経営統合が破談した東京エレクトロン。幹細胞は次代のシリコンになるか!?

再生医療事業のキーマンに聞く。「(研究開発は)囲い込みではなく、来る者は拒まずを通している」

  • 1
  • 0
木下喜夫コーポレート次世代戦略企画室室長
 患者の細胞組織を修復、再生して治療する再生医療。医学や医療、産業界の双方から期待は大きいが、関連産業と市場はまだ本格的な形成期を迎えていない。関係者が産業化への“離陸”のカギを探る中、東京エレクトロンは2014年秋に英国に「幹細胞テクノロジーセンター」を開設。同拠点を中核に、オープンイノベーションにより幹細胞の自動培養・検査プロセス技術の確立と標準化を目指す。この構想について、コーポレート次世代戦略企画室の木下喜夫室長に聞いた。

 ―幹細胞の培養工程すべてを見渡し、自動化したプロセス技術を確立しようとしています。なぜ徹底した自動化が必要なのですか。
 「再生医療は医療であって、最終的には患者に安全に細胞が行き渡らなければならない。だが、現在は人間が手作業で培養している。人間はコンタミネーション(汚染)の最大の要因であり、時として間違いもする。これでは安全性や品質を担保できない」

 ―幹細胞テクノロジーセンター(STC)では、そうした課題を克服するためにどんな方法を取りますか。
 「細胞を培養してから検査して、品質を担保する『クオリティー・バイ・テスティング(QBT)』ではなく、一連の工程すべてをデザイン(構想や設計、作り込み)した段階で品質が担保できる仕組み、『クオリティー・バイ・デザイン(QBD)』を目指す。細胞は生きているから、時間や環境によってどんどん状態が変わっていく。いわば“出たとこ勝負”のQBTでは無理がある」

 ―QBDの前提として重視する「PAT(プロセス・アナリティカル・テクノロジー)」とは、どんな技術ですか。
 「患者や環境、原材料や添加剤の状態を把握し、最初から最後まで工程内で細胞がどのように変化しているかを即時に監視して品質を担保する技術だ。すべてのデータを取得し、最終的には、どんな状態や条件で、どういった作業を加えたらどう変化するか、という関係性を把握する。これが確立すれば、もし不良が出てもすぐに追跡できる」

 ―業界団体、再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)にも同様の計画があります。STCの立ち位置は。
 「我々が目指すのは囲い込みではなく、インフラの確立。QBDで早く細胞を出荷できるようにならないと工業化しないし、そのための装置や材料も出ない。“来る者は拒まず”を通している」

 【チェックポイント/工程自動化は必然】
 オープン化された基盤技術を元に市場の拡大を支える―。これは半導体の世界を生き抜いてきた東京エレクトロンには見覚えのある光景。再生医療の最終目的は、多くの患者が手の届く費用で受けられる新たな医療の実現にある。この大命題を思えば、徹底した自動化は自然な流れに見えてくる。再生医療には、食品や化学、機械、電機といったさまざまな分野の大企業が参入している。だが多くの商材は装置や器材など。工程すべてを見渡した自動化基盤技術の動きを意識しておく必要がある。
 (聞き手=米今真一郎)

日刊工業新聞2015年05月26日 モノづくり面

COMMENT

明豊
執行役員デジタルメディア局長 DX担当

半導体産業が成熟期を迎える中、ノウハウを生かせる新分野としてライフサイエンスに参入していく動きは当然だろう。ただ半導体のような工業製品と細胞では、品質基準も含めたくさんの違いがある。幹細胞の装置を標準展開していくのはかなりハードルが高い作業になる。保守的な製薬業界を含めどのようなイノベーションを起こせるか注目したい。

関連する記事はこちら

特集