ニュースイッチ

研究開発投資「GDP比1%」実現遠く。18年度予算最後のチャンス?

実用化推進、3年間で9000億円増は叶うか
研究開発投資「GDP比1%」実現遠く。18年度予算最後のチャンス?

ドローンを使った長距離荷物配送(福島県南相馬市での実証)

 内閣府は政府研究開発投資の対国内総生産(GDP)比1%の実現に向けて、公共事業費などの現行予算の取り込みを目指す。現行施策に技術導入予算を追加し、新技術の社会実装を加速する事業に転換させる。2018年度予算の編成に向け、各省庁から施策を募っている。目標投資額は20年度に補正予算を含めて6兆円。毎年3000億円、3年間で9000億円増を目指す。

 政府の研究開発投資は10年以上、3兆5000億円前後で停滞している。内閣府は科学技術基本計画で対GDP比1%を掲げて投資増額を訴えてきたが実現できていない。18年度予算で3000億円の増額を達成できないと、19年度と20年度に4500億円の増額を盛り込む計算になる。18年度予算の攻防は最後の増額チャンスになるかもしれない。勝算はある。内閣府の山脇良雄政策統括官は「18年度は目標達成に向け財務省の合意を得ている」と説明する。
                

 ただ、財務省も財政再建を進めねばならない。科学技術の重要性は共有できているものの、9000億円の純増は簡単ではない。そこで内閣府は新たな手法を打ち出した。例えば10億円の現行施策に1億円の技術導入予算を追加し、既存事業を新技術の社会実装の場に“転換”する格好だ。

 財政難の中、技術導入の追加予算は各省庁にとって希少な予算獲得のチャンスにもなる。内閣府が各省庁に転換策を募っており、7月下旬をめどに初案がそろう見込み。山脇政策統括官は「各省は転換に値する案を出せるか」と気をもむ。

 内閣府は技術導入予算の追加にあたり、当初は橋梁などの公共工事や農業などの施策にIoT(モノのインターネット)やロボットなどの技術導入を想定していた。

 実際に国土交通省と議論すると、こうしたインフラに使用する技術は長期信頼性が確保されていないと採用しにくく、新技術の導入にそぐわない。このため、新築インフラにセンサーなどを組み込むより、測量や点検管理への技術導入が現実的になりそうだ。
                

 公共事業費以外にもさまざまな予算が俎上(そじょう)にのる。例えば医療費。再生医療製品は安全性確認と治療後の追跡検証などを条件に、早期承認する制度が整えられた。技術導入予算を活用して同制度に希少疾患などの新薬を載せ、実社会での治療成績や予後管理のデータを集めて活用。医療の高度化を後押しすることも可能だ。

 政府開発援助(ODA)では従来型のインフラ構築支援に、研究開発と人材育成を加えることもできそうだ。新興国にロボットや人工知能(AI)を組み合わせたインフラを導入し、研究開発などを通じて管理する技術者も育成する。データを日本で解析すればウィンウィンの関係になる。ODAは社会実装やビジネスモデル開発を組み合わせる場にもなる。

 防災でも新技術の災害対応用途と平時用途の両立への活用などが考えられる。物流や警備などに使う飛行ロボット(ドローン)に防災機能を組み込めば購入額を補助するなど、災害対応用途と平時用途が両立に役立つかもしれない。

 だがすぐに“転換”できる事業は国内施策や技術マネジメントが確立した施策に限られる。国土交通省の国土技術政策総合研究所など研究組織をもつ省庁は力があるが、技術的な後ろ盾のない省庁の施策が課題だ。

 また内閣府が掲げる政府研究開発投資目標の3000億円は、科学技術振興機構(JST)の業務経費1079億円と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の業務費1464億円を合わせた金額よりも大きい。

 社会実装は研究開発よりも進捗(しんちょく)管理が難しく、技術全般をマネジメントできる組織は限られる。現行施策を運用する組織と技術戦略にたけた組織が連携する必要がある。実現すれば、19年度や20年度の“転換”に弾みがつく。
鹿島は自動振動ローラーを使った自動化施工を実用化させる

(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2017年7月10日「深層断面」から抜粋
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
 鹿島の自動化施工は実用化されて事業ステージにあります。この技術は国交省の公共事業で育ちました。九州地方整備局の大分川ダムでは建機の自動化以外にもコンクリート打設などの現場実証を重ねています。内閣府の「転換」はただの予算の付け替えになるのではないかという懸念があります。これを防ぐには科学技術を俯瞰する組織の監督があった方が良く、民間やNEDO、JST、各省庁管轄の研究所が候補です。各研究機関は民間企業に勝る管理・監督機能が求められます。  またODAでIoT化したインフラ輸出が実現すれば、データは日本で解析してAIを随時更新。交通システムなら渋滞緩和効果に応じて通行料収入の一部を対価としてもらうなどビジネスモデルも開発できます。インフラ輸出とデジタル化は日立などが得意とするところで、NEDOとの相性が良いように思います。

編集部のおすすめ