いでよ!野心的な地方ベンチャー。どこに本社があるかはその会社のビジョンだ
武蔵野銀行は地域創生ファンド設立へ。地銀や自治体などが手厚い起業支援
武蔵野銀行は国が進める「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に対応し、ぶぎんキャピタル(さいたま市大宮区)と共同で「むさしの地域創生推進ファンド」を8月3日に設立する。株式による出資を投資形態とし、ファンド総額は5億円。設定期間は2026年12月までの約10年。
ファンドの正式名称は「むさしの地域創生推進ファンド投資事業有限責任組合」。投資先は地域創生や地域活性化につながる事業に取り組む企業や医療・福祉、インバウンド消費につながる観光企業などが対象。創業や新事業支援だけでなく、県で主導する「先端産業創造プロジェクト」など技術育成も狙う。
<関連記事=地方ベンチャーが新しい働き方の見本に>
ITバブル以来、ほぼ15年ぶりのベンチャーブームが再来している。起業支援を重視する政府方針に加え、金融緩和による資金余剰もベンチャーキャピタル(VC)による投資増をもたらしている。ただ、リスクマネーの行き先は首都圏企業が中心で、起業まもない地方企業の発掘や成長支援の余地は大きい。地域密着型の企業が手がける事業や技術革新は新たな産業や雇用創出の原動力。政権が掲げる地方創生にも直結することから、官民あげて地方発ベンチャーを後押しする動きが広がっている。
【地域経済に活力】
3月13日―。東京都港区の虎ノ門ヒルズに全国のベンチャー企業35社が集まった。新日本有限責任監査法人が地方企業と首都圏企業による交流の場を作り出そうと開催したマッチングイベント。ソフトウエア開発から医療・福祉、最先端のバイオ技術を持つ企業など参加企業の業種はさまざまで、一様に全国への販路拡大や技術の売り込みを狙っている。
飲食店や商業施設で外国人観光客向けに多言語でのメニュー対応を可能にするスマートフォンアプリを開発するエスプランニング(札幌市)の福西伸康社長は「日本の“おもてなし”に一役買いたい」と激戦区である首都圏での販路開拓に挑む。次世代技術で事業拡大を狙うのはプラズマイオンアシスト(京都市)。高導電性のDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)技術を生かした燃料電池部品製造に取り組む同社にとって大手企業との技術連携が目下の課題。「新事業として早く軌道に乗せたい」(鈴木洋和取締役)と話す。
新日本有限責任監査法人にとって地方の成長予備軍は将来の収益源。「技術やノウハウを市場につなぐ後押しを通じて成長企業を生み出す」(企業成長サポートセンターの新居幹也IPOグループ統括)狙いだ。
【15年ぶりのブームも−VC投資、首都圏中心】
ベンチャーエンタープライズセンター(VEC)によると、13年度のVC投融資額は1818億円で前年度を約8割上回り、09年度を底に回復基調が鮮明になっている。ただ、投資先企業の地域分布をみると、金額ベースで全体の7割が首都圏および近畿に集中しているのが実情だ。
ネットワーク技術の進展に伴い、必ずしも都市部に拠点を構える必要がない業種、業態を中心に地方での起業・創業が広がりつつある一方、資金面での環境整備は途上にある。地方のベンチャー企業にとって資金調達手段はいまだ銀行融資が主流で、支援体制が整っていないことが企業成長を困難にしている。伝統的な中小企業であれば長年の取引を背に融資を受けられる可能性が高いが、新技術やノウハウを武器にこれまでなかった事業に挑むベンチャー企業は「金融機関との関係を構築することが難しい」。
若手経営者の1人は「地方ではベンチャーエコシステム(ベンチャーを次々輩出する資金循環)が周回遅れにも達していない」と指摘。地方の魅力を固定費の安さだけに見いだすビジネスモデルだけでなく、地域外から稼ぐ企業をVCが積極評価する仕組みを待望する。政府が地方創生の原動力として、地方での起業・創業を重視するのであれば、国が都道府県に資金を貸し付ける地域ファンドなどの一層の活用を含め、リスクマネーを地方企業に振り向ける方策を検討するべきだ。
むしろ先行するのは企業側の意識だ。宮崎県で1000人の雇用創出を目指す、ネットショップ構築企業アラタナ(宮崎市)の土屋有執行役員はこう語る。「ベンチャー企業の存在が見えにくい地元の若者に僕たちのような働き方を見せることも、地方に立地する企業の役割ではないか」。
【企業支援で自治体連携】
