真実~

片岡正光次世代ビジネス企画室投資戦略部次長「投資する意義はチェンジマネジメント」

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 イノベーションを起こすのはベンチャーだけとは限らない。新規事業や事業会社が自己資金によって自ら投資活動を行うコーポレートベンチャーキャピタルベンチャー(CVC)などを通して、改革に挑戦する大企業も増えてきた。ニュースイッチでは、連載「ベンチャーに学ぶ!大企業イノベーション」をスタートさせ、注目の企業とその仕掛け人に焦点を当てる。

 第1回は東京放送ホールディングス (TBS)の片岡正光氏。CVCが花盛りの民放キー局にあって、1年半前に担当者へ自ら手を上げた。テレビ業界は大きな変革期にある。TBSは一昨年、ドラマ「半沢直樹」で脅威的な視聴率をたたき出したが、社内の危機感は強い。将来のTBS、放送事業にとって何が必要かを日々追い求めている片岡氏。改革の現況を赤裸々に語ってくれたインタビューを4回に渡って紹介する。

 入社時に感じた「自分たちは良質なものを作っているという自負」

 ―片岡さんの経歴をみると、いろんなことをやっていますよね。営業のキャリアが長いですが、そもそもなんでテレビ局に入ろうと思ったんですか。
 「やっぱりテレビが大好きだったからです。入社してすぐはイベント関連の事業に携わって、例えば『赤坂BLITZ』の企画は、僕が入社2年目で提案したんです。名前も自分で100個くらい考えて。まだ若いしリスクが見えない部分もあったんですが、その時は上司や仲間が本当に応援してくれました。当時の専務と一緒に新宿のライブハウスに行ったり、担当役員の方が当時2年生の僕を連れて他の役員への説明に一緒に回ってくれて。その時ほんとにいい会社だなあと思いました」

 ―当時、TBS社内の雰囲気はどうだったんですか?積極的に若手の意見を聞こうとか。
 「ドラマや報道は強かったんですが視聴率は3位でした。それでも多くの人たちは、自分たちは良質なものを作っているんだ、という自負はあったと思います。新卒としては素直に腹落ちしなかったけど、社内にいるうちに、やっぱりものづくりへの熱意がすごい人が多くて、自分もすぐに染まりました(笑)。僕自身は周りに恵まれて、新入社員からやりたいことに挑戦させてもらいました」

 テレビ局はマーケティング機能が弱い。放送事業をもっとブラッシュアップできる

 ―テレビの内側にはもう成長の余地がない、という声をよく聞きます。
 「僕は違う考えを持っていて、ビジネス的にもまだまだ成長の余地があると思っています。地上波放送は恵まれた時代が長かったと思います。広告営業をしていましたが、タイムCMもスポットCMも常に満稿(広告枠がいっぱい)ですぐに売り切れていた時代がありました。だからテレビ局って各局で少しずつ差はありますが、基本的に一般の企業で言うマーケティングの機能が弱いのです」

 「その役割、特にメディア・マーケティングと言う領域は広告会社に任せているモデルなんです。テレビは視聴率関連中心で、番組を分析する尺度は基本、『世帯視聴率』です。実はスポットCMなどは他のマスメディアと比較してもかなり科学的で定量的な取引をしているんですが、広告会社が広告主の要望に応じてほかのメディアと一緒に最適化して売っている。これは僕個人の考えですが、これからの時代はいろいろな種類のマーケティング知見を放送局も自社で持つべきだと感じます。多面的にみて放送事業をもっともっとブラッシュアップできるポイントはいくつもあるんじゃないかと」

 「例えば、投資したデータセクションは、『ソーシャルメディアをみている視聴者はこんな顧客です』と分析するツールを持っている。それをクラインアントに提案できるだけでもの凄く喜んでもらえる。今までなかったソリューションだけど、少しアプローチするだけで価値が生まれてくる」

 インフラか?コンテンツか?自社のビジネスをどう定義していくかで成長領域も違う

 ―片岡さんが入社した時は良質なコンテンツを作ればテレビ事業は良くなるというマインドでしたが、これからテレビ業界はどのような競争軸になっていきますか。
 「う~ん、どの視点で話せばいいかな。やはり今後は各局ごとの差別化がもっと進むべきだと思う。その過程で自社のビジネスをどう定義していくかで、成長領域も違ってくる。メディアとして『土管』というインフラ側が大事なんだと考えるのか、それともコンテンツ側で考えるのが大事か」

 「アメリカ等の例を見てもコンテンツ基軸でビジネスを考えているメディアも多いですが、一方で自社の強みを生かしていく中でインフラの強化策を議論していったら、そこに行きつく可能性もないわけでもない。日本テレビさんがhuluに出資してるのは、インフラの強さが必ずあるんじゃないか、というところ見ているんでしょう」

