自動車の軽量化を考える(1)鉄はどこまで硬くなるか

高張力鋼板の最新動向~「単純にハイテンに置き換え強度を上げるのは限界に近づいている」

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 より高強度で自動車の軽量化に貢献する―。その決め手となるのが高張力鋼板(ハイテン)だ。一般的な鋼板をより高強度のハイテンに置き換えることで薄肉化し、軽量化する。適用車種・適用部位は拡大傾向にあり、現在は引っ張り強度1・5ギガパスカル級、ホットスタンプで1・8ギガパスカル級までが最高強度として実用化されている。次のステップとして研究が進むのが2ギガ―2・5ギガパスカル級の超ハイテンだ。
 
【数十倍の強度】
 ハイテンは組織を微細化し、フェライトと呼ばれる軟質組織とマルテンサイトと呼ばれる硬質組織を複合組織化し、炭素などの添加物や温度条件などを制御して作る。超ハイテンも基本的なアプローチは同じだ。
 
 ではどこまで強度を高めることが可能なのか―。新日鉄住金の小島康治自動車鋼板商品技術室長によれば「理論上は今の数十倍に強度を高められる」と話す。だが「仮に作れてもそのまま使えるものではない」。鉄は強度と成形性を左右する延性とはトレードオフの関係にある。単純に硬くしても延性がなくなって成形性が落ちる。固くなれば素材がもろくなり脆(ぜい)性破壊を引き起こす恐れも高まる。車が衝突時に車体が折れ曲がることで衝撃を吸収するが、延性がないと割れて衝撃を吸収しなくなる。また高強度に必要な炭素の含有量が増えれば溶接も難しくなる。JFEスチールの長滝康伸薄板セクター部主任部員(部長)も「強度を高め、成形性も高めるかが実用化に必要」と指摘する。

 【性能面で制約】
 ハードルでは作ることだけでなく、使うことにもある。高強度化すれば性能面で制約が出てくる。汎用的な使い方ではなく、強度や性能に応じて、部位や使用条件などを見極める必要がある。また「単純に高強度のハイテンに置き換えるだけで強度を上げるのは、そろそろ限界に近づいている」(小島室長)のが実態だ。個々の部品を軽量化するのではなく、一体化しモジュールとして強度と軽量化を実現する方法もある。部品の結合部分の剛性の確保もしやすくなる。材料だけでなく、工法や構造などを組み合わせた全体設計が難関を突破するカギだ。
 
 自動車用鋼板は高強度化の歴史だ。自動車メーカーもより強度の高い鋼材を鉄鋼メーカーに要求してきた。特に最近は環境規制が強化され、その傾向は強まっている。さかのぼれば00年頃までは590メガパスカル級の自動車用鋼板の最高強度だった。一般的な軟鋼の強度が270メガパスカル級とすると、自動車が誕生してから00年までで強度は倍になった。それが今では1・5ギガパスカル級が実用化され、たった十数年でほぼ倍となり、加速度的に強度を高めている。

 【まだ時間が】
 長滝主任部員によれば「強度やコスト、成形性などのバランスで見れば量産に使えるレベルは2ギガパスカル級くらいではないか」と推察する。業界では2ギガ―2・5ギガ級の実用化の研究が進むが、道のりはそう簡単ではない。強度の達成はもちろん、自動車用鋼板としての性能を満たすための検証はまさにこれからだ。「一足飛びで使えるようになるにはまだ時間がかかる」(小島室長)。
 
 これまでも新開発の鋼板を試験的に採用し、技術を熟成させて、車種や部位など適用範囲を少しずつ広げ、最先端の技術を使いこなしてきた。環境対策や燃費向上などのニーズは高まっており、軽量化技術は競争力の源泉だ。今の成長曲線をみれば2ギガ―2・5ギガパスカル級もそう遠い話ではない。小島室長は「ニーズはある。あとはどこまで本気に使う気があるかだ」と話す。熱意が何よりも開発のドライブとなる。

日刊工業新聞2014年08月25日 モノづくり面

COMMENT

村上毅
編集局ニュースセンター
デスク

量の拡大と質の向上-。ハイテンの強度も採用量も、自動車のモデルチェンジとともに、より増していくことは間違いない。自動車メーカーも意欲的で、実用化に向けた研究開発は進んでいく。

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