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チリ銅鉱山、拡張中止にみる資源投資リスク

住友金属鉱山のシエラゴルダ開発、銅価格が低下で採算悪化
チリ銅鉱山、拡張中止にみる資源投資リスク

シエラゴルダ銅鉱山

 住友金属鉱山はチリのシエラゴルダ銅鉱山開発計画で、当初予定していた第2期の事業拡張を中止する。銅価格が低下し、採算性が悪化する中、早期の事業黒字化には追加投資が必要な拡張計画の見直しが必要だと判断した。これに合わせ、既に稼働する第1期生産ラインで鉱石処理能力を20―30%引き上げる方針。計画中止で想定より銅の生産量(銅量ベース)は半減するが、既存設備の部分増強など少額投資でその一部を補う体制を築く。

 住友金属鉱山は2011年にシエラゴルダ銅鉱山開発に参画。当初は29億ドル(3000億円規模)を投じ、14―15年に年11万トンの銅生産設備を整えた後に追加投資し、第2期の17―18年に同様のラインを1本増設、合計で同22万トンを目指していた。

 だが、銅価下落に開発費の高騰が重なり採算性が悪化。15年4―12月期連結決算で持分法による投資損失689億円を計上し、業績低迷を招いていた。

 投資を圧縮し採算性改善を進める中で、開発費が約8億ドル(約900億円)の第2期拡張計画は見送る。一方、第1期に整備した生産ラインの鉱石処理能力を20―30%増強する。実現すれば銅生産量は足元の年9万5000トンが、12万―13万トンになる見通しだ。

 中里佳明社長は「将来、良い鉱脈に当たれば銅生産量が年14万―15万トンに届く場面が出てくる」との見方も示した。

 現在、共同運営するポーランド産銅大手のKGHMポルスカ・ミエズが、増強する設備や実施時期など詳細を詰めている。「関係会社が協議しており、追加投資はかなり軽微なものになる」(中里社長)とみている。

 当初年産1万1000トンを目指していたモリブデンの実収率は、「計画に対して50%程度遅れており、足元の大きな課題」(同)とし、優先してテコ入れする方針だ。
                     

日刊工業新聞2017年3月24日



“日の丸鉱山”の未来


 JX日鉱日石金属と三井金属などがチリで開発を進めてきた「カセロネス銅鉱山」プロジェクトが本格始動する。30日に現地で開山式を開き、安倍晋三首相ら両国の政府高官が出席予定だ。同プロジェクトは日本企業が100%出資する“日の丸鉱山”。生産量は日本の銅輸入量の約1割に相当する。中国など新興国が台頭し、資源ナショナリズムの動きも顕在化する中、日本の銅資源の安定調達への貢献が期待されている。

 カセロネス銅・モリブデン鉱床は世界有数の銅生産国であるチリの北部アタカマ州の州都コピアポから南東162キロメートル、アルゼンチンとの国境から15キロメートルに位置。鉱床付近の標高は4200―4600メートルにある。

 JX金属と三井金属が共同出資するパンパシフィック・カッパー(PPC)と三井物産が、現地のプロジェクト会社に100%出資。出資比率はPPCが77・37%、三井物産が22・63%で初期投資額は約42億ドル(約4200億円)。

 生産期間は40年までで、当初10年間の銅生産量は年間18万トン、総生産量は355万トンを計画。長期間にわたって銅資源の安定調達が可能になる。

 プロジェクトはPPCが06年に権益を取得して始動。10年に三井物産が資本参加した。資金面では石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が総額129億円を融資したほか、国際協力銀行(JBIC)や民間銀行も融資契約を結んだ。

 モリブデン精鉱のほか、銅は銅精鉱とSX―EW法(溶媒抽出電解採取法)による電気銅生産を併用する。電気銅の生産は13年3月から始動。14年5月には銅精鉱の生産が始まり本格的な操業体制が整った。9月に銅精鉱の生産がフル操業に移行する計画で、銅精鉱の第1船は9月上旬に日本に到着する予定だ。

 JX金属の大井滋社長は「カセロネスはJXグループにとっても大きなプロジェクト。この成功は将来の糧になる。一刻も早く安定したフル操業体制を確立する」と意気込む。
カセロネス銅鉱山

競争激しく製錬事業の安定化カギ


 非鉄会社が自前の鉱山を持ち、自山鉱比率を高めるのは銅製錬事業の原料となる鉱石を安定調達でき、中核の製錬業の事業リスクを将来にわたり低減するためだ。カセロネスがフル稼働すれば、PPCは銅原料の必要量の半分をカバーできる。

