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ノロウイルス再び流行か。感染への備えと事後対策

健康な成人であれば1―2日で症状は治まる
ノロウイルス再び流行か。感染への備えと事後対策

保育所や幼稚園、学校などで感染が広がることが多い

 国立感染症研究所は、年末年始に大流行が収まっていたノロウイルスなどによる感染性胃腸炎の患者が15日までの1週間に再び増え始めたと発表。1医療機関当たりの患者数は6.48人となり、前の週から1.17人増えた。同研究所は関係機関に感染の注意を促している。

 今期流行している「GII.2」は、従来から流行がたびたび報告されている「GII.2」の遺伝子配列が変化したもの。冬のおなかの病気の主役、ノロウイルスとは、どのような病気なのか。予防と対策について医師の見方を紹介する。

《健康な成人であれば1―2日で症状は治まる》



 ノロウイルスは1968年(昭43)、米国オハイオ州のノーウォークという町で発生した急性胃腸炎患者の便から発見されました。その大きさは30ナノメートル(ナノは10億分の1)とかなり小さなウイルスです。非常に感染力が強く、低温での生存力が強いため気温の低い冬季に大流行が起こります。

 ノロウイルスにはいくつもの遺伝子型があります。感染経路は、経口感染がほとんどで、汚染されたカキなどの二枚貝や海産物の生食が、よく知られています。また、感染した人の吐物や便のほかに、感染者が取り扱った食品による人から人への二次感染で、より多くの患者が発生してしまいます。

 人の口から浸入したウイルスは腸の中で増殖し、1―2日程度の潜伏期間を経て腹痛、吐き気や嘔吐(おうと)、激しい下痢が起こります。発熱は38度Cと、それほど高くはありません。病院を受診された場合、簡易診断キットはありますが、保険適応の制限があります。そのため、ほとんどの場合はその症状や発症の状況から、ノロウイルス感染かどうかを診断していきます。

 インフルエンザのようにウイルスの増殖を抑制するための特効薬や予防のためのワクチンはありません。健康な成人であれば1―2日で症状は治まり、後遺症もなく治癒します。しかし、小児や高齢者は脱水症状などで入院を要することもあります。

 例年、学校や医療・介護施設、飲食店などでの集団感染が報告されていて、誰もが患者になる可能性がある疾患です。感染すれば当然、数日から1週間くらいは仕事に行けなくなります。皆さんそんなに仕事を休むわけにはいかないと思いますが、二次感染を防ぐためには我慢するしかありません。

《せっけん使いこまめな手洗いを》

 ノロウイルスによる胃腸炎は、人の手を介して口からウイルスが侵入して発症する病気です。アルコール消毒は、ノロウイルスには効果がないため、その予防として原始的ですが、手洗いが最も大切です。

 せっけんを使ってこすり洗いをし、流水で十分に洗い流すことで、手に付着したウイルスを減らすことができます。帰宅時、調理や食事の前、トイレの後などは、こまめな手洗いを習慣にしてください。そして、調理の際は、食品を85―90度Cで、90秒以上しっかり加熱するようにしましょう。

 感染した人の吐物や便には大量のノロウイルスが含まれており、乾いた吐物が宙に舞い上がり、吸い込んで感染した、という報道も以前にありました。

 処理をする場合は使い捨て手袋とマスクを付け、絶対に素手では、さわることのないようにしてください。汚れた衣類、床や家具、食器などは水で薄めた塩素系漂白剤である「ハイター」や「ミルトン」など次亜塩素酸による消毒が有効になります。

 このように予防をしていたにもかかわらず感染してしまった場合、どのように対処すればよいのでしょうか。ノロウイルスによる胃腸炎は激しい嘔吐(おうと)と下痢が特徴です。嘔吐や下痢による脱水を予防するために、こまめな水分補給が必要です。

 残念ながらウイルスに対する特効薬がないため、病院では対症療法が中心になりますが、下痢止めは体内からのウイルスの排出を遅らせ、病気が長引くことから使用は控えるべきです。健康な成人であれば1―2日程度で回復することが多く、水分補給をしながら消化のよい食べ物(おかゆ、うどんなど)で栄養補給をして回復を待つとよいでしょう。

 また、症状がおさまってきてもウイルスが体内から、すべて排出されたとは限りません。1カ月近くウイルスが体内に残っていた例もありますので、調理で食品を扱う人などは、特に注意が必要です。

 ノロウイルスは多数の遺伝子型が存在するため、同じ人であっても複数の異なる型のウイルスに感染することがあり、毎年かかる人もいます。一度かかったからといって、もうかからないと安心することはできないのです。

 新型についてほとんどの人が免疫を持っていません。そのため、さらに重篤な症状になる可能性があります。正しい知識を持ち、冬の胃腸炎の主役であるノロウイルスから身を守りましょう。
(文=空利之・南町田病院内科部長)

日刊工業新聞2015年11月20日/27日の記事に加筆・修正
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
今シーズンの感染性胃腸炎の原因のほとんどがノロウイルス、特に変異型ウイルスである「GII.2」によるものと推定されている。

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