【DRC Finals 現地レポート・総括】なぜ日本は上位に入れなかったのか?
非二足歩行が快走した理由と見えてきた課題
【カリフォルニア(米国)=昆梓紗】米国防高等研究計画局(DARPA)の原発・災害対応ロボット競技会「DARPAロボティクスチャレンジ ファイナル2015(DRC)」が5―6日、米カリフォルニア州で開催された。出場した23チームのうち、韓国科学技術院チームが優勝し、日本勢4チームは最高10位だった。汎用性の高いヒト型ロボットを使用し、人間と同じ環境、道具で課題をこなす競技。ロボットのハード、ソフト両面や運用など総合的な完成度が問われた。
優勝の韓国チーム「それでも日本のロボットは技術的に素晴らしい」
競技は災害現場を想定し、60分間で八つの課題に連続して挑戦。達成した課題数と所要時間により順位を決めた。優勝した韓国科学技術院「KAIST」チームは競技内容を細かく研究し、DRC仕様のロボットを作り込んできた。課題によって体勢を柔軟に変形させ、素早く競技を進めた。代表の呉俊鎬(オ・ジュンホ)教授は「日本や米国のロボットは技術的に優れ、素晴らしい。ロボット先進国と肩を並べられてうれしい」と話した。
2位の米フロリダ州研究機関のチーム「IHMC Robotics」は初日、動き始めに時間がかかったが、その後はスムーズに課題をこなしていった。チーム代表のジェリー・プラット氏は「テストではあまり失敗したことがなかったが、本番では2回転倒してしまった。耐久性の高さでカバーできた。チームメンバーにも恵まれた」と振り返る。
1日目に1位だった米カーネギーメロン大学のチーム「Tartan Rescue」は、最終的に3位。4足と2足のクローラー走行を使い分けるチンパンジー型のロボット。今大会で唯一、転倒しても自力で起き上がった。他の課題でも失敗しかけては調整し、初日には時間ぎりぎりで八つの課題すべてを達成した。
NEDO古川理事長「短時間でよくやった。12月のロボット展に期待して」
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と産業技術総合研究所の連名チーム「AIST―NEDO」は、5得点で10位だった。もともと研究用の「HRP2」を改良し臨んだため、日差しや転倒時の衝撃に苦しめられながらも善戦した。同チーム代表の金広文男氏は「チームの構成員の持っている技能に偏りがあった。環境計測や状況認識などの分野を強化していきたい」と意気込む。
NEDO、東京大学の連名チーム「NEDO―JSK」は、課題4まではスムーズだったが、続く課題5でドリルを持ち上げたところで転倒。再スタート後に課題7の階段を昇り切ったところで、時間切れとなった。得点は4点。東大の垣内洋平特任教授は「今回は開発期間が短く結果が振るわなかったが、日本にはヒト型ロボットを長年研究してきた蓄積がある。DRCをきっかけに世界で研究が進むのは喜ばしい」と話す。
NEDOの古川一夫理事長は「今回は短時間でよくやった。もともと12月の国際ロボット展に向けて開発していた。ロボット展でエキシビションをやるので、もっとうまくいくことを期待してほしい」と現地で話した。
東大「HRP2―Tokyo」は初日振るわなかったが、2日目には調子を取り戻し、車を快調に運転すると、続いてドアを開け、バルブを開け3点を獲得した。前回優勝したベンチャー企業「シャフト」と同じ研究室から出場し、足の制御ソフトなどを受け継いだ。学生主体で開発を進め、屋外テストの場所確保にも苦労したが、ヒト型ロボットの研究を前に進められたという。
東大「Aero」は課題1、2の「車の運転」と「降車」をパスし、次の課題へ走行しようとしたがフィールドの砂に足を取られて進めず、得点を獲得できなかった。課題3の「ドアを開ける」と、課題4の「バルブを開ける」をエキシビションとして行い、観客に技術力をアピールした。
