右肩上がりの経験しかなかった民間機エンジン。IHIは代替わりをどう乗り切るか
6割まで高まるアフター事業。その稼いだ資金を「次世代技術に積極投資していく」(満岡取締役)
航空・宇宙関連各社のキーパーソンに今後の戦略などを聞く。第2回は、IHIの満岡次郎取締役兼常務執行役員航空宇宙事業本部長。
―足元の事業概況はどうですか。
「これまで民間機向けエンジン事業は右肩上がりの増産しか経験していなかったが、『V2500』から(欧エアバスの120―200席級最新旅客機A320ネオに搭載される)後継の『PW1100G―JM』へと世代替わりを初めて経験する中、安定操業で苦労する部分はある。『PW1100G―JM』は2300基の受注残があり今後4年で年産600基まで急拡大する。確かな品質の製品をタイムリーに出荷する」
―米ボーイングの次世代旅客機「777X」向けエンジン「GE9X」の開発進捗(しんちょく)は。IHIは参画シェア10―12%で調整しています。
「年内に初号機用部品を集結し、16年に最初のエンジンを回す計画だ。最大級の航空機用エンジンだけに、リスクの洗い出しに時間をかけており、通常の開発プログラムに比べて半年近く早い。参画シェアについては協議を進行中で、先進技術の値踏みを公平に考えた上で合意する。設備投資は17―18年頃からだろう」
―七つの民間機エンジンに参画しており、20年後にはアフターマーケット事業比率を現状の40%弱から60%に高まる見通しです。
「80年代に新型エンジンの投資をはじめ、回収期に入ったのは00年代。各エンジンが2世代目に入り、この循環が落ち着くと60%レベルになると描いている。航空会社のフリート数は増えており期待できる。(アフター事業で稼ぎ)次世代技術に積極投資していく」
―設備投資についてはどうですか。
「まだまだ続く。『PW1100G―JM』向けの投資が16年度にピークを迎え、17年度も高水準だ。設備投資はできるだけ平準化する。技術革新、現場のカイゼンを逐次生産ラインに落とし込んだ上で、増産に対応するのが我々のコンセプト。例えば、相馬工場(福島県相馬市)では三菱重工業からの受託製造ラインも順調に立ち上がり、計画通りに納入が始まった」
―来年度から事業の業績評価指標にROIC(投下資本利益率)を導入する予定です。
「航空宇宙事業本部では春先からタスクフォースを立ち上げ、棚卸し資産圧縮に乗り出した。従来は素材手配から製品納入までのさまざまな段階で安全在庫を抱えているが、全工程を“見える化”したところ、過剰な部分があった。素材メーカーなどサプライヤーとIHIの双方がキャッシュフローを改善できるウイン・ウインの形を模索し、来年度から成果を大きく刈り取る」
―国内に生産拠点が集中しています。将来の拠点戦略の考え方は。
「相馬工場のスキルは高いが、人材確保に苦労している。ぎりぎりで増産対応しており、継続して人材を集められるかがポイントだ。モノづくりのベースは日本に置くが、(新たな生産拠点については)広範な候補から総合的に考える。海外がベストならそうするかもしれない」
【記者の目/大増産と並行で先行技術適用を】
短期急成長した航空エンジン事業。ここまでは「生産性を高め、ミニマム(最小)の人員、設備で増産対応できた」(満岡取締役)。今後、代替わりで減産に入るエンジンがある一方、「PW1100G―JM」の大増産に対応しながら、セラミック系複合材や高強度鍛造素材などの先行技術を適用していかなければならない。リソース配分をはじめ経営力が問われる。
(聞き手=鈴木真央)
―足元の事業概況はどうですか。
「これまで民間機向けエンジン事業は右肩上がりの増産しか経験していなかったが、『V2500』から(欧エアバスの120―200席級最新旅客機A320ネオに搭載される)後継の『PW1100G―JM』へと世代替わりを初めて経験する中、安定操業で苦労する部分はある。『PW1100G―JM』は2300基の受注残があり今後4年で年産600基まで急拡大する。確かな品質の製品をタイムリーに出荷する」
―米ボーイングの次世代旅客機「777X」向けエンジン「GE9X」の開発進捗(しんちょく)は。IHIは参画シェア10―12%で調整しています。
「年内に初号機用部品を集結し、16年に最初のエンジンを回す計画だ。最大級の航空機用エンジンだけに、リスクの洗い出しに時間をかけており、通常の開発プログラムに比べて半年近く早い。参画シェアについては協議を進行中で、先進技術の値踏みを公平に考えた上で合意する。設備投資は17―18年頃からだろう」
―七つの民間機エンジンに参画しており、20年後にはアフターマーケット事業比率を現状の40%弱から60%に高まる見通しです。
「80年代に新型エンジンの投資をはじめ、回収期に入ったのは00年代。各エンジンが2世代目に入り、この循環が落ち着くと60%レベルになると描いている。航空会社のフリート数は増えており期待できる。(アフター事業で稼ぎ)次世代技術に積極投資していく」
―設備投資についてはどうですか。
「まだまだ続く。『PW1100G―JM』向けの投資が16年度にピークを迎え、17年度も高水準だ。設備投資はできるだけ平準化する。技術革新、現場のカイゼンを逐次生産ラインに落とし込んだ上で、増産に対応するのが我々のコンセプト。例えば、相馬工場(福島県相馬市)では三菱重工業からの受託製造ラインも順調に立ち上がり、計画通りに納入が始まった」
―来年度から事業の業績評価指標にROIC(投下資本利益率)を導入する予定です。
「航空宇宙事業本部では春先からタスクフォースを立ち上げ、棚卸し資産圧縮に乗り出した。従来は素材手配から製品納入までのさまざまな段階で安全在庫を抱えているが、全工程を“見える化”したところ、過剰な部分があった。素材メーカーなどサプライヤーとIHIの双方がキャッシュフローを改善できるウイン・ウインの形を模索し、来年度から成果を大きく刈り取る」
―国内に生産拠点が集中しています。将来の拠点戦略の考え方は。
「相馬工場のスキルは高いが、人材確保に苦労している。ぎりぎりで増産対応しており、継続して人材を集められるかがポイントだ。モノづくりのベースは日本に置くが、(新たな生産拠点については)広範な候補から総合的に考える。海外がベストならそうするかもしれない」
【記者の目/大増産と並行で先行技術適用を】
短期急成長した航空エンジン事業。ここまでは「生産性を高め、ミニマム(最小)の人員、設備で増産対応できた」(満岡取締役)。今後、代替わりで減産に入るエンジンがある一方、「PW1100G―JM」の大増産に対応しながら、セラミック系複合材や高強度鍛造素材などの先行技術を適用していかなければならない。リソース配分をはじめ経営力が問われる。
(聞き手=鈴木真央)
日刊工業新聞2015年06月12日 機械・ロボット・航空機面