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次世代のがん治療は効果を事前に“見える化”

PETで薬剤の集積状況を画像化、適切、不適切かを判断
次世代のがん治療は効果を事前に“見える化”

FBPA合成装置の試作機

 「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」はがん細胞に十分な量のホウ素薬剤(BPA)が集積していることが治療の前提だ。薬剤の集積が良好ながんは、中性子の吸収(捕捉)が良く、確実な治療効果が得られる。

 治療前の陽電子放射断層撮影装置(PET)検査は、がん細胞への薬剤の集積状況を画像化し、あらかじめ治療の適応、不適応を判断できる。治療効果を事前に“見える化”できるのがBNCTの最大の特徴だ。

 畑澤順大阪大学教授は「PET検査でBNCTが効く可能性がある人だけに治療できる。周辺の正常な臓器にも被ばくを防ぐことができ、二重三重で安全性を担保できる」と話す。検査による患者の選別で効率性が高く、安全な運用が可能だ。

 PETで薬剤の体内での分布を画像化するためには、BPAに陽電子放出物質のフッ素(18F)を結合させたFBPAという物質を合成し、ごく微量のFBPAを投与する必要がある。これにより、がんへの集積を確認できるほか、がんの悪性度と相関関係にある集積比も予測できる。

 だが、FBPAは従来大量に製造するのが困難だった。大阪府立大学BNCT研究センターの切畑光統特認教授は「今後、患者が増えていく中で、事前検査のPETの部分がうまくいかないとそこが足を引っ張る『律速段階』になる」と話す。

 大阪府大とステラファーマ(大阪市中央区)はFBPAの合成方法についても研究を進め、大量合成が可能となる試作機を製作した。これまでは一度の合成で1―2人分しか合成できなかったが、10数人分を一度に合成できる。切畑特認教授は「完成が近づいている。何としても完成させたい」と意気込む。

 病院への設置が可能な中性子源である加速器と効率よくホウ素を集積させるホウ素薬剤、そして薬剤の集積度を画像化するPET検査技術はBNCTの普及に不可欠な要素だ。さらにBNCTにとどまらない魅力もある。

 「FBPAはBNCTだけでなく、通常のがん診断に有効だということが分かった」(切畑特認教授)。通常、PET検査で使う検査薬で判断が難しい正常な組織でも正確な診断が可能なため、将来は置き換えも期待できる。

 畑澤教授も「BNCTの技術が他にも展開できる。そのインパクトは大きい」と話す。連携による高い技術集積が新たな可能性も生み出そうとしている。


日刊工業新聞2017年2月9日
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
がんが体のどこにあるかが詳細にわかれば、治療効果を高めるだけでなく、がんの“見逃し”を防ぐこともできるのではないか。がんは早期発見・早期治療が大前提。PETの技術が向上し、初期段階で幅広く利用できるようになれば、結果的に難治性がんになるリスクも減らしてくれるのではないか。

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