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高騰する学術論文誌。解決するのは国か、それともグーグルか?

text=大江修造東京理科大学元教授  有料専門DBは欧州の大手出版社の寡占進む
 今の時代、グーグルなどによるインターネット検索は一般化している。グーグルを使えば生活全般から科学技術に至るまで無料で調べることができる。だが、学会誌などの学術論文誌は基本的にはグーグルでは検索できない。学術論文の検索は有料の学術情報データベースを使わなければならない。

 ところが、このデータベースを販売する欧州の大手出版社による寡占化が進み、販売価格が高騰している。大学をはじめとする研究機関では専門書など単行本の購入を抑えて、データベースの購入に予算を充てざるを得ず、図書予算を圧迫している。

 研究成果を確定するには論文を学術論文誌に投稿し、審査を経て掲載される必要がある。審査を通過するには、先行研究を漏れなく調査しておく必要がある。このためデータベースによる網羅的な調査が必要なのだ。

 理工系において博士号を授与される条件は、世界の名だたる学術論文誌に成果が掲載されていることにある。分野にもよるが、化学系では大学院の博士課程で研究する「課程博士」においては3報程度の掲載が求められる。大学院に在籍せず直接、論文審査を受ける「論文博士」は10報程度が求められる。

 研究成果を世に問うには、一刻も早い公表が必要だ。この点は特許に似ている。一日といえども後塵を拝してしまえば、成果は他人のものとなる。ところが、学術論文誌に掲載されるには審査が必要。審査には通常、半年程度必要であり、疑義が発生した場合は審査委員と投稿者の接触・やり取りが必要となり、さらに日数を要することになる。そこで、出版社自体が学会誌に相当する学術論文誌も発行するようになり、投稿者の需要を満たしている。

 以前は、世界に複数の有力な学術情報データベースを販売する企業が存在し、日本の複数の出版社がそれぞれの代理店となっていた時代もあった。しかし、現在は1社独占に近い状態にある。

 筆者もかつて、大学の図書館長を務めていた。学術情報データベースの購入費用は年間で数億円に達し、学部予算にも匹敵するほどであった。大学間のコンソーシアムを組んで、巨大な企業への対峙も考えたが、実現には至らなかった。この問題は、もはや一大学のみでは解決不能である。
 
 資金豊富なグーグルならば、解決する能力はあると思うが、本来は、国が向き合うべき課題であろう。

 ※ 日刊工業新聞では「裏読み科学技術」を科学技術・大学面で連載中
日刊工業新聞2015年05月25日 科学技術・大学面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
米国ではオバマ大統領がオープンデータ政策を唱えた。政府が持っているデータは国民の財産であるとして、これをオープンにし誰でもが使えるようにしてイノベーションを促進しようという考えだ。学術論文は国がすべて保有できるものではないが、ここでも、いつか「国家VSグーグル」の構図が出てくるような気もする。

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