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パリ協定は無視?トランプ政権の環境・エネルギー政策を読み解く

原発にコスト競争力はない。日本が石炭復活を支える?
パリ協定は無視?トランプ政権の環境・エネルギー政策を読み解く

トランプ公式フェイスブックページ

 米トランプ政権の環境・エネルギーを読み解く検討会が28日、都内で開かれた(国際環境経済研究所と産業環境管理協会「産業と環境の会センター」の共催)。

  国際環境経済研究所の山本隆三所長、松本真由美理事が2月上旬、米国で現地取材した成果を報告した。トランプ氏は大統領選挙期間中、「気候変動問題は中国のでっち上げ」と発言。オバマ前大統領が任期最後に批准した「パリ協定」からの離脱も公言していた。温暖化は起きていないと考える「気候変動懐疑論者」であるトランプ新大統領の誕生で、米の温暖化政策は変わるのか。

山本隆三所長(常葉大学教授)


  山本氏はトランプ氏のエネルギー政策の基本「エネルギー自給率100%(今は80%)」を中心に報告した。
 「俺が大統領になれたのは石炭産業のおかげ」と発言していることに注目。民主党の牙城だった東部「石炭州」で勝利できた恩に報いようと「石炭復活」を掲げている。

 石炭は燃焼するとCO2を大量に排出するため、オバマ政権下では厳しい規制を受けていた。オバマ氏の看板政策である「クリーンパワープラン」は、発電所からのCO2排出量32%削減を求める。石炭火力発電所は事実上、廃炉を迫られていた。

 トランプ政権で石炭産業が息を吹き返すかもしれない。トランプ氏は2月16日、石炭採掘を制限していた「わき水保護法」を無効化し、連邦政府が所有する鉱区開放(石炭開発を許可)を打ち出した。

 ただし山本氏の報告によると米石炭業界団体は「トランプになっても石炭生産は増えない」と話したという。シェールガス革命が起きた米国では、供給量が増えた天然ガスの価格が低下。もっとも安い石炭との価格差が縮まった。山本氏は「天然ガスにコストで負ける」という業界団体の予想を紹介した。

 山本氏が示した発電所の建設費の比較によると、石炭火力はガス火力の倍のコストがかかる。トランプ氏が「石炭復活」と叫んでも、市場原理に従うと思うようにいかなそうだ。

 興味深いのが原子力政策の分析。「トランプ氏が原子力支持なのかわからない」としながらも、現地取材の成果を披露した。現在、米国の原発は4基が建設中、7基の新設が許可されている。ただし「最近のコストバランスをみて躊躇している。新規計画があっても、実際にやるかわからない」(山本氏)。

 東芝問題で明らかにように、原発は安全対策の建設費が膨らんでいる。安い天然ガスが豊富にある状況で、わざわざ高いコストをかけて原発を建設するか疑問。それでも「まだまだAP1000をやれると原子力機関は言っている」とのこと。

 もう一つ、興味深い報告が風力発電について。テキサス州知事時代に風力を推進したペリー氏をエネルギー庁長官に指名。山本氏は「風力への投資が大きくなるのでは」と分析した。実際に風力発電の電気を送る送電網の増強計画が各地にある。
 
 質疑応答でも山本氏が興味深いエピソードを紹介した。現地取材中、「日本は石炭火力をたくさんつくるんだろ?」と質問されたという。確かに日本では石炭火力の建設計画がめじろ押し。もしかしたら「日本に石炭を買え」と言い出すかもしれない。トランプの石炭復活を日本が支えることになるのだろうか。

松本真由美理事(東京大学客員准教授)


 逆行が心配される温暖化政策を中心に取材した。注目されるのが、「パリ協定」離脱問題。トランプ氏は就任早々、ホワイトハウスのホームページから気候変動に関係する情報を削除した。選挙期間中の発言を実行に移したようだが。

 現地ヒアリングによると「パリ協定をignore(無視する)」という声が多く聞かれたという。離脱はしないがスルーし、米国が宣言した削減目標も、やはりスルーするだろうという意見を聞いたという。

 「反温暖化対策」の具体的行動となりそうなのが「グリーンパワープラン」の見直しだ。こちらも「見直すだろう」という見方が多かった。現地では「見直しの大統領令を準備」と報道されている。

 さらに影響が大きそうなのが予算削減だ。米国の環境保護政策を担うEPA(米環境保護庁)を「トランプ氏は解体するだろう」と言われている。3億ドル規模の大幅予算カットを断行する可能性もある。

 また、EPAの人員を3分の1まで減らすとの見方も多い。松本氏は「人員削減の可能性は高いと考えている。3分の1は難しくても、2分の1はあるのでは」と見通した。

 また自動車の燃費規制(CAFE)についても報告した。25年をターゲットとする現規制は「非常に厳しい目標」(松本氏)といい、自動車メーカーからの要望を聞き「撤廃か緩和するのでは」と予想する。

 ただし「カリフォルニア、ニューヨークなど先進7州は、州の規制を変えないだろう」と予想する。またCAFEは歴史が長く「州法と絡み合っていて撤廃までは数年かかる」との見方も示した。
ニュースイッチオリジナル
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
報告を聞き、パリ協定から脱退ではなく、無視するのが現実的な選択のような気がしました。米国がパリ協定を無視すると、中国も温暖化対策に消極的になるという負の連鎖を懸念する見方も米国内にあるそうです。それにしても国際環境経済研究所が、原子力政策にマイナスの報告をするとは意外で、新鮮でした。脱原発を宣言しなくても、市場原理から原発推進が難しいようです。山本所長は建設が長期間、途絶えると原発のノウハウが失われると心配していました。

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