 テレビビジネスの中心的な部分に切り込まないとCVCの効果は高くない

 ―片岡さんがやられているCVCについて、社内の理解とか反応みたいなものはどうですか。逆に気にせず「辺境の地で」というような感覚で動いているんですか。
 「僕はCVCは本質的なところに切り込んでいくべきだと思っているんです。テレビ放送ビジネスの中心的な部分へ。僕はキャリアとしてこれまで放送ビジネスの中心をみてきました。そこにうまく切り込んでいくことができないと、そんなにCVCの効果は高くないと思います」

 「僕自身が個人のテーマとして最も投資する意義を感じている点は、キャピタルゲインよりも、やはり組織変革や人材育成のためのチェンジマネジメントの狙いなんです。一人でも多くの社員に影響を与えるような取り組みを真摯に考えながらやっていますね。前向きに取り組む人たちをどうやってサポートしていくのか、という部分も特に重要です」

 「ベンチャーはいかがわしい」というイメージを払拭するためにとった行動

 ―具体的にどのような仕掛けを作ったんですか。
 「まずは社内のイベントを、とにかくたくさんやりました。人材開発部とかと協力して、社内でオープンに呼びかけをして、ベンチャーの方々をお呼びしてピッチ(プレゼン)してもらったんです。会の冒頭トーマツベンチャーサポートの齋藤(祐馬事業統括本部長)さんにしゃべってもらって、それが自分の中でものすごく大きなトリガーになりましたね。斎藤さんは第一声で『みなさん、この人たち(起業家)はいかがわしくありません!』と言ったんです(笑)。普通ベンチャーというとどこか拝金主義というイメージもあって『ベンチャー=いかがわしい』みたいな感覚を、一般的には持たれていますから」

 ―社内イベントの頻度はどのくらいで。
 「1年半前から始めて、1年で6本、2カ月で1回くらいのペースなんですけど、最初は月イチぐらいでした。TBSテレビは1300人くらいの会社ですけど、お昼の時間に呼びかけたら130人ぐらい集まったんです。会場が入りきれないくらいで、出だしからいい感じでしたね。今をときめくランサーズさんとか、BASEさんとか、出資したアイリッジさんとかピカピカのベンチャーに来てもらった。でも普通の社員は、まだいかがわしいという温度感です。僕たちは体温がかなり温まっているんで、そこは冷静になって、この人たちに理解してもらうような取り組みとしないと、という気持ちでした」

 「その間にも週に一回ぐらい小さいミーティングを入れていったんです。例えばニュースをテーマにして、報道以外でも興味のあるやつを集めて、当時、東洋経済オンライン編集長の佐々木(紀彦現ニューズピックス編集長)さんとか来てもらいました。佐々木さんのチームで動画を研究している人たちも加わって、プレゼンやって議論して、終わって酒飲みにいくみたいな流れです」

 「僕が見込みあるテーマだなと思っても、響かないものもあったりするんですね。これは営業に役に立つんじゃないか?と思って、関連する人間を呼んでディスカッションさせてみたけど、あまり刺さらなかったケースもありました。それでも、ベンチャーとうちのマッチング性と、社内でベンチャーイベントに参加してくれる顔ぶれをチェックできる期間としてとても有用でしたね」
 
 <プロフィール>
 片岡正光(かたおか・まさみつ)東京放送ホールディングス次世代ビジネス企画室投資戦略部次長兼TBSイノベーション・パートナーズ(合)パートナー。
 1992年慶大卒、東京放送に入社。法人営業、事業開発、経営戦略に従事し、放送事業におけるビジネス領域全般にてキャリアを重ねる。2013年よりTBSイノベーション・パートナーズ(合)を設立しパートナーに就任、ベンチャーファンドを組成しCVC活動をスタートさせ戦略的な投資活動を進めている。早大学大学院商学研究科MBA修了。

(ニュースイッチ編集部、取材協力=トーマツベンチャーサポート)

 ※次回は6月19日(金)に公開予定

COMMENT

本田知行
バカン

ベンチャーとの協業の仕組みは作ったが、社内を巻き込めない。私もこんな悩みを幾度となく相談を受けた。コーポレート側がいくら机上で考えても、現場は巻き込めないケースが多い。超多忙なテレビ局において、全社員の1割の社員を動員する社内イベントを開催し、「百聞は一見に如かず」と社内のベンチャー企業の印象を一掃した打ち手は秀逸です。このように社内を巻き込めるかどうかは、CVCの目的である戦略的リターンの成功のポイントとなると感じます。

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