日米首脳会談迫る!通商政策、3つの選択肢を考える
自動車メーカーは「大統領の翻意」に期待
日米首脳会談が10日に迫った。日本政府は通商分野では、日米二国間の経済協定交渉の検討をしているが、依然として環太平洋連携協定(TPP)の望みも捨てていない。一方、豪州など日本以外のTPP加盟国の中には、米国抜きのTPPを期待する向きもある。TPP、日米二国間協定、米国抜きTPPという三つの選択肢の今後の可能性を探った。
「米国が1年の間に(TPPに)入るということはないと思う。しかし、自由でフェアな経済圏をつくっていく意義は訴え続けていく」。安倍晋三首相は1日の衆院予算委員会で、こう答弁した。首相自ら、米国がTPPに復帰するには時間がかかると認めた格好だ。しかし、TPPをあきらめたわけではない。トランプ大統領がTPP離脱の大統領令に署名してもなお、日本はTPP最優先だ。
日米二国間の通商交渉については「TPPが発効できない間、日米間に何の貿易協定がなくてもいいのか」(外務省幹部)といった見方から交渉に応じる。同盟国かつ世界最大の国内総生産(GDP)を有する米国とは、何らかの形で二国間の貿易協定があった方が望ましい。TPPを優先したいが、次善策として二国間交渉にも応じる意向だ。
二国間交渉に関し、みずほ総合研究所の菅原淳一主席研究員は「まず自動車協議なのか自由貿易協定(FTA)なのかで交渉戦術は異なる」と見る。日本は自動車を含む工業製品の関税はほぼゼロであり、関税の点で譲歩できる余地があるのは農業分野。
日米FTAならば、日本は農業、米国は工業製品の関税をめぐり駆け引きできることになる。しかし、すでに日本の農業関係者は工業のために農業が犠牲になることを警戒しており、国内調整が難航しそうだ。
自動車協議の場合は「非関税障壁」が焦点になる。一般的には安全や環境などに関する基準認証といったテーマが想定されるが、懸念されるのは為替まで非関税障壁に含めること。
トランプ大統領は通貨安誘導しているとして日本を批判しており、通貨政策を制限する「為替条項」を二国間協定に盛り込む可能性を示唆している。ただ、為替条項については、米国自身の金融政策も縛るため「FRB(米連邦準備制度理事会)が反対するのではないか」(みずほ総研の菅原氏)との指摘がある。
米国抜きのTPPはどうか。豪州やニュージーランドなど日米以外のTPP加盟国の一部が前向きに検討していると伝えられる。しかし、外務省幹部は「米国抜きでは日本が最大のGDP。豪州などには利点はあるが、日本に利点はない」と否定的な見解を示す。米国抜きでTPPを発効させることで米国にプレッシャーを与えて翻意を迫るとの発想もあるが、「現状はリアリティーがない」(外務省幹部)ようだ。
自動車メーカー各社が、10日の日米首脳会談の行方を注視している。トランプ米大統領は日米間の自動車貿易を不公正だと日本側を批判。北米自由貿易協定(NAFTA)も見直す方針で、日本勢が米国への輸出拠点と位置付けるメキシコ戦略の修正を迫られる恐れもある。各社は首脳会談を通じて、長年にわたる米経済への貢献などを訴え、「大統領の翻意」に期待を寄せる。
マツダの小飼雅道社長は5日、北海道剣淵町で行われたイベントで、「(首脳会談の)経過をしっかりと冷静に見ていく」と強調した。域内の関税が原則ゼロのNAFTAを前提に、マツダは2014年にメキシコ工場を稼働。16年は小型車を19万台超生産し、一部を米国に輸出している。
小飼社長は「グローバルでいろいろな変化が起こるだろう」と指摘。その上で、米国に生産拠点を設ける可能性についても「当然排除するわけではない」と述べ、北米戦略の見直しも想定する。
メキシコでは、日産自動車が日系では最多の3工場を抱え、16年に85万台近くを生産。ホンダは2工場で16年の生産実績は計25万台超に上る。デンソーなど自動車部品メーカーも完成車メーカーに追随して進出しており、NAFTA見直しの影響は大きい。
