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九州南部に新たな地銀グループ誕生へ

肥後銀と鹿児島銀、産業の新陳代謝につながるか!
九州南部に新たな地銀グループ誕生へ

地銀再編に前向きの金融庁と経産省


 肥後銀行と鹿児島銀行は、2015年10月1日の経営統合で設立する持ち株会社名を「九州フィナンシャルグループ」に決めた。社長には上村基宏鹿児島銀行頭取が就き、会長には甲斐隆博肥後銀行頭取が就任する。持ち株会社の登記上の本店は鹿児島市に、本社機能は熊本市に置く。統合により営業基盤や地域金融機能を拡充し、経営を効率化する。
 グループ規模は14年12月末時点で、総資産8兆5982億円。預金残高7兆5908億円、貸出金残高5兆2595億円。
 地域活性化や広域化、国際化など五つの営業戦略を両行で展開する。20年度、預金残高9兆円以上、貸出金残高6兆5000億円以上、業務純益450億円以上を目指す。

日刊工業新聞2015年03月30日列島ネット面

◆地銀再編、産業集積が引き金◆
“地の利”活用、境界越え連携 
 「バブル経済崩壊でも進まなかった『地方銀行の再編』が本当に始まるのか」。ある大手都市銀行の関係者は、立て続けに打ち出されている地銀の経営統合や、共同持ち株会社設立の表明といった動きに“疑問符”も込めてこう感想を漏らす。確かにバブル崩壊で再編を進めた中心的存在は大手銀行だった。ただ、今回の地銀再編は伝統的な業務である貸し出しの量を増やすビジネスモデルが、少子高齢化や日銀の低金利政策、企業の商圏拡大といった構造変化で通用しなくなっていることが背景にある。バブル経済を支えとした過剰融資の損失などから、経営の立て直しを迫られた1990年代当時とは再編の前提条件が異なる。

 【大手行は手薄】
 地域経済や企業を支える地銀は大小合わせ約100行。大手行では手薄になる、中小企業などと密接な関係を築ける強みとその存在意義は、今後も変わることはないだろう。ただ、地銀自身、政府が推し進める「産業の新陳代謝」を実践することで、産業構造の転換を体現し中長期で生き残りを模索する必要に迫られている。そのことが「“一国一城の主”意識が強かった」(関東地方の地銀首脳)地銀に再編を決断させている。

 地銀が自ら新陳代謝を推し進めるもう一つの要因は、顧客の中小など企業を囲い込む競争が、販路拡大や技術の橋渡しといった「金利以外のビジネス」に広がっていることがある。こうした分野で競争力を高めようとすれば、“地域の盟主”として企業を支える金融ビジネスだけでは、おのずと限界がある。産業や技術の成長性を把握し、適切なリスクを取って企業に資金を供給できる高度な目利き力が求められる。

 【政府も前向き】
 企業とのネットワークを基盤とする「ビジネスマッチング」は3大銀行グループ(3メガバンク)や、りそなグループといった大手行が得意とする。また、産業の中心的存在となる大手企業の本社や主力工場、政府の研究機関などを抱える一部地域の地銀も強みを発揮できる。例えば、日立製作所コマツなどを抱える茨城県、工業地帯である川崎市、トヨタ自動車のお膝元である中部といった地域。トヨタがサプライチェーンに組み込もうとしている東北も重要地域の一つ。

 地銀再編の経営判断では、こうした産業集積がトリガーの一つになりそうだ。地銀を「地域経済の担い手」と位置付ける経済産業省は、営業地域の境界を越えた地の利を生かす連携が、産業の新陳代謝の本格的な実現力になると見ている。銀行を監督する金融庁も、担保力の足りない企業に特許や事業性を評価して資金供給する手法の研究を進めている。金融庁、経産省とも地域産業の基盤固めで力となる地銀再編に前向きの考えだ。

 地域経済の発展と金融機関の生き残りはコインの表と裏。日本経済を支える中小の新陳代謝を促す役割を果たせるかどうかは、地域に根ざす地銀が再編も選択肢の一つとして新たな成長のビジネスモデルを描けるかどうかにかかっている。
日刊工業新聞2014年12月10日 金融面
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
九州の地銀再編に新たな役者。これまで九州北部に「主役級」が集まっていましたが、南部にも存在感あるプレーヤーが登場しました。

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