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日本の航空機産業がシンガポールから学ぶべきこと

エアバスがパイロット養成支援、修理・整備も集積進む
日本の航空機産業がシンガポールから学ぶべきこと

実際の経路の操縦を疑似体験できる中型機「A350XWB」の訓練設備

 欧州エアバスがアジア・太平洋地域の航空機需要拡大で予想されるパイロット不足対策に乗り出している。2016年4月にシンガポールに開設した飛行訓練施設「エアバス・アジア・トレーニング・センター(AATC)」が、17年中にはフル稼働状態になる。航空会社28社と利用契約を結んでおり、パイロットの養成を支援して需要拡大を取り逃がさない戦略だ。

 「航空機が膨大に増えるので、訓練が重要になる。アジア・太平洋地域の需要に対応する」―。ヤン・ラルデAATCゼネラル・マネージャーはAATC開設の狙いを説く。

 同地域は経済成長や格安航空会社(LCC)の台頭で、航空機需要が世界平均を上回るペースで拡大する。それに伴い、深刻なパイロット不足が見込まれる。国際民間航空機関(ICAO)は、同地域で必要なパイロットが30年には約23万人と10年時点の4・5倍になると予想する。

 AATCはエアバスの4番目にして最大の訓練施設だ。シンガポール航空との共同出資で、約1億ドル(約113億円)を投じて開設した。全機種の訓練が可能で、17年には許容人数の年間1万人を受け入れる計画。アジアでは1997年開設の北京に次ぐ施設となる。

 目玉は6基ある疑似操縦設備「フル・フライト・シミュレーター(FFS)」だ。コックピットを再現した室内で操縦かんや機器を操作し、CG画面を見ながら実際の飛行経路を疑似操縦できる。雷など気象条件を設定できるほか、離着陸時に身体にかかる負荷も体感できる。

 FFSは機種別にあり、6基中2基が中型機「A350XWB」用だ。19年までに追加する2基中1基も同機種用で、AATCは同機種の訓練施設の意味合いが強い。ラルデゼネラル・マネージャーは「A350XWBのハブとなる施設を目指す」と意気込む。

「A350XWB」アジア・太平洋地域の需要取り込む


 同機種に注力するのは、アジア・太平洋地域の需要拡大を取り込む機種だからだ。エアバスは35年には、同地域で運航する航空機が現在の約5700機から約1万4700機に増えると予想する。

 その中心と見込むのが、A350XWBなど双通路型の中・大型機種だ。同地域では米国、欧州行きなど長距離路線が多く、航続可能距離が長い機種が必要になるため。エアバスは35年までに世界で引き渡される双通路型4390機のうち、同地域分が46%を占めると見込む。

 「こつをつかめば操縦しやすい。初めての機種なので期待している」。日本航空のベテラン機長、山岡孝史運航本部副本部長はAATCでA350XWBを疑似操縦した印象を語る。同社は19年から6年ほどかけ、同機種を31機導入する。エアバス機の発注は初めてで、AATCの利用を検討している。

 米ボーイングも07年、シンガポールに自社でアジア最大の訓練施設を開設し、中型機「787」など3機種の訓練を実施している。パイロット不足への対策というサービス面での競争も激化しそうだ。
(文=名古屋・戸村智幸)
日刊工業新聞2017年2月14日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
国土の狭いシンガポールですが、この記事で紹介されている訓練施設だけでなく、アジア太平洋地域のエアラインの修理・整備でも航空機産業の集積が進んでいます(日本の全日空や日航も機体修理の一部はシンガポールに委託しています)  日本は重工メーカーを中心に機体・エンジンの製造では強みを発揮していますが、こうした周辺産業の取り込みではシンガポールに学ぶべき点が多いと言えます。

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