 資源メジャーから銅鉱石を購入(買鉱)する際にも価格交渉を有利に進められる。資源メジャーは巨大化し、価格交渉力を高めている。

 一方で、中国など巨大な購買力を持つ国が台頭。資源の獲得競争が激しくなっている。日本勢は高付加価値製品の比率を高め、リサイクル事業で強みを見いだす中、製錬事業の安定化はカギであり、サプライチェーンを強化できる。

 収益面への貢献も大きい。日本では電力など事業コストが上昇する一方、製品価格を上げづらい状況もあり国内の製錬業で収益を上げにくくなっている。

 鉱山投資は銅価が高ければうまみが大きく配当の形で収益に貢献する。JX金属も権益により、15年度に連結経常利益ベースで400億円の増益効果を見込む。

 さらに、経済産業省の萩原崇弘鉱物資源課長は「日本企業が100%出資して鉱山を運営することで知見が得られることが大きい」と指摘する。

 カセロネス鉱山はJX金属にとって、株式の過半数を取得し主導的に経営する久々の大型銅鉱山だ。大井社長も「JXグループの資金力を生かして、世界の表舞台に立てる意味は大きい。成功すれば、さらなる強みになる」と期待を示す。

 メジャー出資により、探査や採鉱など技術分野はもちろん、マネジメントレベルの派遣が可能になる。経理や人事、品質管理、安全管理、地域との折衝など、鉱山経営に関する広範なノウハウを吸収でき、次世代を担う若手技術者の育成の場ともなる。

 特に鉱山開発は地域との共生が不可欠だ。鉱山開発は最大で数千人規模の従業員が従事する。従業員確保や労働条件などでは、現地の文化や慣習を理解し、また現地で事業への理解を得ながら進めていく必要がある。

 カセロネスでは10年に開発工事がスタートして以来、日本から約40人の人員を現地に派遣し、ノウハウを蓄積してきた。必要に応じて増員も検討し、安定操業につなげる方針だ。

 こうしたノウハウは、ほかの鉱山開発プロジェクトにも役立ち、自前の鉱山運営や他社とプロジェクト運営の際にも有利に働く。
               

育成・地域貢献を重視、日本の「存在感」高める


 銅資源における日本とチリとの結びつきは強い。国内で使用する銅資源の48%はチリから調達している。カセロネスの操業に続き、住友金属鉱山が出資するシエラゴルダ銅鉱山が近く操業開始する予定で、2鉱山の操業開始で調達比率が5割を超えることは確実だ。

 日本の銅権益がチリに集中するのは投資環境が安定しているためで、現在も15のプロジェクトが動いている。チリの鉱山投資では国営企業のコデルコ、カナダの鉱山開発会社に並び、日本企業は3指に入る。

 ただ中長期で見れば、リスク分散のため資源の供給ポートフォリオを組むことが大事になる。チリの周辺国やアジア、豪州などの環太平洋地域、また潜在力を秘めるアフリカなどでの鉱山開発は欠かせない。

 世界的に優良な鉱山案件は少なくなってきている。カセロネスにしても総生産量は355万トンの大型の銅鉱山だが、鉱床付近の標高が4200―4600メートルと高く、品位も90年代の鉱山と比べ数分の1程度。決して恵まれた条件ではない。

 ただ日本企業の鉱山運営は技術や人材、地域貢献などを重視するのが伝統的な手法だ。権益の価値を上げ、他に転売して利ざやを稼ぐ資源メジャーと経営手法は大きく異なる。

 長期間に安定的に権益を保有する日本企業への国際的な評価も高い。カセロネスなど技術的に高度な鉱山開発を手がけることは日本の存在感を高め、「世界の資源ネットワークの中で日本の地位を確実に上げる」(関係者)ことになりそうだ。
(文=村上毅)
※内容、肩書は当時のもの

日刊工業新聞2014年7月28日

村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
資源開発にはリスクも伴う。鉱山の開発コストは4000億―5000億円とも言われ、莫大(ばくだい)な資金がかかる。人件費は世界的に高騰し、計画の遅れもある。カセロネスの開発資金も当初の計画から膨らんだ。融資や債務保証など企業の鉱山開発を側面支援する国の体制は不可欠だ。民間の動きとともに、資金援助や技術供与など国レベルでの支援といった多様なチャンネルを通じて働きかけることも重要。鉱山開発は初期の事業化調査(FS)から探鉱、開発、操業終了まで40年近くその地域に関わる。資源ナショナリズムの台頭で急な制度変更などは事業の阻害要因となる。長期間のリスクを取れる前提として、安定的に投資環境を維持することは欠かせない。権益確保に向け、政府間レベルの対話など多面的な取り組みが重要となっている。

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