<なぜ非二足歩行が快走したのか?>
日本勢は最高位が10位で完走はゼロと振るわなかった。原因は準備不足だ。約3年かけて開発してきた他チームと比べ、NEDOの開発プロジェクトチームは10カ月の突貫工事で出場にこぎ着けた。通常は機体と制御ソフトの開発には3年はかかるとされる。一度、基本的な制御ソフトが完成しても、信頼性を上げるには膨大なバグ取りが必要だ。ゼロから機体も頭脳も開発するチームと、機体開発を終えて頭脳に集中できたチームでは雲泥の差があった。
日本ではここ数年、ヒト型ロボットの研究者には逆風が吹いていた。産総研などが10年にヒト型ロボット「HRP4」を発表して以降はHRPシリーズの開発は止まっている。特に11年の震災後は実用性を求め、情報収集や点検、監視など用途ごとに特化した専用ロボの開発にかじが切られた。そこにDRCによってヒト型ロボに注目が集まった形だ。
一方でDRCはヒト型ロボットのために設計された大会ではあったが、ヒト型でないロボットが活躍した。上位5チーム中3チームが四脚型やチンパンジー型など非二足歩行型が占めた。車輪やクローラーで安定走行し課題を達成した。二足歩行で走破したのは2位の「IHMC Robotics」だけだ。DARPAが提供した最新鋭機「アトラス」でも転倒が相次ぎ、自力で立ち上がったチームはいない。競技や実用化に向けて、二足歩行はまだまだ大きな足かせとなっている。
さらに8課題に1時間弱かけていては本当の緊急時には間に合わず、機体の防爆設計もされていない。実用化に向けてたくさんの課題を残したまま、今大会で現在の形のDRCは終了する。「米国ではヒト型ロボの研究が再度下火になるのでは」という指摘さえある。
日本は20年のロボットオリンピックに向けて次回大会の招致を目指す。NEDOはこの大会招致に向けて急きょ参戦を決めた背景がある。ただ現状ではヒト型ロボと、用途ごとの専用ロボの、どちらに向けて競技を設計すべきか議論が必要だ。そして今回、開発した新しいヒト型ロボをいかに実用レベルにまで高めるか。課題は多いが、残された時間は長くない。
(小寺貴之)
優勝の韓国チーム「それでも日本のロボットは技術的に素晴らしい」
競技は災害現場を想定し、60分間で八つの課題に連続して挑戦。達成した課題数と所要時間により順位を決めた。優勝した韓国科学技術院「KAIST」チームは競技内容を細かく研究し、DRC仕様のロボットを作り込んできた。課題によって体勢を柔軟に変形させ、素早く競技を進めた。代表の呉俊鎬(オ・ジュンホ)教授は「日本や米国のロボットは技術的に優れ、素晴らしい。ロボット先進国と肩を並べられてうれしい」と話した。
2位の米フロリダ州研究機関のチーム「IHMC Robotics」は初日、動き始めに時間がかかったが、その後はスムーズに課題をこなしていった。チーム代表のジェリー・プラット氏は「テストではあまり失敗したことがなかったが、本番では2回転倒してしまった。耐久性の高さでカバーできた。チームメンバーにも恵まれた」と振り返る。
1日目に1位だった米カーネギーメロン大学のチーム「Tartan Rescue」は、最終的に3位。4足と2足のクローラー走行を使い分けるチンパンジー型のロボット。今大会で唯一、転倒しても自力で起き上がった。他の課題でも失敗しかけては調整し、初日には時間ぎりぎりで八つの課題すべてを達成した。
NEDO古川理事長「短時間でよくやった。12月のロボット展に期待して」
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と産業技術総合研究所の連名チーム「AIST―NEDO」は、5得点で10位だった。もともと研究用の「HRP2」を改良し臨んだため、日差しや転倒時の衝撃に苦しめられながらも善戦した。同チーム代表の金広文男氏は「チームの構成員の持っている技能に偏りがあった。環境計測や状況認識などの分野を強化していきたい」と意気込む。
