“閉ざされていた工場”が巨大情報拠点になる日~工作機械がスマホに
連載バックナンバー「つながる工場(1)」July.2014
日刊工業新聞は昨年7月に1面企画で「つながる工場」を連載しました。ちょうど日本でも「インダストリー4.0」という言葉が一般的になり始めたころです。その狂想曲はさら高まり、今年4月に本場ドイツで開催された「ハノーバーメッセ」では、大挙して日本人が訪れました。しかし、1年前と比べ何かが進んだのか?何かが変化したのか? 連載を振り返りながら、少し冷静になって検証します。
連載「つながる工場(1)」モノと情報が同質化
工場があらゆるものとつながる時代が見え始めた。ドイツが推進する第4次製造業革命「インダストリー4・0」は、開発から調達、生産、販売にいたるすべての基幹システムを統合し、競争力を高める国家プロジェクト。インターネットによってモノに関する情報を関連づけるIoTを活用して部品にかかわる工程が「見える化」できれば、従来のサプライチェーン管理(SCM)は様変わりするだろう。つながりの最終地点は顧客であり、これまで“閉ざされていた”工場は一転、いつか巨大な情報拠点に進化するかもしれない。モノづくり大国・日本は工場の価値を再定義できるか試されている。
【機械のスマホ化】
2013年9月にドイツ・ハノーバーで開催された「欧州国際工作機械展」。DMG森精機が初披露した工作機械の新しい操作盤「セロス」には、タッチパネルを採用。ネットに接続して機能ソフトを追加できる。必要なアプリケーション(応用ソフト)をダウンロードして使うスマートフォンと同じ。まさに外部とつながる工作機械の「スマホ化」だ。森雅彦社長は「いずれセロスの生産データと営業や経営システムを連携できるようにしたい」と話す。
【中小への浸透】
未来調達研究所の坂口孝則取締役は気鋭のSCM分析家。もともとホンダの購買部門に勤務していたが、製品ライフサイクル管理(PLM)や顧客情報管理(CRM)などがタコツボのように細分化されていることに疑問を抱いたという。
「漠然と思っていた“つながる”というコンセプト。3年ほど前からいろいろな人が唱え始めたが、第4次産業革命の本質は情報と物質の違いがなくなることだ」とみる。部品や材料にセンサーを取り付ければ、納期や不良検知なども瞬時に把握でき、ビッグデータ(大量データ)として活用できる。
経済産業省が年内に策定する「日本版インダストリー4・0」は、大企業だけでなく日本の強みである中小企業にもロボットやITを導入し、生産性向上を狙う内容になりそう。仮にデジタル機器のように自動車分野などでも設計データなどの公開が進めば、大手のSCMシステムに中小メーカーが乗っかり、受注が増加して国内生産を維持するストーリーもみえてくる。
【強い抵抗感】
ドイツのインダストリー4・0は究極のFA化を目指しており、生産設備やそれを動かすシステムの業界標準を狙っているのがシーメンス。ドイツにはSAPなどが主導して業務向けシステムの統合で先行してきた風土がある。一方、日本の車部品はまだバーコード管理が主流。坂口氏は「泥臭い現場と理想のギャップは大きい。システムがすぐに統合できるイメージがわかない」という。
まずは日本、ドイツともに顧客の情報開示への保守性が課題になる。工作機械ユーザーにとって加工ノウハウなどは門外不出で、外部とオープンにつながることに抵抗感は強い。
圧縮機など生産設備の稼働状況を遠隔地から監視・診断するサービスを2月に始めた日立製作所。「ビッグデータを分析すれば、これまで無関係と思われた情報から新しい発見があるはず。ただ情報を開示すれば、どうもうかるかを提示する必要がある」(インフラシステム社)。
新たな製造業革命はIT産業のビジネストークという側面もあるが、最近の米グーグルなどによる大型買収は資本や金より「情報」が価値を持つ時代の到来を先取りしている。“リアル”なメーカーも工場と情報のエコシステム(生態系)づくりへの挑戦が始まった。
連載「つながる工場(1)」モノと情報が同質化
工場があらゆるものとつながる時代が見え始めた。ドイツが推進する第4次製造業革命「インダストリー4・0」は、開発から調達、生産、販売にいたるすべての基幹システムを統合し、競争力を高める国家プロジェクト。インターネットによってモノに関する情報を関連づけるIoTを活用して部品にかかわる工程が「見える化」できれば、従来のサプライチェーン管理(SCM)は様変わりするだろう。つながりの最終地点は顧客であり、これまで“閉ざされていた”工場は一転、いつか巨大な情報拠点に進化するかもしれない。モノづくり大国・日本は工場の価値を再定義できるか試されている。
【機械のスマホ化】
2013年9月にドイツ・ハノーバーで開催された「欧州国際工作機械展」。DMG森精機が初披露した工作機械の新しい操作盤「セロス」には、タッチパネルを採用。ネットに接続して機能ソフトを追加できる。必要なアプリケーション(応用ソフト)をダウンロードして使うスマートフォンと同じ。まさに外部とつながる工作機械の「スマホ化」だ。森雅彦社長は「いずれセロスの生産データと営業や経営システムを連携できるようにしたい」と話す。
【中小への浸透】
未来調達研究所の坂口孝則取締役は気鋭のSCM分析家。もともとホンダの購買部門に勤務していたが、製品ライフサイクル管理(PLM)や顧客情報管理(CRM)などがタコツボのように細分化されていることに疑問を抱いたという。
「漠然と思っていた“つながる”というコンセプト。3年ほど前からいろいろな人が唱え始めたが、第4次産業革命の本質は情報と物質の違いがなくなることだ」とみる。部品や材料にセンサーを取り付ければ、納期や不良検知なども瞬時に把握でき、ビッグデータ(大量データ)として活用できる。
経済産業省が年内に策定する「日本版インダストリー4・0」は、大企業だけでなく日本の強みである中小企業にもロボットやITを導入し、生産性向上を狙う内容になりそう。仮にデジタル機器のように自動車分野などでも設計データなどの公開が進めば、大手のSCMシステムに中小メーカーが乗っかり、受注が増加して国内生産を維持するストーリーもみえてくる。
【強い抵抗感】
ドイツのインダストリー4・0は究極のFA化を目指しており、生産設備やそれを動かすシステムの業界標準を狙っているのがシーメンス。ドイツにはSAPなどが主導して業務向けシステムの統合で先行してきた風土がある。一方、日本の車部品はまだバーコード管理が主流。坂口氏は「泥臭い現場と理想のギャップは大きい。システムがすぐに統合できるイメージがわかない」という。
まずは日本、ドイツともに顧客の情報開示への保守性が課題になる。工作機械ユーザーにとって加工ノウハウなどは門外不出で、外部とオープンにつながることに抵抗感は強い。
圧縮機など生産設備の稼働状況を遠隔地から監視・診断するサービスを2月に始めた日立製作所。「ビッグデータを分析すれば、これまで無関係と思われた情報から新しい発見があるはず。ただ情報を開示すれば、どうもうかるかを提示する必要がある」(インフラシステム社)。
新たな製造業革命はIT産業のビジネストークという側面もあるが、最近の米グーグルなどによる大型買収は資本や金より「情報」が価値を持つ時代の到来を先取りしている。“リアル”なメーカーも工場と情報のエコシステム(生態系)づくりへの挑戦が始まった。
日刊工業新聞2014年07月10日 1面