医療機器の製販企業が語る「医工連携」の勘所
第一医科・小池氏に聞く。医師からニーズを見極める
高性能品を求める市場ニーズや高齢化社会の進展で、今後も成長が期待される医療機器産業。これまで培った技術を基に参入を目指すモノづくり企業も増えている。耳鼻咽喉科に特化した医療機器製造販売会社の第一医科(東京都文京区、林正晃社長)は、そうしたモノづくり企業との連携に熱心だ。マーケティングを担当する小池直樹取締役執行役員に戦略を聞いた。
―行政の支援策を積極的に活用し、開発に取り組んでいます。
「政府が2012年に打ち出した『医療イノベーション5か年戦略』などにより、医工連携の機運が高まり、自社でも新しい取り組みができないかと意識するようになった。行政の支援策を活用する場合、医師にも、広く役立つ製品を開発しようと考えてもらいやすい点も大きい」
―マーケティングで最も意識しているポイントは何ですか。
「医師からニーズを引き出すことだ。ただ、その医師だけが使いたいという特注品なのか、潜在的なニーズがあるモノなのかを見極めることが大事だ。併せて医療機器の製販会社である我々がニーズをつかみ、モノづくり会社と連携して製品化する“製販ドリブンモデル”も積極的に活用している」
―何か具体的な事例はありますか。
「例えば、山口県の『やまぐち産業戦略研究開発等補助金』の一環でめまい診療の解析専用眼鏡(フレンツェル眼鏡)と専用ソフトウエアの開発に取り組んでいる。YOODS(山口市)が画像処理技術、当社が製品化と販売支援、山口大学が製品やシステムの指導・評価、山口県産業技術センターが技術サポートと、産学官で進めている。専用ソフトウエアは16年度中に、眼鏡は17年度中の完成を目指している」
―支援策を活用しながら見えた課題などはありますか。
「富山県新世紀産業機構、富山大学、ハイメック(富山市)などと共同で、メニエール病治療機器の開発を進めている。海外では侵襲性のある治療機器があるが、日本では未承認だ。早期に実用化を図るため国産の既存機器を改良し、無侵襲で治療できる機器の開発を目指している。連携によって将来を見据えながら取り組みができていると感じている」
【記者の目・行政支援のメリット生かす】
これまでの医工連携は、モノづくり企業が医師の指示通りに試作品をつくり、医療機器の製販企業に持ち込んでも、コストや法規制などで折り合わず、うまくいかないことが多かった。一方で、製販会社はこれまでの蓄積からニーズに対する市場性の見極めに優れている。行政の支援を得ながら医工連携を進める点について、小池取締役は、「地元で技術力のある企業を紹介してもらえることがある」といい、力のあるモノづくり企業と取り組める点も魅力のようだ。
(聞き手=浅海宏規)
中小のモノづくり企業による医療機器分野への参入意欲が高まっている。高性能品を求める市場ニーズや高齢化社会の進展から、今後も持続的な成長が見込まれるためだ。医療機関と製造業を結びつける「医工連携」の関連団体や行政も、開発支援や展示会への出展補助に力を入れる。医工連携で先行する企業の事例から、ビジネスの可能性を探った。
精密切削工具メーカーの東鋼(東京都文京区)は2006年、医療機器分野に参入した。08年秋の米リーマン・ショックの前で、「医療機器へ参入を目指すモノづくり企業も少なく、医師もすぐ会ってくれた」と寺島誠人社長は振り返る。
現在は術具を1本からでも作るなど、きめ細かな対応が評判を呼び、医療分野の売上高比率が約10%まで上昇し「社内に活気が出るなど、変化も起きている」(寺島社長)。
ただ、こうした成功例は少ない。従来、モノづくり企業が医師の指示通りに開発しても、製品化の段階でコスト面や法規制などで折り合わず、壁にぶつかることが多かった。
そこで企業と医療現場の連携支援団体、日本医工ものづくりコモンズ(東京都千代田区)は「製販ドリブンモデル」を提唱する。医療機器の製造販売業許可を持つ「製販企業」が、医療機関とモノづくり企業の間に入り製品化を促す仕組みだ。製販企業は「臨床ニーズの目利き」(柏野聡彦専務理事)に優れており、市場性を見極めながら製品化を判断できる利点がある。
音声合成技術の開発などを手がけるエヌ・エス・エイ研究所(山口県宇部市)は、製販企業のフジタ医科器械(東京都文京区)と連携し、「6分間歩行試験(6MWT)」と呼ぶ歩行試験測定システムの開発に取り組む。
両社の出会いは16年1月、山口県産業技術センターが主催した東京都文京区内の製販企業との事業マッチング会「本郷展示会」が始まり。
ちょうど、山口大学医学部付属病院の平野綱彦准教授から「糖尿病や慢性呼吸器疾患で体が衰える『フレイル』の検出支援にあたり、身体能力を定量的に測定できるシステムが必要」と助言があり、「医療現場で一定の需要が見込める」(エヌ・エス・エイ研究所の岡西信幸社長)と共同開発を始めた。
中小製造業との連携・協業は製販企業にも利点がある。耳鼻咽喉科に特化した製販企業の第一医科(東京都文京区)は、医工連携を通じて行政が技術力のあるモノづくり企業を紹介してくれるため、「スムーズな開発が行いやすい」(小池直樹取締役)と指摘する。
経済産業省による開発支援では、同社がプロジェクトの中心となり、事業管理機関の富山県新世紀産業機構、富山大学、地元企業のハイメック(富山市)などと共同で難治性メニエール病の治療機器開発に取り組む。
