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地銀の業績さらに厳しく。「すべてマイナス金利のせいではないが…」

前3月期は18行・グループが減益。各地域の反応は?
地銀の業績さらに厳しく。「すべてマイナス金利のせいではないが…」

マイナス金利政策導入について会見する黒田日銀総裁(昨年1月29日)

 地方銀行の苦境が鮮明になっている。日銀のマイナス金利により預貸金利ざやが縮小し、2017年3月期決算で本業のもうけを示す実質業務純益は地銀20行・グループのうち18行・グループが前期に比べ減益となった。貸し出し競争は激しさを増しており、今後も厳しい経営環境が続きそうだ。手数料サービス拡大など収益構造の転換が急がれる。
                

【東日本】収益確保にあの手この手


 東日本の主要9行・グループの17年3月期は低金利下で本業のもうけを示す実質業務純益が軒並み悪化した。18年3月期決算予想でもコンコルディア・フィナンシャルグループ(FG)、埼玉りそな銀行、八十二銀行が減益を見込むなど、厳しい経営環境が続きそうだ。

 貸出金残高は一部の銀行を除き増加傾向にあるものの、日銀のマイナス金利政策の影響で貸出金利回りは「低下が見込まれる」(埼玉りそな銀の池田一義社長)といった声が多い。

 こうした中、各行は「統合2年目を迎え、さらにシナジーを出すために今後も銀行本部機能を軽量化し、それに伴う余剰人員を収益事業に充てる」(コンコルディアFGの寺澤辰麿社長)、「私募債発行やビジネスマッチングなど、法人向けを中心に幅広いニーズに対応することで収益を確保する」(千葉銀行の佐久間英利頭取)、「個人向けは投資信託や保険など投資型商品を増やし、法人向けはこれまで手つかずだった手数料の改善交渉にも取り組む」(八十二銀の浜村九二雄常務)など、あの手この手で収益確保に力を注ぐ。

 地銀再編が加速していることについては、「単独でやっていくより地域で(まとまって)やっていくケースが増えてくる」(池田社長)と見ている。

【中部】経営構造改革アクセル


 中部地区の主要地銀は低金利や外債値下がりの影響などで、17年3月期は前期に比べ当期減益だった。成長分野への融資拡大やサービス改善などで収益基盤の強化を急ぐ。

 静岡銀行はマネックスグループののれん代一括償却で当期利益が減少。「損失を早めに処理し、20年3月期までの新3カ年計画で飛躍につなげる」(中西勝則頭取)と収益構造改革を急ぐ。今後はストラクチャード・ファイナンス分野の融資拡大やマネックスグループとの連携などで収益拡大を図る。

 十六銀行はマイナス金利が資金利益段階で約25億円のマイナス要因となった。さらに外債運用などで評価損55億円を計上し有価証券運用で苦戦、現在の保有外債は16年末比約9割減の20億円程度に減らした。一方で需要の見込める賃貸住宅ローンを増やすなど業況変化に対応、「経営を筋肉質にする」(村瀬幸雄頭取)構え。

 ほくほくフィナンシャルグループ(FG)の北陸銀行は、経常利益が前期比7・1%減の248億円。貸出金利息減少に加え「投信、保険の販売が不調」(庵栄伸頭取)で役務取引等利益も減った。

 18年3月期も貸出金利息や有価証券利息配当金の減少で経常利益は同13・3%減の215億円を予想。サービス強化へIT関連や店舗設備に投資する。

【関西・中四国】海外や新収益源に活路


 関西および中四国の主要地銀6行は17年3月期の当期利益がそろって減少した。中小企業向けを中心に貸出残高を伸ばしたものの、長期化する低金利下で利ざやが稼げず苦戦。また投信や保険など金融商品の販売でも精彩を欠いた。

 それでも「18年3月期は役務収益で回復が見込まれる。貿易決済や外為取引先数が拡大しており国際業務でも収益拡大を狙う」(近畿大阪銀行の中前公志社長)、「金利の下げ止まり感やボリューム効果から19年3月期には反転を期待する」(池田泉州銀行の藤田博久頭取)などの声が聞かれた。

 預かり資産の運用強化では「証券子会社の開業で投信や外債の仲介などで収益貢献を期待する」と京都銀行の小林正幸専務は意気込む。伊予銀行は新収益源として「海外拠点機能を生かし外貨資産の積み上げや証券、保険、ソリューションなどの業容を拡充する」(大塚岩男頭取)計画だ。

 地銀再編について伊予銀の大塚頭取は「双方の経営環境やステークホルダーにとり何が重要かを考慮し(四国4行は)提携の結論を出した」と説明。

 一方、広島銀行の池田晃治頭取は「再編は手段であり目的ではない。コスト低減や収益向上を図る選択肢の一つ」と指摘する。中国銀行の宮長雅人頭取も「1年以上検討した結果、単独での生き残りをかけ(10年間の)長期経営計画を公表した」と述べた。

【九州】差別化・成長支援に力


 九州のふくおかフィナンシャルグループ(FFG)と西日本フィナンシャルホールディングス(西日本FH)の17年3月期は、2グループともマイナス金利政策の影響で逆境だった。利益確保の難しさを貸出金増で補えなくなっている。

 FFGの当期利益の赤字はのれんの一時償却によるもの。一時償却は子会社の熊本銀行と親和銀行の株式価値をマイナス金利など経営環境の変化を反映させて再評価し、実施した。これを除けば「おおむね順調」(柴戸隆成社長)とし、18年3月期で「V字回復を達成できる」(同)と見込む。

 西日本シティ銀行などを子会社とする西日本FHは16年10月に発足して初の通期決算。谷川浩道社長は「マイナス金利が負の影響を及ぼす厳しい内容。過酷な環境だった」と振り返った。

 18年3月期については「うちでなければならないサービスを徹底する。(企業の)伸びる力を見いだせるかが極めて大事」と話し、差別化や企業の成長支援に力を入れる。

 有望な貸出先の分野としてはFFGが不動産や医療介護、物流、西日本FHが不動産、システム関係、農業、食品を挙げた。
大変厳しい結果と地銀決算を振り返る中西地銀協会長
日刊工業新聞2017年5月18日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 全国地方銀行協会が17日に開いた会見で、中西勝則会長(静岡銀行頭取)は「すべてがマイナス金利のせいではないが、貸出金利が下に引っ張られたことが大きな影響だった。大変厳しい結果だった」と17年3月期の地銀決算を振り返った。低金利が地銀経営に重くのしかかる中で、人口減少などで貸し出し競争に拍車がかかっている。  中西会長は「経済は回復基調になっている。マイナス金利を脱するために、与えられた環境でできるだけ経済を立て直すことが大事になる」とも話したが、利ざやに頼らない手数料サービスの拡大や、経費削減が求められている状況に変わりはない。中西会長は「合併や統合が以前より大きな経営戦略上の手段となっている」とも指摘した。厳しい収益環境が生き残りをかけた再編を加速する可能性が高まっている。

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