高橋社長があえて持ち出した「目の付けどころがシャープ」という僅かな希望

text=大河原克行 「モノ」の視点に言及したメーカー魂。技術リーダーの不在をどう克服するか

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5月14日に再生計画を説明する高橋社長
 <社員の疲弊はピークに>

 シャープが発表した2017年度を最終年度とする中期経営計画は、同社の経営体質の悪化が想定以上に進んでいることを証明する内容であるとともに、体質改善に向けて抜本的改革に踏み出すものとなった。

 みずほ銀行と三菱東京UFJ銀行、ジャパン・インダストリアル・ソリューションズから総額2250億円の優先株出資を受ける一方で、資本金を5億円まで減資。新たにカンパニー制を導入するほか、2015年度上期中に国内で3500人の希望退職を実施。年度末までに全世界で約10%にあたる人員削減を実行する。また、大阪・西田辺の本社建物および土地を売却し、役員に加えて、従業員の給与削減、賞与カットも行う。

 創業100年目となる2012年に同社初の人員削減を実施してから、わずか3年で、2度目の人員削減。そして、再び末端の従業員の給与削減、賞与カットにまで踏み込み、もはや社員の疲弊はピークに達しているのは明らかだろう。

 シャープの高橋興三社長は、「身を引くのもひとつのやり方だが、途中で投げ出すわけにはいかない。これを遂行することが私の経営責任」と語る一方、「社員とどう向き合っていけるか、社員とどう心をあわせていけるかという点は、私にとって今後の大きな課題」とする。

 <市場変化に追随できない経営体質>

 シャープの減速ぶりはあまりにも急だった。

 原因はいくつかある。収益の柱である中小型液晶パネルにおける大口顧客の失注。それに伴う中小型液晶パネルの生産比率の減少や生産縮小のほか、太陽光発電の基幹材料であるポリシリコンの長期調達契約において、調達価格が高止まりしていることによる高コスト体質の継続、薄型テレビなどの競争激化を背景にした海外市場から撤退したことなどが、主な業績悪化の要因だが、最大の理由は、市場変化に追随できない経営体質だったといえるだろう。
 
 2014年10月に発表した2014年度上期連結業績では、47億円の最終黒字となり、2014年度通期の300億円の最終黒字達成にも強い自信をみせていたシャープ。このとき、高橋社長の口からは、「計画に届かなくても収益を確保する体質に変えている」という言葉も聞かれ、それまで推進してきた構造改革の成果があがっていることに手応えを感じていた様子が受け取れる。
 
 だが、すでにこの時点でシャープは、予想を上回る市場変化の波に飲み込まれていた。2015年1月には通期見通しを下方修正する考えを公表。2015年2月に発表した2014年度第3四半期連結業績の発表にあわせて、シャープは、300億円の最終赤字へと下方修正。しかし、赤字幅はこれでも収まらず、先頃発表した2014年度通期連結業績では、2223億円の大幅な最終赤字を計上することになった。
 
 「それまでの市場環境のもとでは、黒字を出せる体質にあったが、2014年度下期の環境変化に耐えられない体質であることが発覚した」(高橋社長)というように、今年1月時点まで、市場変化に対して、従来の経営体質のままで対応できると考えていた経営側の責任は重い。
 
 「経営が間違っていなければ、こうなるはずはない」と高橋社長は自らの非を認める。こうした状況を受けて発表したのが、今回の中期経営計画だったわけだ。

 しかし、メーカーとしてのモノづくりの力は衰えてはいないようだ。お茶を点てることができる「お茶プレッソ」は、当初計画の3倍の販売実績を記録。天井設置型プラズマクラスターイオン発生機は計画比4倍、振り込め詐欺被害対策機能を搭載したデジタルコードレスファクシミリも予想を上回る売れ行きをみせている。また、スマホ全盛のなかで、市場ニーズを汲み取り、ガラケーの形状をした通称「ガラホ」を市場投入したのもシャープが最初だ。このように独自視点の製品が相次ぎ登場し、ヒットを連発している。