日米貿易摩擦を経て、トヨタ自動車など各社は米国への輸出を減らす一方、現地での生産に切り替え、雇用創出に努めてきた。ホンダの倉石誠司副社長は「米国では現地で造って売ることをポリシーとしてずっとやってきた。実情を知ってもらいたい」と訴える。安倍晋三首相は3日、トヨタの豊田章男社長と会談し、今後の対応を意見交換した。
「米国が1年の間に(TPPに)入るということはないと思う。しかし、自由でフェアな経済圏をつくっていく意義は訴え続けていく」。安倍晋三首相は1日の衆院予算委員会で、こう答弁した。首相自ら、米国がTPPに復帰するには時間がかかると認めた格好だ。しかし、TPPをあきらめたわけではない。トランプ大統領がTPP離脱の大統領令に署名してもなお、日本はTPP最優先だ。
日米二国間の通商交渉については「TPPが発効できない間、日米間に何の貿易協定がなくてもいいのか」(外務省幹部)といった見方から交渉に応じる。同盟国かつ世界最大の国内総生産(GDP)を有する米国とは、何らかの形で二国間の貿易協定があった方が望ましい。TPPを優先したいが、次善策として二国間交渉にも応じる意向だ。
二国間交渉に関し、みずほ総合研究所の菅原淳一主席研究員は「まず自動車協議なのか自由貿易協定(FTA)なのかで交渉戦術は異なる」と見る。日本は自動車を含む工業製品の関税はほぼゼロであり、関税の点で譲歩できる余地があるのは農業分野。
日米FTAならば、日本は農業、米国は工業製品の関税をめぐり駆け引きできることになる。しかし、すでに日本の農業関係者は工業のために農業が犠牲になることを警戒しており、国内調整が難航しそうだ。
自動車協議の場合は「非関税障壁」が焦点になる。一般的には安全や環境などに関する基準認証といったテーマが想定されるが、懸念されるのは為替まで非関税障壁に含めること。
トランプ大統領は通貨安誘導しているとして日本を批判しており、通貨政策を制限する「為替条項」を二国間協定に盛り込む可能性を示唆している。ただ、為替条項については、米国自身の金融政策も縛るため「FRB(米連邦準備制度理事会)が反対するのではないか」(みずほ総研の菅原氏)との指摘がある。
米国抜きのTPPはどうか。豪州やニュージーランドなど日米以外のTPP加盟国の一部が前向きに検討していると伝えられる。しかし、外務省幹部は「米国抜きでは日本が最大のGDP。豪州などには利点はあるが、日本に利点はない」と否定的な見解を示す。米国抜きでTPPを発効させることで米国にプレッシャーを与えて翻意を迫るとの発想もあるが、「現状はリアリティーがない」(外務省幹部)ようだ。
「グローバルでいろいろな変化が起こるだろう」(マツダ社長)
自動車メーカー各社が、10日の日米首脳会談の行方を注視している。トランプ米大統領は日米間の自動車貿易を不公正だと日本側を批判。北米自由貿易協定(NAFTA)も見直す方針で、日本勢が米国への輸出拠点と位置付けるメキシコ戦略の修正を迫られる恐れもある。各社は首脳会談を通じて、長年にわたる米経済への貢献などを訴え、「大統領の翻意」に期待を寄せる。
マツダの小飼雅道社長は5日、北海道剣淵町で行われたイベントで、「(首脳会談の)経過をしっかりと冷静に見ていく」と強調した。域内の関税が原則ゼロのNAFTAを前提に、マツダは2014年にメキシコ工場を稼働。16年は小型車を19万台超生産し、一部を米国に輸出している。
小飼社長は「グローバルでいろいろな変化が起こるだろう」と指摘。その上で、米国に生産拠点を設ける可能性についても「当然排除するわけではない」と述べ、北米戦略の見直しも想定する。
メキシコでは、日産自動車が日系では最多の3工場を抱え、16年に85万台近くを生産。ホンダは2工場で16年の生産実績は計25万台超に上る。デンソーなど自動車部品メーカーも完成車メーカーに追随して進出しており、NAFTA見直しの影響は大きい。
日米貿易摩擦を経て、トヨタ自動車など各社は米国への輸出を減らす一方、現地での生産に切り替え、雇用創出に努めてきた。ホンダの倉石誠司副社長は「米国では現地で造って売ることをポリシーとしてずっとやってきた。実情を知ってもらいたい」と訴える。安倍晋三首相は3日、トヨタの豊田章男社長と会談し、今後の対応を意見交換した。
日刊工業新聞2017年2月7日