「半導体なき東芝」が現実味
社内でも揺れた分社論。「できるだけ高く買ってもらうやり方を考える」
「半導体メモリー事業の分社が債務超過回避の要だ」―。1月中旬、米原子力発電事業での巨額損失への対応を問われ、東芝幹部は厳しい表情で語った。
東芝は原発子会社の米ウエスチングハウスを通じ、原子力発電所建設などを手がけるCB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)を15年12月に買収した。このS&Wの資産価値を見直した結果、最大7000億円規模の損失が発生することが明らかになった。自己資本の毀損(きそん)は避けられず債務超過が現実味を帯びる中、NAND型フラッシュメモリー事業を分社化し、外部資本受け入れの決断を下す。
外部からの出資比率は20%程度に抑え、東芝が主導権を確保する考えだが、一部とはいえ“虎の子”を手放すことは大きな転換点となる。
実はメモリーを分社し、外部から資本を受け入れ、将来は上場させる構想は過去にも検討された。不適切会計問題が発覚した15年度だ。その時は東芝全体の財務基盤の強化と、メモリー事業での設備投資余力を確保するという二つの理由があった。
特にNANDメモリー市場首位で東芝の最大のライバルである韓国サムスン電子が猛烈な勢いで設備投資を実施しており、当時はメモリー事業部からは「コーポレートに利益を吸い取られず、資金をブンブン回せる方が良い」との声も聞かれた。
ただ16年度に入り、分社化議論は沈静化する。メモリー事業の業績が上向き、一定規模の設備投資費を確保できるめどが付いたためだ。同事業としては資金調達を急ぐ必要がなくなる一方、「儲かっているメモリーが東芝全体を支える」という構図が相対的に強まり、分社化・上場を将来の選択肢として温存しながらも、当面は現状維持という流れができた。
それが一転したのは、米原発事業での損失が明らかになった16年12月。「金のなる木」として再びメモリーの分社化・上場が俎上(そじょう)に載った。それでも当初、幹部からは「買い叩かれるリスクが高い」として分社して外部からの資本を受け入れるという措置には否定的な発言も聞かれた。NANDメモリー事業の好調で利益を積み増せるとの思惑も広がっていた。
しかし、そんな楽観論は1月中旬に一気に吹き飛んだ。数千億円規模と説明されてきた損失額が、7000億円規模に膨らむ可能性が明らかになったからだ。債務超過リスクが高まり、メモリーの分社化・外部からの出資受け入れに舵(かじ)を切った。「できるだけ高く買ってもらうやり方を考える」。東芝幹部のミッションは、虎の子をどう温存するかから切り替わった。
東芝の過去を振り返ると半導体事業の不振を、インフラ事業が補ったケースもある。今回は半導体がインフラをカバーして東芝を救うことになるが、皮肉にもそれは“東芝離れ”の引き金になる。半導体メモリーの新会社はいずれ上場するだろう。将来の「半導体なき東芝」が現実味を帯びてきた。
東芝は原発子会社の米ウエスチングハウスを通じ、原子力発電所建設などを手がけるCB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)を15年12月に買収した。このS&Wの資産価値を見直した結果、最大7000億円規模の損失が発生することが明らかになった。自己資本の毀損(きそん)は避けられず債務超過が現実味を帯びる中、NAND型フラッシュメモリー事業を分社化し、外部資本受け入れの決断を下す。
外部からの出資比率は20%程度に抑え、東芝が主導権を確保する考えだが、一部とはいえ“虎の子”を手放すことは大きな転換点となる。
実はメモリーを分社し、外部から資本を受け入れ、将来は上場させる構想は過去にも検討された。不適切会計問題が発覚した15年度だ。その時は東芝全体の財務基盤の強化と、メモリー事業での設備投資余力を確保するという二つの理由があった。
特にNANDメモリー市場首位で東芝の最大のライバルである韓国サムスン電子が猛烈な勢いで設備投資を実施しており、当時はメモリー事業部からは「コーポレートに利益を吸い取られず、資金をブンブン回せる方が良い」との声も聞かれた。
ただ16年度に入り、分社化議論は沈静化する。メモリー事業の業績が上向き、一定規模の設備投資費を確保できるめどが付いたためだ。同事業としては資金調達を急ぐ必要がなくなる一方、「儲かっているメモリーが東芝全体を支える」という構図が相対的に強まり、分社化・上場を将来の選択肢として温存しながらも、当面は現状維持という流れができた。
それが一転したのは、米原発事業での損失が明らかになった16年12月。「金のなる木」として再びメモリーの分社化・上場が俎上(そじょう)に載った。それでも当初、幹部からは「買い叩かれるリスクが高い」として分社して外部からの資本を受け入れるという措置には否定的な発言も聞かれた。NANDメモリー事業の好調で利益を積み増せるとの思惑も広がっていた。
“東芝離れ”の引き金に
しかし、そんな楽観論は1月中旬に一気に吹き飛んだ。数千億円規模と説明されてきた損失額が、7000億円規模に膨らむ可能性が明らかになったからだ。債務超過リスクが高まり、メモリーの分社化・外部からの出資受け入れに舵(かじ)を切った。「できるだけ高く買ってもらうやり方を考える」。東芝幹部のミッションは、虎の子をどう温存するかから切り替わった。
東芝の過去を振り返ると半導体事業の不振を、インフラ事業が補ったケースもある。今回は半導体がインフラをカバーして東芝を救うことになるが、皮肉にもそれは“東芝離れ”の引き金になる。半導体メモリーの新会社はいずれ上場するだろう。将来の「半導体なき東芝」が現実味を帯びてきた。
日刊工業新聞2017年1月27日