トランプでかすむ“made with japan”の翼
「ボーイングの雇用を減らしている」という論理に飛躍すると厄介に
米ボーイングは17日、サウスカロライナ州の自社工場で、中型機「787」の3機種目となる「787―10」のロールアウト(完成披露)式典を開いた。トランプ大統領ら政府要人も出席。ボーイングのデニス・ミュイレンバーグ最高経営責任者(CEO)はプレスリリースで、「この場所はあと数年で、近代的な航空機生産工場に様変わりする。787を世界中に届け、数千人の雇用を作り出す」と高らかに宣言し、米国内での雇用増を重視するトランプ大統領に寄り添う姿勢を見せた。
ボーイングは西海岸のワシントン州に主力工場を置く。ただ、787の二つ目の組立工場として、南東部サウスカロライナ州にも09年に進出を決定。17日にロールアウトした「787―10」は、サウスカロライナ州の工場だけで生産される予定だ。このこともあり、式典では「787が米国内に新たな雇用を生み出す」という点ばかりが強調された。
ただ、皮肉にも「787」は歴史上、ボーイングが最もアウトソーシング(外部調達)を進めた機種だ。ボーイングは機体構造のうち約35%を日本企業と共同開発し、生産を委託。金属に代わる機体の主要材料として、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を重量ベースで全体の約半分に採用し、炭素繊維は日本の東レから調達している。
ボーイング幹部は、日本で787を説明する時には必ずと言っていいほど「メード・ウィズ・ジャパン」と持ち上げる。主翼は三菱重工業、前部胴体などを川崎重工業、中央翼を富士重工業が製造し、いずれも名古屋地区の工場から米国に空輸で送っている。このほかボーイングはイタリアの企業にも胴体や尾翼の生産を任せている。
787を最初に発注したのも日本の全日本空輸(ANA)だ。2011年に初号機を受け取り、大々的なPRを展開したことは記憶に新しい。
初期型のANA向け787は機体前方に大きく「787」の文字を描き、日本における知名度向上に一役買った。バッテリー問題で一時期は運用停止していたことがあったものの、「メード・ウィズ・ジャパン」の787は、間違いなくボーイングの主力機種の一つとして世界中を飛び回っている。
トランプ大統領の就任より少し前から、日本の航空宇宙産業は踊り場にさしかかっていた。日本航空宇宙工業会が2016年11月にまとめた業界大手25社の生産や輸出の見通しによると、16年度の生産額は1兆7643億円と、09年度以来7年ぶりに前年を下回る見通しだ。
ボーイングは大型機「777」を17年から減産すると発表しており、生産数は従来の月8・3機(年100機)から月7機に減る。加えて、海外報道によれば17年8月からはさらに「月5機」に減らす計画だという。
ボーイングは20年の就航をめどに777の新型機種を開発しており、既に航空会社からの受注の多くは新型機に移行している。開発が完了するまでの間、現行機種の生産ペースは徐々に落とし、生産をつなぎとめる考えだ。
日本の重工メーカーは対応に追われる。三菱重工の宮永俊一社長は2月2日、2016年4―12月期の決算発表の席で「777の仕事が落ちていくことははっきりしている」と話し、主力工場を構える名古屋地区の生産再編などを進める考えを示した。
一方、川崎重工の富田健司常務は1月31日の決算発表会見で、「777の減産や円高で航空宇宙部門の16年度売上高は減るが、生産性向上に伴うコストダウンが寄与する」とし、同部門の営業利益見通しを引き上げた。
2016年10月、愛知県半田市に777の次世代機向けの新工場を完成した富士重工。航空宇宙部門を率いる永野尚専務執行役員は16年夏、日刊工業新聞の取材に「需要の谷間だが、この期間は歯を食いしばるしかない」と述べている。
<次ぎのページ、ボーイングとトランプの距離は?>
「787が米国内に新たな雇用を生み出す」
ボーイングは西海岸のワシントン州に主力工場を置く。ただ、787の二つ目の組立工場として、南東部サウスカロライナ州にも09年に進出を決定。17日にロールアウトした「787―10」は、サウスカロライナ州の工場だけで生産される予定だ。このこともあり、式典では「787が米国内に新たな雇用を生み出す」という点ばかりが強調された。
ただ、皮肉にも「787」は歴史上、ボーイングが最もアウトソーシング(外部調達)を進めた機種だ。ボーイングは機体構造のうち約35%を日本企業と共同開発し、生産を委託。金属に代わる機体の主要材料として、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を重量ベースで全体の約半分に採用し、炭素繊維は日本の東レから調達している。
ボーイング幹部は、日本で787を説明する時には必ずと言っていいほど「メード・ウィズ・ジャパン」と持ち上げる。主翼は三菱重工業、前部胴体などを川崎重工業、中央翼を富士重工業が製造し、いずれも名古屋地区の工場から米国に空輸で送っている。このほかボーイングはイタリアの企業にも胴体や尾翼の生産を任せている。
787を最初に発注したのも日本の全日本空輸(ANA)だ。2011年に初号機を受け取り、大々的なPRを展開したことは記憶に新しい。
初期型のANA向け787は機体前方に大きく「787」の文字を描き、日本における知名度向上に一役買った。バッテリー問題で一時期は運用停止していたことがあったものの、「メード・ウィズ・ジャパン」の787は、間違いなくボーイングの主力機種の一つとして世界中を飛び回っている。
日本の航空機産業は踊り場に
トランプ大統領の就任より少し前から、日本の航空宇宙産業は踊り場にさしかかっていた。日本航空宇宙工業会が2016年11月にまとめた業界大手25社の生産や輸出の見通しによると、16年度の生産額は1兆7643億円と、09年度以来7年ぶりに前年を下回る見通しだ。
ボーイングは大型機「777」を17年から減産すると発表しており、生産数は従来の月8・3機(年100機)から月7機に減る。加えて、海外報道によれば17年8月からはさらに「月5機」に減らす計画だという。
ボーイングは20年の就航をめどに777の新型機種を開発しており、既に航空会社からの受注の多くは新型機に移行している。開発が完了するまでの間、現行機種の生産ペースは徐々に落とし、生産をつなぎとめる考えだ。
日本の重工メーカーは対応に追われる。三菱重工の宮永俊一社長は2月2日、2016年4―12月期の決算発表の席で「777の仕事が落ちていくことははっきりしている」と話し、主力工場を構える名古屋地区の生産再編などを進める考えを示した。
一方、川崎重工の富田健司常務は1月31日の決算発表会見で、「777の減産や円高で航空宇宙部門の16年度売上高は減るが、生産性向上に伴うコストダウンが寄与する」とし、同部門の営業利益見通しを引き上げた。
2016年10月、愛知県半田市に777の次世代機向けの新工場を完成した富士重工。航空宇宙部門を率いる永野尚専務執行役員は16年夏、日刊工業新聞の取材に「需要の谷間だが、この期間は歯を食いしばるしかない」と述べている。
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