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日本の部材メーカーは、鴻海の米国・液晶新工場に懐疑的

「シャープには過去に裏切られた経験があるからなぁ」
日本の部材メーカーは、鴻海の米国・液晶新工場に懐疑的

トランプ大統領と握手する鴻海の郭台銘会長(トランプ公式FBページ)

 トランプ米大統領は26日、台湾の鴻海精密工業が100億ドル(約1兆1000億円)以上を投じ、米ウィスコンシン州に大型液晶パネル工場を建設すると発表した。3千人以上、最終的に1万3千人まで雇用が拡大する可能性があるという。鴻海の子会社「フォックスコン」が工場を新設、次世代の超高精細画面「8K」の液晶パネルを生産する。

 一方、鴻海傘下のシャープは、米国の液晶テレビ市場への再参入に向け、新たな商標登録を申請した。シャープは2016年に経営再建のため、北米テレビ事業を中国家電大手のハイセンスに譲渡した。このため、「アクオス」などの商標を使えない。そこで別ブランドを用意し18年以降、大型テレビなどに使う考え。主に60型以上の大型液晶テレビに用い、高級ブランドとして米国に浸透させたい考え。

ジャパンディスプレイは1000億円の資金要請


 ジャパンディスプレイ(JDI)が、抜本的な構造改革に着手する。筆頭株主の産業革新機構が債務保証することで、主力取引銀行が計1000億円規模の融資枠を設ける方向で調整に入った。主に工場の閉鎖といったリストラや運転資金などに充てるとみられる。一方、成長投資のための資金繰りは不透明だ。8月9日には新中期経営計画が発表される見通し。経営再建に向けた具体的な施策が示されるか注目される。

 みずほ銀行三井住友銀行、三井住友信託銀行の3行が金融支援に向け調整に入った。スマートフォン用液晶パネルを手がける能美工場(石川県川北町)などの閉鎖を検討している。従業員は主に米アップル向けの液晶パネルを手がける白山工場(同白山市)に集約するとみられる。

 工場集約に踏み込む直接の理由は、主力顧客であるアップルの有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)シフトによる、受注の急減だ。能美工場は主に同社向けの液晶パネルを手がける。年内の稼働率は高水準を維持するが、2016年末に白山工場が稼働を始めたこともあり「アップルが有機EL採用スマホを拡充する18年以降は作る製品がなくなる」(業界関係者)。その前に固定費削減に手を打つ。

 新中計は有機ELへの路線変更が軸になるとみられる。ただし量産化に必要な1000億円規模の資金を、どう調達するかは不透明だ。

 その一翼が外部資本の導入だが、相手によっては今後のビジネスモデルにも影響が出るだろう。すでに中国パネルメーカーを中心に複数の企業と交渉を始めているが、さらなる経営スピードの向上が必要になりそうだ。

日刊工業新聞2017年7月28日
鈴木岳志
鈴木岳志 Suzuki Takeshi 編集局第一産業部 編集委員
 JDIの現状は官製再編の結果だが、世界のディスプレー関連業界にとって台湾・鴻海精密工場と傘下のシャープが米国・ウィスコンシン州に大型液晶パネル工場を建設する方がはるかに大きなニュースだっただろう。今年1月のトランプ政権発足以降に鴻海の郭台銘董事長が米国進出の意向を何度 も表明していたが、業界からは懐疑的な意見が多く聞かれた。  液晶関連部材メーカーの幹部に話を振ると、一様に言葉少なめ。さらに突っ込むと「経済合理性からすればNOでしょう」と手厳しい声も。ただ、正式発表に至った。同州はプリーバス首席補佐官や共和党のライアン下院議長の地元であり、経済合理性以外の何かを感じなくもない。  シャープを聖域なき構造改革でV字回復させた郭董事長が経済合理性を軽んじるはずはないと思うが。部材メーカーの話に戻ると、米国進出の可能性を当てたところ「シャープには過去に裏切られた経験があるからなぁ」と渋い表情で返された。

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