「起業支援策の充実」を掲げる自治体連携による取り組みも始まっている。2013年末に発足した「スタートアップ都市推進協議会(会長=高島宗一郎福岡市長)」には三重県、広島県、千葉市など3県5市が参加。それぞれの地域のベンチャー企業を大企業や投資家とつなぐマッチング事業を共同で実施するほか、規制緩和や税制措置など必要な施策を国に提言することを目指している。
18日に同協議会がトーマツベンチャーサポート(東京都千代田区)と都内で開催したイベントのテーマは「ベンチャー企業が創る地方の未来」。協議会メンバーの1人である横須賀市の吉田雄人市長が「企業集積のあり方を変えていく」と、IT分野での起業や新事業を積極支援する「ヨコスカバレー構想」について熱弁を振るったのに続き、実際に地方に本社や拠点を構えて事業展開する若手経営者が、それぞれの地域に根ざすまでの軌跡や事業にどのような「好循環」をもたらしているのか議論が交わされた。
故郷の徳島県美波町に本社を移したIT企業、サイファー・テックの吉田基晴社長は首都圏では困難だった人材獲得が拠点移転のきっかけとした上で、「地方では小さな会社でもコミュニティーの中での“役目”がある。それが仕事だけでは得られない充足感につながっている」と振り返る。
14年末に東証マザーズに上場し、神奈川県鎌倉市初の上場企業としても話題を集めた異色のウェブ制作会社、カヤックの柳澤大輔最高経営責任者(CEO)も「自治体は税制優遇で企業誘致を競い合うより、地元企業を地域と積極的に関わらせる方が移転後の定着につながる」と指摘。その同社はいま、「カマコンバレー」と呼ぶ地元IT関連企業による地域活性化に取り組んでいる。
【受注機会拡大へ、政府調達を促進】
14年末にまとまった地方創生へ向けた政府の総合戦略では地域経済を活性化していくため、「包括的な創業支援」が盛り込まれた。ビジネスマッチングの促進や創業マインドの向上など施策そのものに目新しさはないが唯一、事業に直結する施策として期待されるのが政府調達の促進を通じた中小・ベンチャー支援だ。
政府が今通常国会での成立を目指す「中小企業需要創生法案」は、中央省庁や独立行政法人が公共事業を発注する際や物品・サービスを調達する際に、創業10年未満の中小・ベンチャー企業の受注機会が増えるよう配慮するもの。事業実績の乏しさがネックとなって受注機会が限られる企業の事業拡大を後押しする狙いだ。契約目標の設定や実際にどのような措置を講ずるかは今後策定する基本方針で定めることにしているが、経済産業省では「発注者としての政府はベンチャー企業にとって顧客。まずは隗(かい)より始めよだ」としている。
ファンドの正式名称は「むさしの地域創生推進ファンド投資事業有限責任組合」。投資先は地域創生や地域活性化につながる事業に取り組む企業や医療・福祉、インバウンド消費につながる観光企業などが対象。創業や新事業支援だけでなく、県で主導する「先端産業創造プロジェクト」など技術育成も狙う。
<関連記事=地方ベンチャーが新しい働き方の見本に>
ITバブル以来、ほぼ15年ぶりのベンチャーブームが再来している。起業支援を重視する政府方針に加え、金融緩和による資金余剰もベンチャーキャピタル(VC)による投資増をもたらしている。ただ、リスクマネーの行き先は首都圏企業が中心で、起業まもない地方企業の発掘や成長支援の余地は大きい。地域密着型の企業が手がける事業や技術革新は新たな産業や雇用創出の原動力。政権が掲げる地方創生にも直結することから、官民あげて地方発ベンチャーを後押しする動きが広がっている。
【地域経済に活力】
3月13日―。東京都港区の虎ノ門ヒルズに全国のベンチャー企業35社が集まった。新日本有限責任監査法人が地方企業と首都圏企業による交流の場を作り出そうと開催したマッチングイベント。ソフトウエア開発から医療・福祉、最先端のバイオ技術を持つ企業など参加企業の業種はさまざまで、一様に全国への販路拡大や技術の売り込みを狙っている。
飲食店や商業施設で外国人観光客向けに多言語でのメニュー対応を可能にするスマートフォンアプリを開発するエスプランニング(札幌市)の福西伸康社長は「日本の“おもてなし”に一役買いたい」と激戦区である首都圏での販路開拓に挑む。次世代技術で事業拡大を狙うのはプラズマイオンアシスト(京都市)。高導電性のDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)技術を生かした燃料電池部品製造に取り組む同社にとって大手企業との技術連携が目下の課題。「新事業として早く軌道に乗せたい」(鈴木洋和取締役)と話す。
