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三菱重工とIHIの“金のなる木”、ターボチャージャーはどこまで伸びる?

重工は2段階式を開発、燃費さらに改善へ。IHIは北米で相次ぎ受注
三菱重工とIHIの“金のなる木”、ターボチャージャーはどこまで伸びる?

三菱重工の電動2ステージ過給器

 三菱重工業は自動車用の電動2ステージ(2段階)ターボチャージャー(過給器)を開発し、日本と欧州の自動車メーカー合計5社にサンプル出荷を始めた。2020年頃の量産を目指す。従来の排気過給器に、電動過給器のアシストを加えることで、一段の燃費改善を図る。二酸化炭素(CO2)排出規制が強まり、排出ガスの試験方法について世界統一試験サイクル(WLTC)の採用も検討される中、新たな環境技術として注目される。

 電動2ステージ過給器は、排気過給器、電動コンプレッサー、バイパスバルブなどで構成される。従来の排気過給器では、車両発進・加速時などに過給器が性能を発揮するまでの遅延時間(ターボラグ)や排気ガス再循環装置(EGR)の遅れなどが指摘される。モーターの高速応答性を生かすことで、ターボラグを解消。低速性能の改善などを図る。

 社内試験では大・小二つの排気過給器による二段過給システムに比べて約43%の過応答性向上を達成した。また、排気過給器1基を取り付けた排気量1600ccガソリンエンジンと比較して、電動2ステージ過給器搭載エンジンでは、出力を維持したまま排気量を1200cc級へと下げられ、10%程度の燃費改善につながる。

 一般的にエンジンを小排気量化すると、燃費は改善する。出力を落とさず、小排気量化する手法を「ダウンサイジング」と呼び、ガソリン車を中心に広がっている。典型的な走行条件から世界共通の試験サイクルとして導入検討が進むWLTCでは、実際の走行状態を想定し、高負荷・高回転領域での計測が多く、電動2ステージ過給器需要が拡大する契機になる可能性が高い。 

 <関連記事=IHI、米国で攻勢>
 IHIは2016年までに自動車用ターボチャージャー(過給器)の米国生産を現状比6倍の年30万台規模に引き上げる。欧州の大手自動車メーカーがメキシコで立ち上げるエンジン工場向けに受注したもよう。燃費規制強化などを背景に、小型ガソリンエンジン車へのターボチャージャー搭載率は高まっている。IHIは10億円前後を投じて米国工場に組み立てラインを増設。16年度の米国でのターボチャージャーの生産量は過去最高を更新する見通しだ。
 
 IHIは独フォルクスワーゲン(VW)の乗用車用の小型低燃費ガソリンエンジン向けにターボチャージャーを受注したとみられる。「センターセクション」と呼ばれる中核部品をタイ工場から輸出し、生産子会社のIHIターボアメリカ(ITA、イリノイ州)で完成品に組み上げる。
 
 IHIターボアメリカは、米ボルグワーナーとの共同出資会社だったが、90年代に合弁を解消。ピーク時に年15万台を手がけたが、現在は船外機大手のマーキュリーマリン向けのスーパーチャージャーや少量のターボチャージャーなど、年産5万台規模にとどまる。今後はVW向けに加え、米クライスラーの大型乗用車向けのスーパーチャージャーなども受注したようで、生産量が一気に増える。
 
 ターボチャージャーは高圧力の空気をエンジンに供給し、出力向上と高効率化を図る部品。低燃費、排ガス清浄化に貢献する。一般的にディーゼルエンジンに装着されているが、近年の燃費規制強化を受けて、欧州や中国、北米でガソリンエンジンへの装着率が急増している。三菱重工業も近く米国でターボチャージャー工場を稼働する。
 
 IHIは自動車用ターボチャージャーで世界シェア約3割を握る。事業規模は1500億―1600億円とみられ、16年―17年度には2000億円に達する見通しだ。
日刊工業新聞2014年11月03日1面/2015年06月12日1面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
自動車用ターボチャージャーの世界需要は過去10年間で倍増、足元では年間3000万台、7000億円の市場規模とみられる。もともと欧州のディーゼル車向けがけん引していたが、最近はダウンサイジングがトレンドのガソリン車も伸び始めている。2020年までには年5000万台まで成長する見通し。日系2社と、ボルグワーナー、ハネウェルの米国勢を加え4社で世界シェアの約9割を握るとみられる。特に最近は日本メーカーに勢いがある。生産技術を含むノウハウは、なかなか真似できないため、当面は大きな収益源という状況が続きそう。

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