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レタス作りで“生産者の顔”「のぞみ畑」はJR東海に何をもたらすのか?

農場長は新幹線の車掌!食の安全徹底、グループ外の高級スーパーにも供給
レタス作りで“生産者の顔”「のぞみ畑」はJR東海に何をもたらすのか?

食の安全性を前面に出す(常滑農場)

 JR東海は、子会社を通じて2010年4月から「のぞみ畑」のブランド名でレタスやトマトなどを出荷している。食の安全・安心への社会的関心が高まる中、当初は自前の農場で高品質な野菜を栽培することによって、グループ内で使う野菜のトレーサビリティー(生産履歴管理)や安全管理を徹底する狙いだった。現在ではグループ外でも一部高級スーパーなどに供給先を広げる。JR東海には、従来の消費者の立場に加え、“生産者”としての顔も備わりつつある。

 【一から習得】
 「レタスの品質の良しあしは、苗の段階である程度分かる」。こう語るのは、JR東海子会社のジェイアール東海商事(名古屋市中村区)の奥埜祥弘常滑農場長。もともとは新幹線の車掌を務める鉄道マンだった。農業事業に関わることとなり、一から知識を習得したという。

 JR東海が農業に乗りだす契機となったのは、食の安全に対する関心の高まり。当時は中国産食品に対する不安により、トレーサビリティーの徹底が求められていた。JR東海は新幹線の車内販売や駅の売店、グループ内のホテル・飲食店などで大量の食品を調達しているため、これらを自社栽培に切り替えることで、安心感をアピールすることにした。

 とはいえ、一体どの野菜をどう栽培すればよいのか。農業に関しては「素人集団」(奥埜農場長)だった。このため茨城県の農業学校で研修するなどしてノウハウを吸収した。「JRの看板を掲げる以上、中途半端なことはできない」(同)。こうした決意のもとに栽培方法などを熟考した結果、グループ内で消費量の多いトマトやレタスなどを「特別栽培農産物」と呼ばれる高品質な水準で栽培することに決めた。

 現在は愛知県常滑市と三重県四日市市に農場があり、JR東海グループの内外に野菜を出荷している。このうち常滑農場では、栽培面積計4600平方メートルの敷地でレタス、トマト、ミニトマトの3種類を作っている。

 【「植物工場」】
 栽培には科学的なアプローチを取る。まず、水耕栽培のレタスは、種から苗に育てる段階で温度管理などを徹底した「植物工場」で育てる。また苗から玉に育成する段階では、鉄分やカリウム、マグネシウムなど18種類の栄養素を検査し、最適な栽培に生かしている。

 「ロックウール」(岩綿)と呼ばれる繊維を使って栽培するトマトやミニトマトの育て方はさらに緻密だ。トマトは、水や肥料のやり方、枝葉の摘み方などにより、木の成長度が異なる。茎が太く成長し過ぎたり、実以外の部分に栄養が行き過ぎたりすると、高品質なトマトは育たない。重要なのは、茎の太さと実の量の二つ。常滑農場では、両指標のバランスを常にチェックしながら、日々の生育方法を柔軟に変えている。

 【収穫量3倍】
 いずれの野菜も、生育の状態を定量的に把握することで、安定生産につながっている。出荷量は明らかにしていないが、ここ5年で「収穫量は当初の2、3倍に増えた」(奥埜農場長)という。
 JRや私鉄各社は地域活性化や高架下の活用といったそれぞれの理由で農業に参入している。競合が多い中、JR東海は、自社栽培による安心感を前面に出すことで、事業を軌道に乗せたい考えだ。最近は「のぞみ畑」ブランドのトマトを使ったスープも売り出すなど、加工食品への展開も始めた。奥埜農場長は、「ニーズが増えれば、今後は新たな品種の栽培にも取り組みたい」と意気込む。
 (文=杉本要)
日刊工業新聞2015年06月08日 モノづくり面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
杉本記者はMRJからレタスまで幅広く取材しています。

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