新日本有限責任監査法人にとって地方の成長予備軍は将来の収益源。「技術やノウハウを市場につなぐ後押しを通じて成長企業を生み出す」(企業成長サポートセンターの新居幹也IPOグループ統括)狙いだ。
【15年ぶりのブームも−VC投資、首都圏中心】
ベンチャーエンタープライズセンター(VEC)によると、13年度のVC投融資額は1818億円で前年度を約8割上回り、09年度を底に回復基調が鮮明になっている。ただ、投資先企業の地域分布をみると、金額ベースで全体の7割が首都圏および近畿に集中しているのが実情だ。
ネットワーク技術の進展に伴い、必ずしも都市部に拠点を構える必要がない業種、業態を中心に地方での起業・創業が広がりつつある一方、資金面での環境整備は途上にある。地方のベンチャー企業にとって資金調達手段はいまだ銀行融資が主流で、支援体制が整っていないことが企業成長を困難にしている。伝統的な中小企業であれば長年の取引を背に融資を受けられる可能性が高いが、新技術やノウハウを武器にこれまでなかった事業に挑むベンチャー企業は「金融機関との関係を構築することが難しい」。
若手経営者の1人は「地方ではベンチャーエコシステム(ベンチャーを次々輩出する資金循環)が周回遅れにも達していない」と指摘。地方の魅力を固定費の安さだけに見いだすビジネスモデルだけでなく、地域外から稼ぐ企業をVCが積極評価する仕組みを待望する。政府が地方創生の原動力として、地方での起業・創業を重視するのであれば、国が都道府県に資金を貸し付ける地域ファンドなどの一層の活用を含め、リスクマネーを地方企業に振り向ける方策を検討するべきだ。
むしろ先行するのは企業側の意識だ。宮崎県で1000人の雇用創出を目指す、ネットショップ構築企業アラタナ(宮崎市)の土屋有執行役員はこう語る。「ベンチャー企業の存在が見えにくい地元の若者に僕たちのような働き方を見せることも、地方に立地する企業の役割ではないか」。
【企業支援で自治体連携】
「起業支援策の充実」を掲げる自治体連携による取り組みも始まっている。2013年末に発足した「スタートアップ都市推進協議会(会長=高島宗一郎福岡市長)」には三重県、広島県、千葉市など3県5市が参加。それぞれの地域のベンチャー企業を大企業や投資家とつなぐマッチング事業を共同で実施するほか、規制緩和や税制措置など必要な施策を国に提言することを目指している。
18日に同協議会がトーマツベンチャーサポート(東京都千代田区)と都内で開催したイベントのテーマは「ベンチャー企業が創る地方の未来」。協議会メンバーの1人である横須賀市の吉田雄人市長が「企業集積のあり方を変えていく」と、IT分野での起業や新事業を積極支援する「ヨコスカバレー構想」について熱弁を振るったのに続き、実際に地方に本社や拠点を構えて事業展開する若手経営者が、それぞれの地域に根ざすまでの軌跡や事業にどのような「好循環」をもたらしているのか議論が交わされた。
故郷の徳島県美波町に本社を移したIT企業、サイファー・テックの吉田基晴社長は首都圏では困難だった人材獲得が拠点移転のきっかけとした上で、「地方では小さな会社でもコミュニティーの中での“役目”がある。それが仕事だけでは得られない充足感につながっている」と振り返る。
14年末に東証マザーズに上場し、神奈川県鎌倉市初の上場企業としても話題を集めた異色のウェブ制作会社、カヤックの柳澤大輔最高経営責任者(CEO)も「自治体は税制優遇で企業誘致を競い合うより、地元企業を地域と積極的に関わらせる方が移転後の定着につながる」と指摘。その同社はいま、「カマコンバレー」と呼ぶ地元IT関連企業による地域活性化に取り組んでいる。
【受注機会拡大へ、政府調達を促進】
14年末にまとまった地方創生へ向けた政府の総合戦略では地域経済を活性化していくため、「包括的な創業支援」が盛り込まれた。ビジネスマッチングの促進や創業マインドの向上など施策そのものに目新しさはないが唯一、事業に直結する施策として期待されるのが政府調達の促進を通じた中小・ベンチャー支援だ。
政府が今通常国会での成立を目指す「中小企業需要創生法案」は、中央省庁や独立行政法人が公共事業を発注する際や物品・サービスを調達する際に、創業10年未満の中小・ベンチャー企業の受注機会が増えるよう配慮するもの。事業実績の乏しさがネックとなって受注機会が限られる企業の事業拡大を後押しする狙いだ。契約目標の設定や実際にどのような措置を講ずるかは今後策定する基本方針で定めることにしているが、経済産業省では「発注者としての政府はベンチャー企業にとって顧客。まずは隗(かい)より始めよだ」としている。
日刊工業新聞2015年03月23日 中小・ベンチャー・中小政策面/06月09日 列島ネット面