 <20年間使った昔のスローガンに込めた思い>

 実は、中期経営計画の会見で、高橋社長は、今後の方向性のひとつに「目の付けどころがシャープなシャープ」という言葉を持ちだしてきた。「目の付けどころがシャープでしょ」は、1990年から2009年までの20年間に渡り、同社が使っていたスローガンであり、いまでも多くの人がシャープの代名詞として知っている言葉だ。

 だが、2010年に、「目指してる、未来がちがう」という新たなスローガンを制定したこともあり、この5年間は、同社経営トップは、公の場においては、この言葉を一切使ってこなかった。それにもかかわらず、高橋社長はこのタイミングでこれを持ち出してきたのだ。

 「長年にわたって培ってきたシャープの独自技術や、シャープな目のつけどころ、そして、人に一番近いところで、人に寄り添う新たな価値を提供する企業を目指す」と高橋社長は語る。メーカーにとって、消費者に受け入れられるかどうか、そして無くてはならない会社といわれるどうかは、やはり最終的には「モノ」の価値に帰結する。シャープが、回復への道筋を歩む上で、改めて、「目の付けどころがシャープ」な製品を連打する姿勢を欠如させてはならないと感じたのだろう。

 <モノづくりに目をつけ最後の復活チャンスに挑む>

 一方で、高橋社長は、テレビ、通信、白物家電の技術を融合した次世代製品を開発する方針や、「美しさと愛着」、「予期せぬ驚き」、「家電たちとの情緒的なつながり」という3つの観点を盛り込んだ新たな商品デザインコンセプトを、家電製品に採用する考えも明らかにした。経営体質の抜本的改革を打ち出した中期経営計画のなかに、「モノ」の視点を追加し、そこに言及したことはメーカートップの発言として評価したい点だ。

 課題は疲弊のピークにある社員たちが、「目の付けどころがシャープ」な製品を開発しつづけることができるかという点である。技術部門トップの水嶋繁光副社長は代表権がない会長に就き、液晶事業を統括してきた方志教和代表取締役専務も顧問に退くことから、ここ数年、目の付けどころがシャープな製品を支える技術を統括してきたリーダーの存在が無くなることも不安材料だ。

 高橋社長は、「本社を売却してでも構造改革を遂行する。聖域を設けずに、不退転の覚悟で取り組む」と語るように、経営体質の改善は急務だが、その一方で、肝心のモノづくりが疎かになっては、電機メーカーであるシャープの復活は成し得ない。そこにもしっかりと「目をつけて」ほしい。


 文=大河原克行(おおかわら・かつゆき)フリーランスジャーナリスト
 1965年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。電機、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を行う。現在、PC Watchの「パソコン業界東奔西走」(インプレス)をはじめ、クラウドWatch、家電Watch(以上、インプレス)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp (KADOKAWA)、中日新聞、夕刊フジなどで連載記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下からパナソニックへ」(アスキー・メディアワークス)、「図解 ビッグデータ早わかり 」(中経出版)など。

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COMMENT

明豊
執行役員デジタルメディア局長 DX担当

会見で高橋社長は今後の事業のキーワードして「クラウド」という言葉を何度も使った。あまりにシャープに似つかわしくない言葉で、瀕死の会社の再建案を発表する場にしては、白々しく軽く感じ空しいかった。しかしブラウン管テレビが主流だった1996年、世界で初めてインターネット接続テレビを発売。通信環境が今と違い不発だったが、その後ネット対応「ザウルス」へとつながる。ちょっと変わった家電を一足早く出すのがかつてのお家芸。通信と家電を融合する発想と技術は少なからず残っている。やはり家電のDNAを持つメーカーなのだ。液晶という巨大装置産業をオペレーションする力量が無かった。今のポートフォリオで生き残るチャンスは2年前の鴻海との提携交渉だったと思う。それも逸した。1兆円規模の液晶事業を切り離し2兆円の会社として再スタートすることが、高橋社長が下す最大にして唯一の経営判断だろう。

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