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野球を超える野球を創り出す!ハッカソン「超☆野球」

剛速球を投げる装着式アーム、ファンが集うとスタジアムが青く光るデバイス
野球を超える野球を創り出す!ハッカソン「超☆野球」

ベイスターズ岡村社長の剛速球?

 野球を超える野球を創り出す-。横浜DeNAベイスターズと超人スポーツ協会(東京都港区)は新しい野球を開発するハッカソン「超☆野球」を開き、一本背負いの要領で剛速球を投げる装着式アームやファンが集うとスタジアムや飲食店が青く光るデバイスを優秀賞に選んだ。完成度を高めて9-10月に試合やイベントでお披露目する。

 DeNAの南場智子会長や横浜DeNAベイスターズの岡村信悟社長が審査員として参加。技術者や大学生約40人がチームを組んで新しいピッチングや観客席などを開発した。回転数に応じて色が変わる発光球や選手とハイタッチするグローブなど6作品が試作された。

 優秀賞の装着式アームはラクロスのスティックとバネを組み合わせた装置を背負う。両腕でワイヤを操作して片方の手でスティックをしならせて、もう片方の手でスティック振り抜く。背負い投げのような全身運動でボールをうまく投げると剛速球も投げられるようになるはずという。
 現在はボールを放つ瞬間のグリップがコントールできず、狙った場所に投げることは難しい。開発チームの上林功さんは「技術を駆使して時速200キロメートルの球を投げられるようにしたい」という。南場会長は「初めてブルペンで投げてみると18・44メートルが届かない。訓練などに使えるかもしれない」と期待する。

 もう一つの優秀賞はファングッズをテーマに発光デバイスを開発した。ファン同士が近づくと青く光り、スタジアムに近づくほど青い光が強くなっていく。試合開始に向けて青い光が集まる構想だ。
ファンが青い光もって集まるチームの現場

 また試合後は飲食店の看板とデバイスを連動させる。ファンが集まり盛り上がっている店はより青く、静かに試合を振り返りたいファンは看板が青くない店を選ぶという。街灯やタクシーとの連携も構想する。ファンと球団、飲食店などが街の雰囲気を作る試みだ。
 街の装飾は景観条例などが壁になるが、ファンがデバイスをもって集うことは自由だ。東京大学の稲見昌彦教授は「海外では青い照明で飲み屋の売上高が上がるという論文が発表されている。防犯効果も期待される」と太鼓判を押す。ベイスターズの岡村社長は「何らかの形で実現したい」、DeNAの南場会長は「すぐにでもやりたい」と経営陣もゴーサインを出す。

 優秀賞は挑戦的な作品が選ばれた。表彰からは漏れたものの、他のチームの作品にも面白いものが並んだ。バッティングのチームはスイングを強制的に止める電気刺激(EMS)装置を提案した。計測システムで軌道を予測し、ボールになると判定したら腕に電気刺激を与えてスイングを急停止させる。反対にストライクと判定したら、太ももに刺激を与えて強く踏み込ませて打撃を強化する。
 現在は軌道予測とEMSは連動しておらず、人手で電機刺激のタイミングを調整している。ストライクの場合は踏み込みを増強できたが、打った後の走り出しがぎこちなくなっていた。開発チームは「ホームランなら急いで走らなくても大丈夫」という。

 観客席のチームはグランドの振動を客席に伝えた。ホームベースに返ってくる選手の足踏みが客席まで響く。離れた席でも自然に臨場感が高まる。このチームには横浜スタジアムの座席を製造するコトブキシーティング(東京都千代田区)の社員が参加していた。岡村社長は「あとはコトブキさんに安く作ってもらうだけ」と太鼓判。まずはVIP席など、スタジアムに導入される日は遠くない。

 野球ボールのチームは回転数や加速度に応じて色がかわる発光ボールを試作。ベイスターズの木村洋太経営・IT戦略部部長は「色の変化を楽しむところから、子どもがいろんな回転のボールの投げ方を覚えることにつながる」と期待する。
発光ボールの製作現場

 日本は野球経験者は多いが大人になっても続けられる人は多くない。熱心な野球少年も技術者やデザイナーになり、いつのまにかスポーツから離れてしまう。だがハッカソンなどの機会があれば再度野球に関わることができる。観戦とプレーだけでなく、スポーツとの関わり方自体を再開発して新しい価値を提案できる。
(文=小寺貴之)
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小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
「超☆野球」でトップダウンのお墨付きがついたことで、現場は事業化を進めやすくなった。ベイスターズはスタジアムのある横浜公園周辺を、新しいスポーツ産業を生み出す共創の場として街づくりを進める。幅広い職種の人を巻き込んで行く予定だ。

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