「一人ひとりの『ドラえもん』を作りたい」 日本の感性が世界リードする日
“人に寄り添うAI”を志向、プラットフォーム競争は始まったばかり
人工知能(AI)がデジタル産業革命の主役に躍り出ようとしている。AIの第3次ブームとも言われるが、その活用領域はかつてないほどの広がりをみせる。日本は、IoT(モノのインターネット)やロボット、AIをベースに新しい価値を生み出せるかが問われている。
「一人ひとりの『ドラえもん』を作りたい」―。カラフル・ボード(東京都渋谷区)の渡辺祐樹社長は自社のAIが目指す形をこう説明する。同社はAIに洋服やアクセサリーなどの画像を認識させ、一人ひとりの好みに合ったアイテムを提案するアプリをスマートフォン向けに提供する。
渡辺社長が描くAIの未来像とはライフサイクルのあらゆる場面で困ったり迷ったりした時に支援するパートナーのような存在。ファッションに限らず、あらゆる感性を学ばせようと、味覚や味の好みもAIに学ばせ、食の分野にも進出した。
AIといえばロジックを競う囲碁対局が思い浮かぶ。ただ、カラフル・ボードのように感性をキーワードに“人に寄り添うAI”を志向する取り組みが、日本では受け入れられやすいようだ。
富士通はAIを構成する要素として、人の五感を活用して気持ちを理解する「感性メディア技術」に力を注ぐ。音声の波形から、感情を読み取ることも可能。コールセンターの担当者のストレス度合いなども確認できる。
「人の脳細胞を模した脳チップが世の中かを変えるかもしれない」と語るのは新野隆NEC社長。将来、スマホに脳チップが組み込まれれば、より個人の特性に沿ったパーソナルAIが登場するかもしれない。日本の消費者のニーズは細分化されており、これに対応する“おもてなし”の感性は日本勢に一日の長がある。
モノづくりでのAI活用も同様だ。日本の製造業の価値の源泉は人。究極は匠(たくみ)であり、設備に異常が発生すると、マニュアルを見ずとも、五感と経験を生かして迅速に対処する。AIにこうしたノウハウを学ばせて、伝承しようする試みも日本が先行している。
ただ「日本がAIで勝てるのか」といった疑問は残る。AIのプラットフォーム(共通基盤)は海外勢が牛耳っているためだ。これに対してポール与那嶺日本IBM社長は「日本企業は膨大なデータを持っている。これをもとに業種ごとにソリューションを作り上げる競争はグローバルで始まったばかりだ」と日本勢が勝ち抜ける可能性を示す。
その一方で「プラットフォームをいちから作っていては間に合わない」とも警告。AIでリードするためには、日本の知見と感性をいかしたソリューションビジネスに活路を見いだす必要がありそうだ。
(文=斎藤実、松沢紗枝)
カラフル・ボード(東京都渋谷区、渡辺祐樹社長)は、2017年夏から海外市場に参入する。同社は人工知能(AI)アプリケーション(応用ソフト)「SENSY」を活用し、小売り店舗でのマーケティング活動などを支援するサービスを提供している。海外参入にあたり、まずは電子商取引(EC)事業を展開する企業を対象に感性を学習するAIを活用したBツーB(企業間)ビジネスを展開する。17年で海外売上高比率を10―20%に、18年には50%まで引き上げる。
カラフル・ボードの渡辺社長は「デザインやプロトタイプなど、すべて英語で作っている」と海外展開を見据えて開発を行ってきたと説明。さらに「日本で流通させたサービスを海外展開するのでは遅いと思うが、感性を学ぶAIはグローバルでも通用する」とし、17年の海外参入を決めた。
日本では、アパレル業界や流通業界向けに実店舗のほかECサイト内の接客支援サービス、マーケティング活動の効率化サービスなどを提供してきた。また、三越伊勢丹ホールディングスの利き酒サービスへの協力や三菱食品との提携で、食分野へのAI活用も開始した。
「日本企業とは研究・開発の段階から協力してやってきたが、海外拠点がない中、それは難しい」(渡辺社長)ことから、既にサービスが確立しているECやアパレル業界分野を主なターゲットにする。今後は日本と同様にパートナー企業を海外でも募り、自社のAI技術を向上させていく。
カラフル・ボードは慶応義塾大学、千葉大学と共同で、AIにファッションの感性を学習させるアルゴリズム(計算手順)を開発。14年11月に同技術を活用し、個人向けアプリや企業向けサービスを提供する。
AIに好みを覚えさせることにより、必要な情報を抽出することで、人それぞれの課題や悩みなどを解決する支援を行う。今後、音楽や映画などさまざまな感性が学べるようなAIに進化させていく予定。
