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キャベツ収穫機、ヤンマーにリベンジのチャンスがやってきた!

1度目は農家に根付かず。収穫方法の多様化を追い風にして他の葉物野菜にも広がるか?
キャベツ収穫機、ヤンマーにリベンジのチャンスがやってきた!

刈取部からキャベツを取り込み根などを切り離す

 日本の農業の主役ともいえる稲作は、収穫、流通までほとんどの作業が機械化されている。一方、野菜は人手作業が中心で、技術的なハードルが高くないニンジンやタマネギなど根菜の収穫作業の機械化が近年進み始めた段階だ。キャベツなどの葉物野菜は今も人手による収穫が多い。ヤンマーが開発したキャベツ収穫機は手間のかかる人手作業の苦労を半減できると期待されている。
 
 「加工・業務用キャベツの需要増が普及につながった」と打ち明けるのは、アグリ事業本部商品企画部マーケティンググループの楢原陽三郎氏。今回、ヤンマーは、農業・食品産業技術総合研究機構・生物系特定産業技術研究支援センター(生研センター)、オサダ農機(北海道富良野市)と共同で、キャベツ収穫機「HCシリーズ」を開発した。

 【収穫の多様化】
 実はキャベツ収穫機は2000年に製品化されたが、農家に根付かなかった。今回のHCシリーズは、その改良版で収穫機自体の機構は以前と大差ないという。普及のきっかけとなったのは、キャベツの収穫方法の多様化だった。小売店に並ぶ1個売りのキャベツは、「選択収穫」という方法で、外見の良いキャベツだけを収穫する。畑のキャベツをすべて収穫してしまうヤンマーの収穫機は選択収穫に合わなかった。

 近年、調理済み製品や外食産業で使う加工・業務用のニーズが増えてきた。農業推進部関連商品推進グループカスタマイズグループの松本明昌氏によると、すでに野菜需要での加工・業務用需要の割合は半分を超えている。加工・業務用キャベツは均一な大きさが必要なく、一斉収穫を受け入れる“土壌”が整ってきた、と言える。

 HCシリーズは、刈取部の先端にあるホイルがキャベツを中心に掻(か)き込みながら引き抜く。そして、姿勢制御ローラーとベルトのスピード調整でキャベツの位置を整えつつ切断部に送り、根本部分を精度良くカットする。その際、不必要な外側の葉の元もカットし葉を切り離せる。しっかりキャベツの位置を整えるローラーやベルトの機構を作るには苦労があった。

 【普及へ残る壁】
 優れもののHCシリーズだが、さらなる普及へはまだ壁が残っている。一つは収穫したキャベツを入れる鉄製コンテナ。普通の農家は収穫時に段ボールへキャベツを入れトラックなどで運ぶ。対してHCシリーズで使う鉄製コンテナは容量が大きく扱いが大変な上、段ボールと違い、空のコンテナを農家に戻す手間がかかる。

 さらに、収穫機は10町(約9万9000平方メートル)以上の規模に向き、複数のキャベツ農家を集めて作業する組織化が導入に不可欠となる。農業協同組合(JA)などと連携して鉄製コンテナをサイクルさせる仕組み作りを各地で行うことや、組織化の手伝い、さらに「収穫物の出荷先を見つける手助け」(楢原氏)も必要となってくる。農家に対する理解を深めるため、地道な努力が求められる。

 【省力化効果】
 ヤンマーは今後、収穫機に向いたキャベツの品種の普及も必要と説く。カット時に姿勢を制御しやすいキャベツの品種ならロスが少なく生産性が上がる。さらに、苗の移植機など土づくりから流通までの工程を機械化できれば、収穫機単体の導入より大きな省力化効果が生まれる。

 一方で、キャベツ以外の葉物野菜も当然「収穫機を開発してくれ」という農家からの声は多いという。だが、白菜やレタスはかなりハードルが高い。例えばレタスはすぐに葉が割れてしまう。この難題の解決には時間がかかるようだ。

 関連記事=農業白書でもロボット化推進を明言

 先日発表された2014年度の農業白書では、作業者の高齢化や新規就農者不足の中、農業を成長産業とするため、生産・流通革新が欠かせないとし、そのためには農作業の省力化と大規模生産の実現が必要としている。

 具体例として、無人トラクターと有人トラクターの協調作業システムを目指す北海道大学などのグループを紹介。また、トヨタ自動車と農業IT管理ツールを開発し、分散した水田を少人数で管理する鍋八農産(愛知県弥富市)を紹介した。センシング技術と過去のデータ活用による精密農業、重労働から解放するアシストスーツ、省力化できる除草ロボットの可能性も示した。

日刊工業新聞2015年05月18日 モノづくり面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
農業ロボットの普及は、機械の進化以上に使い手や農家の意識改革が重要になると思う。

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