SONYのテレビは“ラスト・ワン・インチ”を制するか
電機部門復活のモデルケースに
業績不振が続く中でも、ソニー復活に向けて社長の平井一夫がかたくなに譲らなかったことがある。「消費者(コンシューマー)向け事業の復活」だ。その真意は、消費者との距離感を示す“ラスト・ワン・インチ”を制することにある。ラスト・ワン・インチの距離で密に接して感動的な商品を生み出し、消費者の心理を取り込むことで、コンシューマー分野の再成長を狙う。
「『赤字なのになぜ続けるのか』と何度も言われたが、テレビは家庭の中で一番重要なソニーの接点だ。ここは譲らない」―。平井は断言する。10年間赤字が続いたテレビ事業の健全化政策は、電機部門を復活させる上で最大の重しだった。当初は2013年度の黒字化を目指していたが、あえなく断念。14年にテレビ事業は分社化された。
かつて事業会社のソニービジュアルプロダクツ(東京都品川区)社長を務めた今村昌志と、現社長の高木一郎が、再建途上でよく漏らしていた言葉がある。「『いつかはソニー』の状態に戻したい」。量から質への転換を進めるべく、今村は現場に頻繁に赴き、次につながりそうな技術の種を仕込んだ。高木は15年10月にマーケティング担当も兼務。製品投入のタイミングや販売台数などを細かくコントロールし、販売力強化を図った。
今では高解像度の4Kテレビを軸に製品ラインアップの大半を高価格帯にシフト。14年度に黒字転換を果たし、営業利益率は14年度に約1%、15年度には3・2%と着実に上がった。16年度も15年度以上の利益創出を目指しており、高木は「ようやく自信が持てる商品を出せるようになってきた」と手応えを感じる。
15年度から始まった中期経営計画で、平井は収益性重視の方針を鮮明にした。あえて売り上げ目標は示さず、17年度に営業利益5000億円以上という利益目標のみを据える。テレビ事業でも今後は利益の最大化が課題だ。製品単体の強みだけでなく、仮想現実感(VR)など他の製品やコンテンツとの連携といった新たな収益モデルが不可欠になる。
テレビ事業は電機部門復活のモデルケースだ。成功体験を得た平井は、全事業の分社化を決めた。「ワン・ソニー」として経営陣全体が方向性を共有し、同じ視点を持っているという自負も事業ポートフォリオの変革を後押しする。各事業が経営責任を背負い「ラスト・ワン・インチ」の制覇に向けて動き始める。
(敬称略)
※日刊工業新聞では「挑戦する企業・ソニー編」を連載中
「『赤字なのになぜ続けるのか』と何度も言われたが、テレビは家庭の中で一番重要なソニーの接点だ。ここは譲らない」―。平井は断言する。10年間赤字が続いたテレビ事業の健全化政策は、電機部門を復活させる上で最大の重しだった。当初は2013年度の黒字化を目指していたが、あえなく断念。14年にテレビ事業は分社化された。
かつて事業会社のソニービジュアルプロダクツ(東京都品川区)社長を務めた今村昌志と、現社長の高木一郎が、再建途上でよく漏らしていた言葉がある。「『いつかはソニー』の状態に戻したい」。量から質への転換を進めるべく、今村は現場に頻繁に赴き、次につながりそうな技術の種を仕込んだ。高木は15年10月にマーケティング担当も兼務。製品投入のタイミングや販売台数などを細かくコントロールし、販売力強化を図った。
今では高解像度の4Kテレビを軸に製品ラインアップの大半を高価格帯にシフト。14年度に黒字転換を果たし、営業利益率は14年度に約1%、15年度には3・2%と着実に上がった。16年度も15年度以上の利益創出を目指しており、高木は「ようやく自信が持てる商品を出せるようになってきた」と手応えを感じる。
15年度から始まった中期経営計画で、平井は収益性重視の方針を鮮明にした。あえて売り上げ目標は示さず、17年度に営業利益5000億円以上という利益目標のみを据える。テレビ事業でも今後は利益の最大化が課題だ。製品単体の強みだけでなく、仮想現実感(VR)など他の製品やコンテンツとの連携といった新たな収益モデルが不可欠になる。
テレビ事業は電機部門復活のモデルケースだ。成功体験を得た平井は、全事業の分社化を決めた。「ワン・ソニー」として経営陣全体が方向性を共有し、同じ視点を持っているという自負も事業ポートフォリオの変革を後押しする。各事業が経営責任を背負い「ラスト・ワン・インチ」の制覇に向けて動き始める。
(敬称略)
※日刊工業新聞では「挑戦する企業・ソニー編」を連載中
日刊工業新聞2017年1月18日