NEDO、東京大学の連名チーム「NEDO―JSK」は、課題4まではスムーズだったが、続く課題5でドリルを持ち上げたところで転倒。再スタート後に課題7の階段を昇り切ったところで、時間切れとなった。得点は4点。東大の垣内洋平特任教授は「今回は開発期間が短く結果が振るわなかったが、日本にはヒト型ロボットを長年研究してきた蓄積がある。DRCをきっかけに世界で研究が進むのは喜ばしい」と話す。
NEDOの古川一夫理事長は「今回は短時間でよくやった。もともと12月の国際ロボット展に向けて開発していた。ロボット展でエキシビションをやるので、もっとうまくいくことを期待してほしい」と現地で話した。
東大「HRP2―Tokyo」は初日振るわなかったが、2日目には調子を取り戻し、車を快調に運転すると、続いてドアを開け、バルブを開け3点を獲得した。前回優勝したベンチャー企業「シャフト」と同じ研究室から出場し、足の制御ソフトなどを受け継いだ。学生主体で開発を進め、屋外テストの場所確保にも苦労したが、ヒト型ロボットの研究を前に進められたという。
東大「Aero」は課題1、2の「車の運転」と「降車」をパスし、次の課題へ走行しようとしたがフィールドの砂に足を取られて進めず、得点を獲得できなかった。課題3の「ドアを開ける」と、課題4の「バルブを開ける」をエキシビションとして行い、観客に技術力をアピールした。
<なぜ非二足歩行が快走したのか?>
日本勢は最高位が10位で完走はゼロと振るわなかった。原因は準備不足だ。約3年かけて開発してきた他チームと比べ、NEDOの開発プロジェクトチームは10カ月の突貫工事で出場にこぎ着けた。通常は機体と制御ソフトの開発には3年はかかるとされる。一度、基本的な制御ソフトが完成しても、信頼性を上げるには膨大なバグ取りが必要だ。ゼロから機体も頭脳も開発するチームと、機体開発を終えて頭脳に集中できたチームでは雲泥の差があった。
日本ではここ数年、ヒト型ロボットの研究者には逆風が吹いていた。産総研などが10年にヒト型ロボット「HRP4」を発表して以降はHRPシリーズの開発は止まっている。特に11年の震災後は実用性を求め、情報収集や点検、監視など用途ごとに特化した専用ロボの開発にかじが切られた。そこにDRCによってヒト型ロボに注目が集まった形だ。
一方でDRCはヒト型ロボットのために設計された大会ではあったが、ヒト型でないロボットが活躍した。上位5チーム中3チームが四脚型やチンパンジー型など非二足歩行型が占めた。車輪やクローラーで安定走行し課題を達成した。二足歩行で走破したのは2位の「IHMC Robotics」だけだ。DARPAが提供した最新鋭機「アトラス」でも転倒が相次ぎ、自力で立ち上がったチームはいない。競技や実用化に向けて、二足歩行はまだまだ大きな足かせとなっている。
さらに8課題に1時間弱かけていては本当の緊急時には間に合わず、機体の防爆設計もされていない。実用化に向けてたくさんの課題を残したまま、今大会で現在の形のDRCは終了する。「米国ではヒト型ロボの研究が再度下火になるのでは」という指摘さえある。
日本は20年のロボットオリンピックに向けて次回大会の招致を目指す。NEDOはこの大会招致に向けて急きょ参戦を決めた背景がある。ただ現状ではヒト型ロボと、用途ごとの専用ロボの、どちらに向けて競技を設計すべきか議論が必要だ。そして今回、開発した新しいヒト型ロボをいかに実用レベルにまで高めるか。課題は多いが、残された時間は長くない。
(小寺貴之)
日刊工業新聞2015年06月09日深層断面