次世代がん治療の要素技術、カギを握る「ホウ素薬剤」とは?
「BNCT」、日本は製造技術を押さえている点がアドバンテージ
中性子とホウ素の核分裂反応を利用し、ピンポイントにがん細胞を破壊する「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」。中性子を吸収(捕捉)するホウ素を、がん細胞にいかに選択的に集積させるかが治療のカギを握る。ホウ素薬剤は「BNCTにおける最重要な要素技術の一つ」(大阪府立大学BNCT研究センターの切畑光統特認教授)だろう。
日本に先駆けてBNCTの研究を進めた米国で、研究が頓挫したのも優れたホウ素薬剤がなかったためだ。現在はがん細胞に選択的に集積する「BSH」「BPA」という2種類のホウ素薬剤が開発され併用されている。
ホウ素は自然界に多く存在する。だが、天然のホウ素には質量数10(10B)と質量数11(11B)の同位体があり約80%を11Bが占める。中性子を捕捉するのは10Bのみ。BNCTには高純度で濃縮した10Bが必要となる。
この濃縮技術を持つのが日本と米国の企業2社で、その1社であるステラケミファは国内唯一の10Bの濃縮プラントを持つ。子会社のステラファーマ(大阪市中央区)が10BからBNCT用薬剤を製造しており、中性子源である加速器(サイクロトロン)を手がける住友重機械工業とともにBNCTの治験も進めている。
ホウ素薬剤の研究では大阪府大とステラファーマが研究をリードしている。両者が大阪府大の中百舌鳥(なかもず)キャンパス(堺市中区)に設置したBNCT研究センターは、世界初のBNCT用薬剤に特化した研究開発拠点だ。
最新の機器をそろえ、薬剤の品質評価や新たな薬剤の開発などを進める。「薬剤だけでなく、BNCTの要素技術が周辺地域に多く偏在している。研究開発を進める上でも幸運な環境」(切畑特認教授)にある。
ホウ素薬剤はこれまでも世界中で多様なものが設計・合成され、評価されてきた。開発された薬剤は2000種類を超えると言われる。
だが実用化されたのは“第一世代”のBSHと“第二世代”のBPAに限られる。がん細胞に選択的に多量に集積し、人体への毒性が低い。かつ、ホウ素をがん細胞に“届ける”ことが目的なため薬剤自体に薬効もいらない。通常の医薬品とは大きく異なる。
“第三世代”の研究は盛んだが、まだまだ先の段階にある。切畑特認教授は「同じ薬剤でもがんの種類や患者によって集積のしやすさが違う。究極は一人ひとりに合うテーラーメードの薬剤。そんな薬剤があればBNCTがもっと明確に効く」と話す。
現存の2種併用
日本に先駆けてBNCTの研究を進めた米国で、研究が頓挫したのも優れたホウ素薬剤がなかったためだ。現在はがん細胞に選択的に集積する「BSH」「BPA」という2種類のホウ素薬剤が開発され併用されている。
ホウ素は自然界に多く存在する。だが、天然のホウ素には質量数10(10B)と質量数11(11B)の同位体があり約80%を11Bが占める。中性子を捕捉するのは10Bのみ。BNCTには高純度で濃縮した10Bが必要となる。
この濃縮技術を持つのが日本と米国の企業2社で、その1社であるステラケミファは国内唯一の10Bの濃縮プラントを持つ。子会社のステラファーマ(大阪市中央区)が10BからBNCT用薬剤を製造しており、中性子源である加速器(サイクロトロン)を手がける住友重機械工業とともにBNCTの治験も進めている。
ホウ素薬剤の研究では大阪府大とステラファーマが研究をリードしている。両者が大阪府大の中百舌鳥(なかもず)キャンパス(堺市中区)に設置したBNCT研究センターは、世界初のBNCT用薬剤に特化した研究開発拠点だ。
最新の機器をそろえ、薬剤の品質評価や新たな薬剤の開発などを進める。「薬剤だけでなく、BNCTの要素技術が周辺地域に多く偏在している。研究開発を進める上でも幸運な環境」(切畑特認教授)にある。
個別医療目指す
ホウ素薬剤はこれまでも世界中で多様なものが設計・合成され、評価されてきた。開発された薬剤は2000種類を超えると言われる。
だが実用化されたのは“第一世代”のBSHと“第二世代”のBPAに限られる。がん細胞に選択的に多量に集積し、人体への毒性が低い。かつ、ホウ素をがん細胞に“届ける”ことが目的なため薬剤自体に薬効もいらない。通常の医薬品とは大きく異なる。
“第三世代”の研究は盛んだが、まだまだ先の段階にある。切畑特認教授は「同じ薬剤でもがんの種類や患者によって集積のしやすさが違う。究極は一人ひとりに合うテーラーメードの薬剤。そんな薬剤があればBNCTがもっと明確に効く」と話す。
日刊工業新聞2017年2月7日