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電力自由化カウントダウン! ――太陽光発電が変わる

売電から自宅での消費へ。北九州の実証モデルとは?
 太陽光パネルで発電した電力を地域でできるだけ多く消費する実証事業が各地で始まっている。現状では発電した電力は使わずに売電した方が得だ。それが太陽光発電システムの価格下落と電力料金の上昇で、発電コストが電力系統並みとなるグリッドパリティーへの到達が確実視され、消費にメリットが生まれようとしている。住宅での自家消費に欠かせない蓄電池のコスト低下もあり、太陽光発電は売電から自家消費へと移行する環境が整いつつある。

 太陽光パネルで発電した電力を近所で分け合って使う実証が北九州市で行われている。道路沿いに並んだ住宅7棟それぞれに太陽光パネルと蓄電池があり、ある住宅の太陽光パネルで発電した電力は電線を通って他の住宅の蓄電池に送られている。
 太陽光パネルが標準搭載された住宅が立ち並ぶスマートタウンは珍しくないが、住宅同士で電力をやりとりするスマートタウンは初めて。この電力融通の実証は経済産業省によるスマートコミュニティー事業の一つで、積水化学工業がとりまとめている。

 基本的に太陽光パネルの電力は住宅1軒単位で発電、消費されている。家庭の電力使用が少ないと発電しても自宅で使い切れない余剰電力が発生する。余剰電力は電力系統に送電(逆潮流)されて家庭には売電収入となるが、系統にとっては負担となる。逆潮流が大量発生すると電圧上昇が起こり、系統が不安定化するためだ。

 電力融通は系統の負担を和らげる手段の一つ。北九州市の実証で積水化学はタウンエネルギー管理システム(TEMS)も取り付けた。TEMSが各戸の発電量や蓄電池残量を監視しており、余剰電力が発生すると残量の少ない蓄電池に送るように指示する。1軒の蓄電池が満充電でもTEMSが送電先を見つけるので全戸の蓄電池が満充電になるまで逆潮流が起きない。

 太陽光由来の電力の消費量が増えるのも電力融通のメリットだ。積水化学によると2013年9―14年8月、電力融通の住宅は消費電力に占める太陽光由来電力の割合が32・5%だった。融通がない住宅よりも10ポイント高い。電力融通によってエネルギー自給率が高まっている。

 「100%に近づけたい。究極には地域でエネルギーを自給自足できるようにしたい」。積水化学開発推進センターの小笠眞男ヘッドはこう意気込む。自給率アップのカギがTEMSの予測精度の向上という。快晴で太陽光パネルがたくさん発電しても蓄電池の充電残量が多いと追加で充電できない。

 天気予報から発電量をより正確に予測できれば、蓄電池の残量を適切に設定でき、充電量を増やして太陽光由来電力の使用を増大できる。
 実証は14年度で終了する。小笠ヘッドは「電力小売りが全面自由化される16年以降、電力融通を一番早くやりたい」と話す。住宅同士が電力をやりとりする前例がないだけに運用上の課題はある。それでも電力融通の技術は確立されつつある。
 
 
【グリッドパリティー到達確実】
 12年7月に再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)が始まって以来、自家消費を目的とした太陽光発電は減り、売電目的の設置が増えた。買い取り価格が高く設定されており、発電した電力は消費するよりも売電した方が得だからだ。それが今、自家消費の機運が高まっている。

 山形市でも電力融通によって地域全体で太陽光パネルの電力消費を増やす実証が始まっている。東京工業大学では太陽光の電力すべてを自家消費するビルが稼働している。このビルで発生した余剰電力はキャンパス内の他に建物に融通している。系統の負担軽減だけが自家消費が注目される理由ではない。買い取り価格の低下と電力料金の値上がりで、売電するよりも消費した方が得になる日が近づいているからだ。

 太陽光発電は14年度末の申し込み分を最後に買い取り価格が高く設定される期間が終わるため、売電メリットが薄れる。買い取り価格の低下は太陽光パネルの需要を減速させるが、京セラの山口悟郎社長は「売電以外にも自家消費という手がある」と期待する。

 電力料金の上昇と太陽光発電システムの価格下落も自家消費が見直されているきっかけだ。1キロワット時の電力をつくる費用を発電コストという。太陽光発電システムの費用が安くなり、太陽光の発電コストが下がっている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、13年の家庭用システムの発電コストは前年から4円ダウンの23円。日刊工業新聞の7月の試算でも21円だった。電力料金が1キロワット時約26円(東京電力従量電灯契約第二段階)なので、自宅の太陽光パネルでつくった電力の方が電力料金よりも安くなっている。発電コストが電力系統並みとなるグリッドパリティーに到達したか、到達目前にある。積水化学R&D戦略室の森川岳生部長は「売るよりも、使った方が得になる時代がここ何年かでやってくる」と確信する。
 
 
【蓄電池価格も低下】
 グリッドパリティーに達すると電力融通がなくても住宅でも自家消費のメリットを享受できる。住宅での自家消費の基本パターンは日中に太陽光パネルが発電した電力を蓄電池に充電し、夜間は蓄電池からの放電で自宅の電力を賄う。
 充電残量がなくなった時だけ電力会社の電力に頼る。売電から自家消費型への移行で欠かせない蓄電池のコストも低下しそうだ。

 太陽光発電協会の資料によると、蓄電池の充電容量1キロワット時当たりのコストは13年が25万円。容量6キロワット時の蓄電池だと購入に150万円が必要だった。それが15年には1キロワット時当たり18万円となり、購入費は108万円に圧縮。20年には同4万円となって24万円で購入できるようなる。

 大手電機メーカーも試算している。太陽光発電と蓄電池を20年使用したと仮定し、それぞれのコストと予想される電力
料金で計算。16年を境に太陽光と蓄電池のトータルコストが支払う電力料金よりも安くなり、自家消費がコスト的に優位になる。太陽光発電に蓄電池を含めたコストでもグリッドパリティー到達が間近なようだ。
 
【ビジネスチャンス】
 蓄電池業界にとってもグリッドパリティーは追い風だ。オリックスの堀内拓也蓄電池事業部マネジャーは「グリッドパリティーに突入すると蓄電池が必須になる。グリッドパリティーはビジネスチャンス」と見通す。同社はNEC、エプコと共同で家庭用蓄電池のレンタル事業を展開するONEエネルギーを13年3月に設立。これまで3000件に蓄電池を設置した。

 ONEエネの蓄電池(充電容量5・5キロワット時)の基本的な使い方は割安な夜間電力を充電し、日中に放電する。3000件の設置データによると電力料金が月5000円安くなる効果が出ている(蓄電池導入前の電力料金が1万5000円の新築住宅)。

 今は節電ニーズで蓄電池を設置する住宅が多い。グリッドパリティーに突入すると太陽光発電の電力の自家消費目的で蓄電池をレンタルするニーズが増え、蓄電池も普及期に入る。太陽電池メーカーや蓄電池メーカーには太陽光パネルと蓄電池をセットにした提案力が求められる。
日刊工業新聞2014年12月15日深層断面
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
日刊工業新聞は14年7月、家庭用太陽光がグリッドパリティーに到達したと報道しました。いろいろご意見いただきました。今後もグリッドパリティーによる消費者メリットを報道していきたいです

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