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車を動かせても、高速道路の入り口が見分けれらない認知症

高齢者の運転、大脳判断を求められる場合に問題が発生.
車を動かせても、高速道路の入り口が見分けれらない認知症

認知症になってもダンスもうまいしピアノも弾けるが・・(写真はイメージ)

 高齢者の交通事故が社会問題になっています。何キロも高速道路を逆走したり、小学生の集団下校の列に車が飛び込んだり、スーパーの立体駐車場でブレーキとアクセルを踏み間違えて転落したとか、危険な世の中になったと思います。

 自動車の運転技能は、ダンスやピアノなどと同様に、「身体で覚える記憶」として小脳が大きな役割を果たしていると言われています。一方、認知症の病変は大脳にあり、認知症になっても、ダンスもうまいし、ピアノも弾ける、車の運転もできる人は多いです。

 しかし、車を動かす事はできても、高速道路の入り口を見分けたり、駐車料金を支払うなど、身体で覚えた行為をしながら、何らかの大脳判断を求められる場合、問題が発生する事になります。

 認知症の人の運転は危険だという事で、2015年6月17日に道路交通法の一部改正が公布され、17年3月12日から75歳以上のドライバーについて、免許更新時に認知機能の低下が認められた人や、一定の違反行為を行った人について、専門医や主治医による臨時適性検査を受け、所定様式の診断書を提出しなければならなくなります。

 「認知症」の診断が下りれば、免許は取り消しです。改正で臨時適性検査対象者が全国で4万―5万人に増加することが想定されています。15年は全国で1650人で、約30倍の増加となります。

 今後医師の診断書一つで免許が取り消しになってしまうので、我々医師は、大変な責任を負うことになります。医師は患者の幸せを第1に考える職業だと思います。その医師が、患者さんの運転免許の資格を奪う事に関係するという事になるので悩ましく思います。

 私の病院のある高尾山で有名な八王子市は半分が山で、バスが1、2時間に1本しかないところもあります。

 特に、歩行不自由な高齢者は軽自動車を足代わりに使っている人も多いです。こうしたところに住んでいる人から車を取り上げてしまうと生活できなくなってしまいます。

 この危険回避と権利侵害をどう整理するかということは大きな問題です。仏心を起こし、「少し認知症があるけど大丈夫でしょう」と目を瞑(つぶ)ったばかりに不幸が起きても責任はとれません。また、軽い認知症の方々が、自分の能力を過信、深刻な事故を起こすかもしれません。

 いよいよこの制度が始まります。制度の趣旨は分かりますが、同時に地域で高齢者の移動手段の早急な対応、整備を望みます。
(文=平川淳一・平川病院院長)
日刊工業新聞2017年2月24日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
うちの父親は74歳。横に乗ることがありますが、確かに運転技術はあまり変わっていませんが、最近は降り口を間違えたりすることが結構あります。認知症ではないですが。

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