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理事長は医師が原則だが…有能な経営者とは限らない現実

医療法人大郁会の倒産にみる理事長の責任
理事長は医師が原則だが…有能な経営者とは限らない現実

写真はイメージ

 大郁会は、人工透析の専門医である現理事長が2015年4月に開院した透析内科の「福津中央クリニック」がルーツ。若い世代の人口流入を見込んで医療モールの開設を計画し、16年2月に産婦人科、同年5月に小児科を開院した。

 医療モールの建設計画はある元理事が主導した。しかし、計画は粗雑で、産婦人科は開設当初から採算割れが続いた。皮膚科は担当医師が見つからず開院すらできなかった。さらに元理事はモール建設に伴う融資金の一部を懐に入れ、別の元理事は法人カードを使ってクラブに入り浸った。これらの私的流用で資金繰りが急速に悪化、小児科開院前の16年3月には社会保険料などの滞納が始まった。

 元理事らは第三者を巻き込み、正規の手続きを経ずに債権譲渡契約書なども作成し、診療報酬の詐取を企てた。結果、診療報酬は供託され、大郁会は社会保険料などの滞納を解消できぬまま16年8月に診療報酬が差し押さえられた。

 理事長は、私財をはたいて運転資金を用立てたが、ある商品納入先からは信用取引の継続に難色を示され、現金引き換え払いを突きつけられた。経営が立ち行かなくなる中、16年10月に小児科を閉院し、同年12月には透析内科の診療も休止。17年1月に産婦人科も閉院して民事再生法の適用を申請した。

 債権者説明会では理事長の経営責任を問う声や元理事らに対する損害賠償を求める声も上がった。医療法人の理事長は医師が原則だが、有能な医師に企業経営者としての手腕が備わっているとは限らない。この弱みにつけ込んだ元理事らの悪事は許されるべきものではないが、それを防げなかった理事長の責任も重い。

 大郁会は透析内科の診療を再開する一方、医療モールを一括売却することで債務を圧縮し、再生を図る考えだ。今度は、経営者としての手腕が期待される。
(文=帝国データバンク情報部)
医療法人大郁会
住  所:福岡県福津市日蒔野5−17−1
代  表:大原郁一氏
資本金:584万円
年売上高:約1億4300万円
    (16年12月期)
負  債:約16億4300万円
日刊工業新聞2017年2月28日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
2016年の医療法人・病院の倒産件数は34件で、前年比30%以上も増加した。都市部でも過剰投資と理事会の形骸化による倒産も増えているという。

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