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激化するがんの新薬開発、狙い目はここだ!

エーザイ執行役・大和隆志氏に聞く「がん微小環境で差別化できる」
激化するがんの新薬開発、狙い目はここだ!

大和隆志氏

 ―がん領域の新薬の研究開発に力を入れている背景は。
 「がん領域は未充足の医療ニーズが非常に高く、患者の入院や加療などに伴う労働損失も大きい。こういうところに画期的な薬を出すことが製薬会社の使命だ」

 ―がんの新薬に力を注ぐ同業他社は多くあります。特色をどう打ち出しますか。
 「(小野薬品工業の抗がん剤である)『オプジーボ』など、がんの既存の治療体系を大きく変えるような革新的な新薬が出てきた。ただ、それでも対応しきれないがんはあるはずだ。具体的には、(がん細胞を取り巻く血管や正常細胞といった)がん微小環境。この中には、がん免疫も含まれる。免疫にはT細胞だけでなく、いわゆる骨髄系細胞もある。従来の薬はこうしたところへの手当てがまだ十分ではなく、狙い目だ」

 ―化学合成でつくる低分子医薬品以外の創薬手法への取り組みは。
 「(動物細胞を培養してつくる抗体に薬剤を融合した)抗体薬物複合体(ADC)に注力する。ADCの成否を握るのは(抗体と薬物を結ぶ)リンカーと、薬剤だ。我々は薬剤に、抗がん剤として承認済みの『ハラヴェン』を使う。承認薬でない薬物をつけている既存ADCとは大きな差がある。抗体とリンカー、薬剤をくっつける製造プロセスでも多様な工夫をしている」

 ―若手研究者の育成をどう進めていきますか。
 「研究開発のトップは現場を離れ、管理や人事に血道を上げざるを得ない。果たしてそんな人が世界の科学の最前線を見られるのか。世代交代をもっと速くしないとダメだ。若い人は失敗を恐れず、海外へも行ってもらいたい」

 ―政府の政策への要望は。
 「画期的な新薬を医療現場へ早く届けるための施策が多くあり、(個々の施策自体は)全て正しい。ただ、それらをもっと機能的・有機的につなげて効率を向上するために定期的な話し合いを続け、個別の改善点を迅速に対応していければいい」
日刊工業新聞2017年7月26日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
エーザイは低分子薬の創製に強みをもつ。ADCに力を注いでいる背景には、化学合成技術の知見を効果的に生かせるとの判断があるのだろう。コア技術の見極めや育成は必須だが、科学の進歩は速く、自社だけで対処しきれるものではない。学術機関やベンチャー企業などとの連携も、今まで以上に強化することが望まれる。 (日刊工業新聞第二産業部・斎藤弘和)

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