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深刻なドライバー不足、ヤマトは思い切った協業へ舵を切るのか

荷物量10年で倍増!*もはや一企業の問題ではない
 ヤマト運輸が深刻な人手不足や荷物量の急激な拡大への対策に迫られている。ネット通販の拡大で、ヤマトの宅配便の荷物量はこの10年で5割拡大。労働側は荷物量の抑制という物流会社にとっては禁じ手とも言える提案で窮状を訴えている。物流施設の高度化など人手不足対策に手を付け始めているが、人手不足や荷物量の増加が続けば、他業種との協業など思い切った対策も必要となりそうだ。

ネット通販にフリマアプリも…


 親会社であるヤマトホールディングスの山内雅喜社長も、「16年半ばから労働力が逼迫(ひっぱく)してきており、17年は本格的な対応が必要」と述べるなど、経営側も問題を認識している。ヤマトの宅配便の荷物量は、06年度の11億2899万個から15年度は17億3126万個と5割以上拡大。数年前に競合の佐川急便がネット通販大手のアマゾンの配送から撤退したことで急激に増えた。「メルカリ」など、フリーマーケットアプリケーション(応用ソフト)の拡大も拍車をかけている。

 こうした中、ヤマトは最新鋭の大型物流施設を東京、名古屋、大阪に整備。東京の「羽田クロノゲート」をはじめ、今秋には大阪に「関西ゲートウェー」が完成予定で、東名阪での整備が完了する。物流施設の高度化の最大の目的は最新鋭のマテハン機器の導入で仕分けを効率化し、配送を高速化することにある。だが今は省人化による人手不足への補完に期待が高まっている。

宅配ロッカー助けになるか?


 ただ、現場を最も圧迫しているのは、仕分け作業よりも、再配達の拡大で非効率になっている配送作業だ。再配達に追加料金を設けるといったアイデアもあるが、消費者に理解を得られるか、ハードルが高い。現状、労使交渉では、時間指定を現在の区分から減らし、ドライバーの負担を軽減することが検討されている。

 ヤマトでは再配達問題の対策の一つとして、物流ネットワークを統括する基幹システム「NEKOシステム」の刷新を進めている。送り状情報をデジタル化してビッグデータとし、人工知能(AI)を採り入れることで、その日に配達する住所から、最も効率の良い配送ルートを割り出す仕組みを構築。年内に順次導入地域を広げる方針だ。ヤマトではこのほか、フランスの企業と組み、宅配ロッカーの設置を拡大。鉄道各社と連携し、設置台数を増やすなど、受け取り拠点を広げている。

 物流は社会的なインフラでもあり、これが維持できないとなると、一企業の問題では片付けられなくなる。今後の労働市場と荷物量の状況によっては、物流会社同士の連携による混載や他のサービス業との協業など、思い切った対策が必要となる可能性もある。
 

(文=高屋優理)

記者ファシリテーター


 ヤマト幹部も「同業での幹線輸送を協業で行うのも視野に入れている」と話しています。ですが実現までにはまだハードルが高そうです。他業種との連携であれば、例えば新聞配達や食品配達などのルート配達を使うのも手ではないでしょうか。
日刊工業新聞2017年3月3日
原直史
原直史 Hara Naofumi
インターネット通販の便利さは驚くばかりだ。その一方でユーザー側も、これでは配送会社の人は大変だろうという思いを持っている。ヤマトの決断はこの大変さが限界にきていることを物語っている。どんなに倉庫のIT化が進んでも、AIによって効率化が促進されても、配達というユーザーとの接点業務は人手に頼らざるを得ない。むしろ他のプロセスの効率化が進めば進むほど、この最後の業務にしわ寄せが来てしまう。これはボトルネックというより、その仕組みの限界とも言うべきものだろう。プロセスのどこかに過大な負担をかけざるを得ないのであるなら、それはサステナブルな仕組みとは言えない。最近、外食産業で24時間営業を見直す動きが出ているが、これも一部への過重負担が限界にきていることの表れだ。これまで日本全体で便利さや効率性を追求してきたが、そろそろ「程よい便利さ」という社会的コンセンサスを見つけるべきではないだろうか。

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