沖縄の経済特区、製造業誘致が好調 長期的成功には課題も
沖縄県の翁長雄志知事は6月、うるま市の経済特区に立地する精密機械部品や医療機器、医薬品の開発メーカーのほかIT企業を訪問した。そこで「開発型企業が育ち集積している」と企業誘致への手応えをみせた。航空物流網のハブ拠点化や特区制度を武器に、アジアの中心という立地で経済振興を図る沖縄。製造業の立地が進む一方、長期的成功に向けた課題ものぞく。
沖縄県中部・中城湾の埋め立て地にある経済特区「国際物流拠点産業集積地域うるま・沖縄地区」。法人所得40%控除を始めとした税制優遇や補助制度を目玉に、県が製造業や輸出型産業の誘致を進めている。
中でも旧特別自由貿易地域と呼ばれるエリアは、県が工場適地としての分譲地や国の一括交付金を活用した賃貸工場を整備している。1999年に1社目が立地して以来、17年1月時点の立地企業数は過去最高の58社に達した。雇用者数は860人に上る。
賃貸工場は床面積で約200―4800平方メートルの規模。少量多品種での生産や研究開発から、事業化へスケールアップする受け皿として活用されている。投資抑制や稼働までの速さが強みだ。
製造品目は機械や精密部品、食品、衣料品とすそ野が拡大した。立地企業は「数字が統計に載るようになった」と喜ぶ。沖縄で製造されていなかった品目が、自社の生産活動により変化したためだ。特に半導体関連の製品や部品で進展が目立つ。
「航空貨物の主流である電子機器や部品が、沖縄からも輸出貨物として発送されるようになってきた」と力を込めるのはANAカーゴ沖縄統括支店の高濱剛司支店長だ。
那覇空港ではANAホールディングス(HD)の貨物事業子会社・ANAカーゴ(東京都港区)が、国内と東・東南アジアを約4時間圏内で結ぶ貨物網を構築している。そこでは沖縄をハブ拠点に夜間の輸送と通関を生かし、輸出入のリードタイムを短縮する。
県は航空貨物のスペースを確保する形で、立地企業など荷主の輸送費を補助する。補助実績では、輸送品金額ベースで月額合計2000万―9000万円の製品が、15年末から頻繁に輸出され始めた。主にうるま市の特区で製造された、半導体の検査機器や製造装置だ。
補助はあるものの、船便の約10倍の輸送費をかけても利益を出せる付加価値を持つ製品の輸出が軌道に乗り始めている。
高付加価値のモノづくりは県の経済振興の柱の一つ。15年度にまとめられた「県アジア経済戦略構想」では、物流・観光・航空の3本柱に、モノづくり・ITの2本柱で横串を刺すイメージを掲げる。16年度から実施計画に基づき個別事業が予算執行され、同時にPDCAサイクルを回すための推進・検証委員会を置いた。
17年度は「新しいものづくり」についての専門部会を新設。付加価値創出やアジア展開、再生医療などと絡めた製造業の振興を推進する。同時に立地企業と地場企業との連携強化がテーマに挙がる。コスト抑制や地域振興の面から、地域内での調達を検討する立地企業は多い。だが立地は進む半面、連絡協議会などはなく情報交換や交流は一部にとどまる。
また「何をつくるか」という大きなビジョンの中で、サプライチェーンの欠けたピースを埋める戦略的誘致も求められる。これまで金型分野では研究センター設置や関連企業の積極誘致により、地場企業への成果移転など結果が出ている。その成功モデルを別の分野にも広げるべきだ。
例えば航空機整備。18年度をめどにANAHDの整備事業が伊丹空港から那覇空港に移管される。製造関連にどれだけの波及効果があるかまだ不明だが、取り込む価値は大きい。
このほか健康・医療やスポーツなど、観光と絡めた産業振興が期待される分野にもモノづくりが関与できる余地は広い。
人材の課題もある。人材市場の規模としては問題はない。むしろ工業系の受け皿が少ないために、県外や他業種へ流出している状況だ。しかし「工業高校の進路担当教諭が県内の立地状況を知らない」(立地企業の担当者)など、県内での製造業立地に対する認知が進んでおらず、マッチングがうまくいっていない面がある。
また県外からのマイナスイメージを拭い去ることも不可欠だ。順調に業容を拡大する企業ほど、現地採用者のまじめな気質や改善意識への取り組みなどを評価する。一方で「立地前は不安だった」という機械メーカー経営者もいる。「沖縄の人は働かない」という固定概念の強さから立地をためらうケースは少なくない。
企業誘致への逆風もある。沖縄振興特別措置法に基づく特区税制は、延長期間が19年3月までの2年間とされた。これまで5年単位で延長されてきただけに、誘致の訴求力低下は否めない。内閣府や県は制度活用を促すため相談窓口を設置。税理士の配置など、制度利用率を上げて再延長につなげる構えだ。
一般的に補助制度に否定的な見方もある。だが「製造業不毛の地」とも言われた沖縄に先端的なモノづくりが根付くには支援は必要だ。重要なのは「ばらまき」ではなく投資として沖縄がリターンを受け取れる仕組みづくりだ。