今回、グローバル展開に踏み出すことで、売り上げ規模の拡大を目指すとともに、AI技術を磨き上げるために必要なデータ量の増加にも期待する。これにより、サービスの質の向上につなげる。また、資金調達のために18年をめどに上場を検討している。
「一人ひとりの『ドラえもん』を作りたい」―。カラフル・ボード(東京都渋谷区)の渡辺祐樹社長は自社のAIが目指す形をこう説明する。同社はAIに洋服やアクセサリーなどの画像を認識させ、一人ひとりの好みに合ったアイテムを提案するアプリをスマートフォン向けに提供する。
渡辺社長が描くAIの未来像とはライフサイクルのあらゆる場面で困ったり迷ったりした時に支援するパートナーのような存在。ファッションに限らず、あらゆる感性を学ばせようと、味覚や味の好みもAIに学ばせ、食の分野にも進出した。
AIといえばロジックを競う囲碁対局が思い浮かぶ。ただ、カラフル・ボードのように感性をキーワードに“人に寄り添うAI”を志向する取り組みが、日本では受け入れられやすいようだ。
富士通はAIを構成する要素として、人の五感を活用して気持ちを理解する「感性メディア技術」に力を注ぐ。音声の波形から、感情を読み取ることも可能。コールセンターの担当者のストレス度合いなども確認できる。
「人の脳細胞を模した脳チップが世の中かを変えるかもしれない」と語るのは新野隆NEC社長。将来、スマホに脳チップが組み込まれれば、より個人の特性に沿ったパーソナルAIが登場するかもしれない。日本の消費者のニーズは細分化されており、これに対応する“おもてなし”の感性は日本勢に一日の長がある。
モノづくりでのAI活用も同様だ。日本の製造業の価値の源泉は人。究極は匠(たくみ)であり、設備に異常が発生すると、マニュアルを見ずとも、五感と経験を生かして迅速に対処する。AIにこうしたノウハウを学ばせて、伝承しようする試みも日本が先行している。
ただ「日本がAIで勝てるのか」といった疑問は残る。AIのプラットフォーム(共通基盤)は海外勢が牛耳っているためだ。これに対してポール与那嶺日本IBM社長は「日本企業は膨大なデータを持っている。これをもとに業種ごとにソリューションを作り上げる競争はグローバルで始まったばかりだ」と日本勢が勝ち抜ける可能性を示す。
その一方で「プラットフォームをいちから作っていては間に合わない」とも警告。AIでリードするためには、日本の知見と感性をいかしたソリューションビジネスに活路を見いだす必要がありそうだ。
(文=斎藤実、松沢紗枝)
カラフル・ボード、今夏から海外参入
カラフル・ボード(東京都渋谷区、渡辺祐樹社長)は、2017年夏から海外市場に参入する。同社は人工知能(AI)アプリケーション(応用ソフト)「SENSY」を活用し、小売り店舗でのマーケティング活動などを支援するサービスを提供している。海外参入にあたり、まずは電子商取引(EC)事業を展開する企業を対象に感性を学習するAIを活用したBツーB(企業間)ビジネスを展開する。17年で海外売上高比率を10―20%に、18年には50%まで引き上げる。
カラフル・ボードの渡辺社長は「デザインやプロトタイプなど、すべて英語で作っている」と海外展開を見据えて開発を行ってきたと説明。さらに「日本で流通させたサービスを海外展開するのでは遅いと思うが、感性を学ぶAIはグローバルでも通用する」とし、17年の海外参入を決めた。
日本では、アパレル業界や流通業界向けに実店舗のほかECサイト内の接客支援サービス、マーケティング活動の効率化サービスなどを提供してきた。また、三越伊勢丹ホールディングスの利き酒サービスへの協力や三菱食品との提携で、食分野へのAI活用も開始した。
「日本企業とは研究・開発の段階から協力してやってきたが、海外拠点がない中、それは難しい」(渡辺社長)ことから、既にサービスが確立しているECやアパレル業界分野を主なターゲットにする。今後は日本と同様にパートナー企業を海外でも募り、自社のAI技術を向上させていく。
カラフル・ボードは慶応義塾大学、千葉大学と共同で、AIにファッションの感性を学習させるアルゴリズム(計算手順)を開発。14年11月に同技術を活用し、個人向けアプリや企業向けサービスを提供する。
AIに好みを覚えさせることにより、必要な情報を抽出することで、人それぞれの課題や悩みなどを解決する支援を行う。今後、音楽や映画などさまざまな感性が学べるようなAIに進化させていく予定。
今回、グローバル展開に踏み出すことで、売り上げ規模の拡大を目指すとともに、AI技術を磨き上げるために必要なデータ量の増加にも期待する。これにより、サービスの質の向上につなげる。また、資金調達のために18年をめどに上場を検討している。
日刊工業新聞2017年1月11日