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世界最先端を目指す沖縄科技大、グルース学長に聞く次の5年

「すでに沖縄の発展に貢献する準備はできている」
 政府が世界最高レベルの研究機関を目指し沖縄県恩納村に開設した、沖縄科学技術大学院大学(OIST)。今年1月には2代目学長としてピーター・グルース氏が就任した。グルース氏は欧州随一の研究機関である独マックス・プランク研究所で要職を歴任。現在も独シーメンスの技術顧問団の代表を務めるなど、科学と産業の両面に通暁する人物だ。学長は公募により選ばれたが、思わぬ“大物”の応募に理事会も驚いたという。開学から5年が過ぎ、OISTには成果も求められる時期に入ってきた。グルース学長にOIST運営について聞いた。

 ーまずOISTの強みをどのように捉えているか、聞かせてください。
 「科学技術分野の大学を成功させるのに必要な環境は、驚くことに意外と少ない。まず、優秀な人材が必要で、独創的な研究をできるように資金的に援助すること。そして若手研究者を採用し、『大きな環境』の中で8人ほどの小グループで研究してもらうことだ」

 「政府が(OISTを設立し、)優秀な人材を引きつけることに投資したのは、とても賢明な決断だ。世界の優秀な人材の市場は小さい。OISTには優秀な科学者、研究者、学生をそろえる条件が揃っている。外国人研究者の比率が55%というのは、良いサインだ。優秀な教授も多い。そのような環境を与えられているのは、政府の資金援助のおかげだ」

 ーそれでは一方で、OISTに不足している部分は。
 「『大きな環境』と言ったが、それはOISTだけではつくれない。環境を拡大する一つの方法はサイズの拡充だ。今後5年間で教授と学生の数を倍増させる。時間がかかるが、自分たちでつくっていかなければならない」

 「また、もう一つの方法は国内やグローバルレベルでコミュニティーにアピールし、連携すること。世界を見回しても連携やチームワークは重要で、“象牙の塔”は成功につながらない。出版された論文を見てみると、一つの地域に限られた成果では無く、世界中のいろいろな場所の研究者が共同研究している。世界中から知識、テクノロジー、実験手法などを持ち寄り成功させている」

 「私がやるのは国内外との連携を大きくし、その連携を通してOISTを大きくすること。それにより研究上で補完すべき部分を、他の研究者のスキルや経験、科学技術の知識により埋めることで目的を達成できるからだ。そしてもう一つ不足しているのは沖縄の発展への貢献。つまり技術移転だ。技術を開発し、イノベーション創出につなげる。まだ多くのことが足りていない」

 ー技術移転には、どのような方策を考えていますか。
 「たくさんある。イノベーション・エコシステムを成就するには、いくつかの要素が必要になる。私はいつもジグソーパズルの例を使うが、ピースを正確に当てはめることで正確な絵が得られる。イノベーションには2種類あり、既存技術に改良を加える『インクリメンタル・イノベーション』と、既存領域にとらわれない『ブレイクスルー・イノベーション』だ」

 「『ブレイクスルー~』は世を揺るがす、新しく大きなイノベーションで、遺伝子技術やインターネットもそう。世界中から集ったトップの科学者たちが必要になる。成就のために科学者は新しいアイデアや構想を持ち寄る」

 「では、どうやってブレイクスルーを得るか。パズルに当てはめるのは、まず研究成果の査定、そしてプロトタイプをつくることだ。この段階をプルーフ・オブ・コンセプト(POC)と呼ぶ。POCを成功裏に進めるには、研究とはまったく違うメカニズムと資金が必要になる。最初の研究成果からPOCに移すには、産業界に産業としての価値をしっかり評価してもらう必要がある」

 「また研究成果の価値を上げて産業化につなげるには、起業を進める施設やプラットフォームといったインフラが必要になる。例えば、バイオテクノロジー分野で産業化につながりそうな分子が見つかるとする。それをしっかり評価するには施設が必要だ」

 「そういう段階を進めていくために、民間とのパートナーシップや支援が必要になる。産業化につなげる段階には2~3年かかる。成果の評価、製品化の可否を見極める段階だ。製品としては不足があるが、可能性があるか決める段階。ここは資金的にさほど負担は大きくない。リスクを取ってもらって失敗に終わっても大丈夫な段階だ」

 「そして次の段階に移るときに、二つの道筋がある。一つは知的財産を既存企業に売るやり方。二つ目はもっとわくわくする道で、スタートアップ企業をつくることだ。この評価が終わった知財を基に起業するにあたっては、二つの要素が必要になる」

 「一つはベンチャーキャピタル(VC)で、もう一つはビジネスを資金的にもサポートしてくれる人材。日本のVCの仕組みについては詳しくないが、米国とドイツについてはよく知っている。VCは非常に重要な要素で、これにより多くの雇用が生み出される」

 「米で2007年ごろ発行されたデータでは、新規雇用を生み出している会社の75%が設立5年以内だった。政治家として考えれば、こういうVCに対して税制優遇措置などを取ることで、インセンティブを与えて起業しやすくなり、新しい雇用も生まれることになる」

 「それでは、どうして我々はVCファンドに投資したがるか。答えはシンプルで、お金を儲けたいからだ。儲けるには株式上場とM&Aの二つの道があるが、日本に必要なのは起業でお金を儲けられるという認識だ。まずは日本に起業文化を植え付けていく。大学の周囲にはまだ土地があるので、インキュベーション施設を建てて企業に集まってもらう」

 「米カーネギーメロン大学の学長とは友人だが、同大学のキャンパスにはグーグルやアップルが建っている。なぜ企業が大学に集まるかというと、大学のアイデアにすぐに触れることで事業化を加速できるからだ」

 ー企業との連携は深化させるということですね。
 「これからやろうと思っているのは、日本企業と対話をしていくこと。例えば、人工知能(AI)やエネルギーなどだ。(OISTで開発した)波力発電技術ではすでに企業と連携している。企業にとっても、本当に大きな成長が見込まれ、今後10年で世界を変えるようなテクノロジーに目を向けなければ、会社がつぶれていってしまう」

 「OISTで基礎研究に対してアイデアを出していく資金は政府から出ている。しかし、産業化につなげることは政府の資金ではできない。研究成果を評価する段階、スタートアップの段階においては産業界からの支援が必要になる。すでに沖縄の発展に貢献する準備はできている」
【略歴】77年ハイデルベルク大博士号取得(分子生物学)、83年同大分子生物学センター理事。97年マックス・プランク生物物理化学研究所所長、02年マックス・プランク学術振興協会会長。独・アスフェスト市出身、67歳
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三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
企業との連携ですが、沖縄の地場企業ではOISTの研究成果を受け止めきれない部分も多くあると思います。そのため、大手や中堅・中小を問わず県外企業との関係強化は不可欠。企業を沖縄に呼び寄せるOISTの吸引力に期待したいです。それが直接的に沖縄の経済振興につながりますし、さらにその連携に沖縄企業を組み込んでもらうことで、沖縄の産業レベルを高めることにもつながります。

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