移植した細胞の働き、「見える化」して追跡

名古屋大、量研機構などが相次ぎ研究成果

 名古屋大学の湯川博特任講師らは、移植後のマウス生体内で幹細胞を可視化することに成功した。4Kディスプレーや太陽電池に使われる量子技術を応用し、細胞を蛍光発色させて機能の解析や診断を容易にする量子ドット「ZZC」というナノサイズ粒子(ナノは10億分の1)を開発。iPS細胞(人工多能性幹細胞)など幹細胞の生体内活動を追跡できる。人間にも使える量子ドットの開発を目指す。

 量子ドットは、光を当てると強い蛍光を示す半導体材料からなるナノサイズ粒子。再生医療で幹細胞やiPS細胞を使った細胞移植治療の研究開発が進む中、移植後の幹細胞が生体内で意図に沿って正常に働いているのかなどを追跡・分析する必要があった。

 ZZCは、従来の量子ドットが持つカドミウムなどの毒性成分を含まず、銀や硫黄などで構成されており安全性が高い。低コストでの大量生産も見込む。

 幹細胞を標識・追跡する必要がある前臨床試験での活用を想定しており、研究グループではより多くの細胞を診断できると期待する。

神経前駆細胞の脳内動態を画像化


移植20日後㊤40日後㊦(量研機構の資料を基に作成)

 量子科学技術研究開発機構(量研機構)放射線医学総合研究所の季斌(キヒン)主任研究員らは、マウスの脳に移植したiPS細胞(人工多能性幹細胞)由来の神経前駆細胞が神経細胞に分化した後、神経回路を形成したことを生体の状態で画像検証する技術を開発した。

 パーキンソン病など、神経性の難病患者の脳に神経前駆細胞を移植する再生医療が実現した際に、治療効果を確認するなどの応用が期待される。

 開発した技術は陽電子放射断層撮影(PET)と機能的磁気共鳴断層撮影装置(fMRI)を組み合わせた。京都大学iPS細胞研究所との共同研究。成果は16年11月9日、米科学誌ザ・ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス電子版に掲載された。

 研究チームはまず、PET薬剤と結合する人工受容体となるたんぱく質が神経前駆細胞の段階では発現せず、分化後の神経細胞でのみ発現するマウスを遺伝子改変で作製。このマウスの皮膚由来のiPS細胞から神経前駆細胞を作り、別の正常なマウスの脳の海馬に移植した。

 このマウスに、神経活動を抑える働きを持つPET薬剤を投与してPETを実施。移植から40日後の画像で移植部位にPET薬剤が多く集積し、神経前駆細胞が神経細胞に分化したことを観察できた。

 さらにfMRIで脳血流を測った結果、移植部位とは別の領域で血流の低下を確認。移植後に分化した神経細胞と周囲の神経細胞との間に神経回路が形成され、神経活動を抑える信号が伝わったことが示された。

日刊工業新聞 2017年1月12日、16年11月9日

斉藤 陽一

斉藤 陽一
01月13日
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 幹細胞や前駆細胞の移植による治療効果を最大限引き出すには、移植した細胞の体内での動態を可視化する技術が必要です。移植がうまくいった場合、うまくいかなかった場合のいずれにしても、移植した細胞の可視化技術が確立されていれば事後検証が可能となり、細胞移植治療のさらなる改善につなげられます。

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