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富士フイルムHD会長「リーダーが負けたら会社は終わり」

不適切会計受け古森氏が富士ゼロックスの会長を兼務
富士フイルムHD会長「リーダーが負けたら会社は終わり」

会見冒頭で謝罪する助野社長(中央)

 富士フイルムホールディングス(HD)は12日、富士ゼロックスの子会社で発覚した不適切な会計問題を受け、富士ゼロックスの山本忠人会長ら役員6人が退任すると発表した。栗原博社長は続投する。富士フイルムHDの古森重隆会長兼最高経営責任者(CEO)が富士ゼロックス会長を兼務し、富士フイルムHDとして盤石なガバナンス体制を構築する。

 富士フイルムHDの助野健児社長兼最高執行責任者(COO)は同日の会見で「富士ゼロックスは事業規模も大きく、経営の自主性を尊重してきた。それが裏目に出た」と説明した。対策として富士フイルムHDが古森会長ら取締役・監査役7人を派遣、富士ゼロックスの経営体制を一新する。古森会長と助野社長が4月から3カ月間、役員報酬を10%返上することも決めた。

 2010―15年度に富士ゼロックスのニュージーランドと豪州の販売子会社が手がけた複合機リース取引で、計375億円の損失が発生した。両社は売り上げ規模を報酬に直結させる仕組みを導入しており、これが不適切な会計を招いた疑いがある。助野社長は「計画の達成は重要だが、不正をしないのがイロハのイだ」と述べた。

 同日、延期していた17年3月期連結決算(米国会計基準)も発表。営業利益は前期比1・0%減の1722億円、当期利益は同18・0%増の1315億円だった。過年度の決算も訂正する方針。定時株主総会は予定通り29日に開く。

適切な管理体制の整備と運用が課題


 決算情報は株主や債権者などのステークホルダーにとって重要な開示情報の一つだ。その開示の遅延は企業の信頼性そのものを失墜しかねない。

 富士フイルムホールディングス(HD)、昭和電工東芝など大手企業による決算遅延はいずれもグループ会社の不適切な経理が原因だ。

 近年、日本企業は買収で事業が大規模化・複雑化してきたため、「規模の拡大に管理が追いついていない」(証券アナリスト)ことが情報開示にも影響している可能性がある。

 ただ、ガバナンス向上を目的とした過度な統制強化は、グループ会社側の意思決定を遅らせる課題もある。グローバル化で企業経営は今後もますます複雑化していく。改めて、情報開示を含めた経営品質という側面から、適切な管理体制の整備とその運用が日本企業で課題になっている。

日刊工業新聞2017年6月13日



古森CEOが語るリーダー論


富士フイルムHDの古森重隆会長兼CEO

 「打ちたい手がまだ三つ、四つある」―。富士フイルムホールディングス(HD)は写真フィルム市場の消失という危機を乗り越え、高機能材料や医薬・医療機器など複数領域で存在感を放つまでに成長した。会長兼最高経営責任者(CEO)の古森重隆氏は、それでも変革に挑む姿勢を崩さない。最近は医薬・医療機器から再生医療まで含めたヘルスケア分野のM&A(合併・買収)で注目される。同分野で掲げる目標は2018年度に売上高1兆円(15年度比2・3倍)。「企業は満足したら駄目。常に技術を磨き、社会に貢献し続ける」という古森スピリットが強く息付く。

 ―攻めの経営を貫いてきました。20年後、30年後の姿をどう描いていますか。
 「写真フィルム事業を失った当時に比べれば立て直したが、新たに仕込んだ領域やまだ成果を出せていない分野が多くある。例えば材料技術を生かせる高機能材料やヘルスケア事業は、もっと花開くはずだ。人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)への対応も進める。すべて整えば、5年後に売上高で3兆円以上、営業利益率10%という次の段階も視野に入る」

 ―写真フィルム技術の本質を深耕し、事業を広げてきました。
 「この先も確かな可能性を持っている。潜在的、または蓄積した技術力だけでなく、新たなことに挑戦し続けてきた企業文化も強みだ。深掘りした技術力で、他には作れないモノを仕上げる姿勢が根付いている。あとはいつ、どう展開するか。M&A(合併・買収)など投資を含め、どの技術を切り口として蓄えるべきかを決めるのが経営の役割だ」

 ―リーダーに必要な資質は何でしょうか。
 「まず社会や会社に対する使命感。全体のためにやる気持ちがないとダメだ。事業環境がめまぐるしく変わる今は、情報への感度も大切。その中で現状を捉え、針路を決める判断力も欠かせない。もしリスクを伴うなら、決断に耐えうる胆力も必要だろう。社内に方向性を示す能力や実行力、全体を引っ張っていく腕力もいる」

 ―判断を誤る恐れもありますね。
 「常にあるが、リーダーが負けたら会社は終わり。だから、業態転換に取り組んだ社長時代は絶対に間違えない、負けないと必死だった。神様のように正しい判断ができたらどんなに良いかとすら思ったよ。ただ思い返せば、私は経営者としてはとても幸せだ。本業を失うという機会に巡り合える経営者は、そうはいないから」

 ―後継者育成の手応えは。
 「役員から管理職まで成長している。6月に社長兼最高執行責任者(COO)に就いた助野君も、社長として確実に力を付けつつある。いずれは最高経営責任者(CEO)としても育つだろう。企業として満足できるゴールはないが、後を託そうと考えている時機はある。でも今は、やるべきことがたくさんある。もっと良い会社にしたいし、もっと良いモノを送り出したい」

日刊工業新聞2016年11月29日

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
昨日の会見には出でこなかった古森氏。古森氏のリーダーシップを疑う余地はなく、企業をドライブさせたのまは間違いない。優良企業のイメージが強かった富士フイルムHD。そのガバナンスの中で「忖度文化」などはなかったか。昨年11月に掲載した古森さんのインタビューを紹介するが、改めて古森さんの言葉で聞いてみたい。

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