医療機器分野では、中小製造業も製販企業も、医工連携支援団体や自治体の支援策を積極的に活用することが得策と言えそうだ。
(文=浅海宏規)
―行政の支援策を積極的に活用し、開発に取り組んでいます。
「政府が2012年に打ち出した『医療イノベーション5か年戦略』などにより、医工連携の機運が高まり、自社でも新しい取り組みができないかと意識するようになった。行政の支援策を活用する場合、医師にも、広く役立つ製品を開発しようと考えてもらいやすい点も大きい」
―マーケティングで最も意識しているポイントは何ですか。
「医師からニーズを引き出すことだ。ただ、その医師だけが使いたいという特注品なのか、潜在的なニーズがあるモノなのかを見極めることが大事だ。併せて医療機器の製販会社である我々がニーズをつかみ、モノづくり会社と連携して製品化する“製販ドリブンモデル”も積極的に活用している」
―何か具体的な事例はありますか。
「例えば、山口県の『やまぐち産業戦略研究開発等補助金』の一環でめまい診療の解析専用眼鏡(フレンツェル眼鏡)と専用ソフトウエアの開発に取り組んでいる。YOODS(山口市)が画像処理技術、当社が製品化と販売支援、山口大学が製品やシステムの指導・評価、山口県産業技術センターが技術サポートと、産学官で進めている。専用ソフトウエアは16年度中に、眼鏡は17年度中の完成を目指している」
―支援策を活用しながら見えた課題などはありますか。
「富山県新世紀産業機構、富山大学、ハイメック(富山市)などと共同で、メニエール病治療機器の開発を進めている。海外では侵襲性のある治療機器があるが、日本では未承認だ。早期に実用化を図るため国産の既存機器を改良し、無侵襲で治療できる機器の開発を目指している。連携によって将来を見据えながら取り組みができていると感じている」
【記者の目・行政支援のメリット生かす】
これまでの医工連携は、モノづくり企業が医師の指示通りに試作品をつくり、医療機器の製販企業に持ち込んでも、コストや法規制などで折り合わず、うまくいかないことが多かった。一方で、製販会社はこれまでの蓄積からニーズに対する市場性の見極めに優れている。行政の支援を得ながら医工連携を進める点について、小池取締役は、「地元で技術力のある企業を紹介してもらえることがある」といい、力のあるモノづくり企業と取り組める点も魅力のようだ。
(聞き手=浅海宏規)
日刊工業新聞2017年2月9日
「作って終わり」にしない
中小のモノづくり企業による医療機器分野への参入意欲が高まっている。高性能品を求める市場ニーズや高齢化社会の進展から、今後も持続的な成長が見込まれるためだ。医療機関と製造業を結びつける「医工連携」の関連団体や行政も、開発支援や展示会への出展補助に力を入れる。医工連携で先行する企業の事例から、ビジネスの可能性を探った。
精密切削工具メーカーの東鋼(東京都文京区)は2006年、医療機器分野に参入した。08年秋の米リーマン・ショックの前で、「医療機器へ参入を目指すモノづくり企業も少なく、医師もすぐ会ってくれた」と寺島誠人社長は振り返る。
現在は術具を1本からでも作るなど、きめ細かな対応が評判を呼び、医療分野の売上高比率が約10%まで上昇し「社内に活気が出るなど、変化も起きている」(寺島社長)。
ただ、こうした成功例は少ない。従来、モノづくり企業が医師の指示通りに開発しても、製品化の段階でコスト面や法規制などで折り合わず、壁にぶつかることが多かった。
そこで企業と医療現場の連携支援団体、日本医工ものづくりコモンズ(東京都千代田区)は「製販ドリブンモデル」を提唱する。医療機器の製造販売業許可を持つ「製販企業」が、医療機関とモノづくり企業の間に入り製品化を促す仕組みだ。製販企業は「臨床ニーズの目利き」(柏野聡彦専務理事)に優れており、市場性を見極めながら製品化を判断できる利点がある。
音声合成技術の開発などを手がけるエヌ・エス・エイ研究所(山口県宇部市)は、製販企業のフジタ医科器械(東京都文京区)と連携し、「6分間歩行試験(6MWT)」と呼ぶ歩行試験測定システムの開発に取り組む。
両社の出会いは16年1月、山口県産業技術センターが主催した東京都文京区内の製販企業との事業マッチング会「本郷展示会」が始まり。
ちょうど、山口大学医学部付属病院の平野綱彦准教授から「糖尿病や慢性呼吸器疾患で体が衰える『フレイル』の検出支援にあたり、身体能力を定量的に測定できるシステムが必要」と助言があり、「医療現場で一定の需要が見込める」(エヌ・エス・エイ研究所の岡西信幸社長)と共同開発を始めた。
中小製造業との連携・協業は製販企業にも利点がある。耳鼻咽喉科に特化した製販企業の第一医科(東京都文京区)は、医工連携を通じて行政が技術力のあるモノづくり企業を紹介してくれるため、「スムーズな開発が行いやすい」(小池直樹取締役)と指摘する。
経済産業省による開発支援では、同社がプロジェクトの中心となり、事業管理機関の富山県新世紀産業機構、富山大学、地元企業のハイメック(富山市)などと共同で難治性メニエール病の治療機器開発に取り組む。
医療機器分野では、中小製造業も製販企業も、医工連携支援団体や自治体の支援策を積極的に活用することが得策と言えそうだ。
(文=浅海宏規)
日刊工業新聞2017年1月19日