家は柱だけでは丈夫にならない。製造業がITともシナジーを高める形で、横串という“梁(はり)”になって、沖縄の屋台骨を支える必要がある。
機械・精密部品など品目拡大
沖縄県中部・中城湾の埋め立て地にある経済特区「国際物流拠点産業集積地域うるま・沖縄地区」。法人所得40%控除を始めとした税制優遇や補助制度を目玉に、県が製造業や輸出型産業の誘致を進めている。
中でも旧特別自由貿易地域と呼ばれるエリアは、県が工場適地としての分譲地や国の一括交付金を活用した賃貸工場を整備している。1999年に1社目が立地して以来、17年1月時点の立地企業数は過去最高の58社に達した。雇用者数は860人に上る。
賃貸工場は床面積で約200―4800平方メートルの規模。少量多品種での生産や研究開発から、事業化へスケールアップする受け皿として活用されている。投資抑制や稼働までの速さが強みだ。
製造品目は機械や精密部品、食品、衣料品とすそ野が拡大した。立地企業は「数字が統計に載るようになった」と喜ぶ。沖縄で製造されていなかった品目が、自社の生産活動により変化したためだ。特に半導体関連の製品や部品で進展が目立つ。
「航空貨物の主流である電子機器や部品が、沖縄からも輸出貨物として発送されるようになってきた」と力を込めるのはANAカーゴ沖縄統括支店の高濱剛司支店長だ。
那覇空港ではANAホールディングス(HD)の貨物事業子会社・ANAカーゴ(東京都港区)が、国内と東・東南アジアを約4時間圏内で結ぶ貨物網を構築している。そこでは沖縄をハブ拠点に夜間の輸送と通関を生かし、輸出入のリードタイムを短縮する。
県は航空貨物のスペースを確保する形で、立地企業など荷主の輸送費を補助する。補助実績では、輸送品金額ベースで月額合計2000万―9000万円の製品が、15年末から頻繁に輸出され始めた。主にうるま市の特区で製造された、半導体の検査機器や製造装置だ。
補助はあるものの、船便の約10倍の輸送費をかけても利益を出せる付加価値を持つ製品の輸出が軌道に乗り始めている。
付加価値創出へ専門部会
高付加価値のモノづくりは県の経済振興の柱の一つ。15年度にまとめられた「県アジア経済戦略構想」では、物流・観光・航空の3本柱に、モノづくり・ITの2本柱で横串を刺すイメージを掲げる。16年度から実施計画に基づき個別事業が予算執行され、同時にPDCAサイクルを回すための推進・検証委員会を置いた。
17年度は「新しいものづくり」についての専門部会を新設。付加価値創出やアジア展開、再生医療などと絡めた製造業の振興を推進する。同時に立地企業と地場企業との連携強化がテーマに挙がる。コスト抑制や地域振興の面から、地域内での調達を検討する立地企業は多い。だが立地は進む半面、連絡協議会などはなく情報交換や交流は一部にとどまる。
また「何をつくるか」という大きなビジョンの中で、サプライチェーンの欠けたピースを埋める戦略的誘致も求められる。これまで金型分野では研究センター設置や関連企業の積極誘致により、地場企業への成果移転など結果が出ている。その成功モデルを別の分野にも広げるべきだ。
例えば航空機整備。18年度をめどにANAHDの整備事業が伊丹空港から那覇空港に移管される。製造関連にどれだけの波及効果があるかまだ不明だが、取り込む価値は大きい。
このほか健康・医療やスポーツなど、観光と絡めた産業振興が期待される分野にもモノづくりが関与できる余地は広い。
人材確保、認知向上カギ
人材の課題もある。人材市場の規模としては問題はない。むしろ工業系の受け皿が少ないために、県外や他業種へ流出している状況だ。しかし「工業高校の進路担当教諭が県内の立地状況を知らない」(立地企業の担当者)など、県内での製造業立地に対する認知が進んでおらず、マッチングがうまくいっていない面がある。
また県外からのマイナスイメージを拭い去ることも不可欠だ。順調に業容を拡大する企業ほど、現地採用者のまじめな気質や改善意識への取り組みなどを評価する。一方で「立地前は不安だった」という機械メーカー経営者もいる。「沖縄の人は働かない」という固定概念の強さから立地をためらうケースは少なくない。
企業誘致への逆風もある。沖縄振興特別措置法に基づく特区税制は、延長期間が19年3月までの2年間とされた。これまで5年単位で延長されてきただけに、誘致の訴求力低下は否めない。内閣府や県は制度活用を促すため相談窓口を設置。税理士の配置など、制度利用率を上げて再延長につなげる構えだ。
一般的に補助制度に否定的な見方もある。だが「製造業不毛の地」とも言われた沖縄に先端的なモノづくりが根付くには支援は必要だ。重要なのは「ばらまき」ではなく投資として沖縄がリターンを受け取れる仕組みづくりだ。
家は柱だけでは丈夫にならない。製造業がITともシナジーを高める形で、横串という“梁(はり)”になって、沖縄の屋台骨を支える必要がある。
日刊工業新聞2017年7月3日