日本の大学に世界中から引き合い、自動運転のDBとは

走行映像のデータ、AI開発のカギ握る。共通化かブラックボックスか

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東京農工大のヒヤリハットDBの操作画面、左が車載カメラの映像、右が加速度や車速(東京農工大提供)
 自動運転車の実現に向けて、市街地で集めた走行映像データの重要性が増している。走行データは運転を司る人工知能(AI)の学習と、その判断の評価のために必須で、AIの性能を担保する基準になる可能性がある。日本では産学官でデータベース(DB)の整備が進む。自動運転のキーテクノロジーがセンサーからAI、データへと激しく入れ替わるなか、データ戦略が高度化している。

静止画から動画へ


 「大学研究者が構築したら数億円では済まない。そのDBの無償提供が始まった。どんな狙いがあるのか」と理化学研究所革新知能統合研究センターの杉山将センター長は首をかしげる。

 独ダイムラーと独マックスプランク研究所などのチームが研究者向けに無償提供を始めた走行映像DBについてだ。市街地などでの走行映像に、歩行者や標識、走行車両などの精緻な学習用ラベルを付けた画像が5000枚、粗いラベル付き画像が2万枚ある。AIの開発を促し、完成車メーカーにとって健全な競争環境をつくる効果がある。

 データ量は小さいがデータを持たないAI研究者が自動運転分野に参入しやすい環境が整う。

 杉山センター長は「現在の公開分はダイムラーの保有するデータのごく一部。現データで好成績を収めれば全データにアクセスできるのだろうか」と思案する。

 自動運転AIは静止画群から被写体を識別する画像処理から、動画から状況や行動を推定する研究にシフトしている。時間軸が加わり研究の難度は跳ね上がり、データ量は増えた。現在は毎秒10コマの撮像レートが中心だが、高速カメラやレーザーセンサーなどとの統合処理を模索している。
              


イスラエル・モービルアイが先行


 そこで内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)では走行映像DBの構築を進める。海外の先行事例では、イスラエルのモービルアイが車載機器を提供してデータを集め、AIをブラックボックス化する戦略を進める。

 こうした動きに対抗するため、日本自動車研究所(JARI)が、データを整備して完成車やサプライヤー各社で共有する仕組みを構築する。JARIの谷川浩ITS研究部長は「完成車メーカーにとっては1社独占ではなく、サプライヤー間で健全な競争原理が働いてほしい。共通DBで開発環境が整う」と狙いを話す。

 DBの走行時間は1482時間で走行距離は約3万キロメートル。実際に市街地や観光地、幹線道路などを走って撮影した。車両にはハイビジョンカメラ5台を搭載。4台で全周囲、1台は前方を撮影し、データサイズは4・2ペタバイト(ペタは1000兆)に上る。4万の走行シーン、400万人の歩行者を収録した。

 独カールスルーエ工科大学と豊田工業大学シカゴ校などが公開するDBに比べてJARIのDBは映像だけで情報量が約100倍に増えた。レーザーセンサーで周囲との距離を測っているため、カメラとレーザーセンサーの統合処理も可能だ。

 JARIの野本和則主任研究員は「映像から周囲環境の3Dデータ復元や、ながら歩きの歩行者や高齢者の行動モデリングなど、自動運転以外の研究にも有用」と説明する。
            


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COMMENT

自動運転の成否は自動運転技術そのものよりも、それを支えるデータエコシステムの成否にかかっているように思います。自動運転車を現行の車に近い値段で売るのであれば、データに避けるコストは大きくありません。ダイナミックマップ(動的3D高精度地図)もAI学習用データも副業先が必須で、自動運転以外のスポンサーを探さねばなりません。スマホで電話やメッセージ以上の価値がアプリから生み出されたように、自動運転も移動以上の価値をデータやアプリで生み出す必要があります。またはデータ量に頼らない自動運転AIを開発することになるのですが、この種のAIでは市街地を走れず、データインフラの副業先探しがとても難しくなります。 (日刊工業新聞科学技術部・小寺貴之)

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