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糸で回路、生地を基板に「賢い繊維」はもはやエレクトロニクス製品!?

世界最大規模の展示会「ドイツ・テクテキスタイル」で見えてきた最前線
糸で回路、生地を基板に「賢い繊維」はもはやエレクトロニクス製品!?

水の中でも光を放ち続けるLED

 電熱で暖める肌着、心電図をとりやすくする装着具、危険性を着用者に知らせるセンサーを仕込んだ消防服―。

 【新たな市場】
 5月にドイツ・フランクフルトで開催した世界最大規模の繊維(テキスタイル)の展示会「テクテキスタイル」。先進技術で繊維に機能性を持たせる「テクニカル・テキスタイル」を活用して新たな市場を創ろうとする意欲的な製品が並んだ。

 「刺しゅう機を使ったFSDの大量生産の技術も開発した」。
 光を放つ刺しゅうを縫い付けた布地を前に、チューリンゲン・テキスタイル研究所の研究者は力をこめる。発光ダイオード(LED)をスパンコール状にした「ファンクション・シークエンス・デバイス(FSD)」を電気を通す糸で作る刺しゅうの中に組み込んで、光る刺しゅうを実用化した。

 【実用化へ着々】
 「基礎研究をするだけでなく、工場で実際に生産を可能にすることに重点を置いている」という同研究所は、刺しゅう機でこれを大量に生産する技術を確立。既にこれを活用した製品が市場に出ているという。同研究所は電気の刺激で痛みを和らげるバンドなど医療用の技術も展示。「自動車、医療用、セキュリティー、建設などテキスタイルのいろいろな応用方法を研究している」とその成果をアピールする。

 【“電気製品”作る】
 生地を基板の代わりにし、糸で回路を構成して一種の電気製品を作る。この形で新市場を創出しようとするのは、繊維系の企業や研究所だけではない。会場の一角にはエレクトロニクス関連の研究所であるベルギーのIMECなどがブースを設けた。そこで見せていたのは水を満たしたコップの中にLEDを組み込んだ生地を浸したサンプル。生地に施した防水加工によって水中でもLEDの機能が維持できる技術力を誇示した。

 同展示会には日本の大手繊維メーカーも参加。その中で旭化成は繊維素材のみならず、伸縮してたわみが出ない電線「ロボ電」を展示した。その名の通りロボット用として開発した製品だが、欧州の展示会で初めてPRする場に選んだのはテクテキスタイル展だった。

 「欧州ではウエアラブルなどのテキスタイルが進んでいるのでこちらに出展した」(巽俊二旭化成せんいロボ電事業推進室長)。ロボットだけでなく、ウエアラブルでも配線のたわみが技術課題となるケースが考えられる。そこで繊維産業の本場である欧州では、売り込み先としてテキスタイルに狙いをつけたわけだ。
 
 これからの需要拡大を見込み、さまざまなプレーヤーがあらゆる角度で仕掛けるテクニカル・テキスタイル。繊維製品を賢くする技術で先端を走る欧州と、それを追う日本での動きに迫る。

 ※日刊工業新聞では「繊維を賢く―テクニカル・テキスタイルの今」を連載中
日刊工業新聞2015年06月08日 素材・ヘルスケア・環境面
峯岸研一
峯岸研一 Minegishi Kenichi フリーランス
テクテキスタイルは、日本だけでなく欧米の繊維関連業界にとって、素材が重視されるとともに安定した成長が期待される。その範囲も衣料に留まらない。工業、自動車や航空機など運輸関連、土木、農漁業、電気、IT、医療など多岐にわたる。ただし、スペックインが大部分であり、自社開発品をベースに独自性が安定して発揮できると同時に、「開発先行」か「ニーズ対応」かの選択が迫られる難しいアイテムでもある。

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