VRの触覚研究、次は足の裏
産業界が関心、大学研究者が奮闘
VR(仮想現実)での触覚研究が足の裏まで広がっている。指先や腕などの研究はすでに競争が激しい分野であり、足は靴型デバイスとして差別化しやすいという背景があり、VR研究でのフロンティアとなっている。普段は意識されない足裏の機能を拡張しようと研究者たちは奮闘する。
筑波大学の橋本悠希助教らが開発したのは「振動スリッパ」。爪に振動子を当てると反対側の指の腹側で触覚を感じる現象を利用する。橋本助教は、「グッグッと新雪を踏み抜く心地よさを表現できる」と説明する。
振動を提示すると歩行中の重心のブレを抑えることも発見した。振動ユニットは靴にも装着できるため、高齢者向けの歩行安定化デバイスとして開発を進める。
さらにマラソン選手のピッチ走法、自転車競技で選手がペダルを踏み込むタイミングを教えるデバイスとしても応用を模索する。「プロ選手のトレーニング用途やスポーツクラブでの導入などを目指したい。3年で技術をモノする」と力を込める。
電気通信大学の広田光一教授と首都大学東京の池井寧教授らは足裏用の触覚ディスプレーを開発した。8×16列の128本のピンが上下して足裏に形や圧力を提示する。ピンのストロークは3センチ―4センチメートル、空圧駆動で3・5ニュートンまでの力の分布を表現できる。
研究を推進する電通大の日岐桂吾大学院生は、「手は繊細な感覚の提示や操作を重視し、足裏はモノの形と柔らかさなどのラフな情報提示や補助的な操作をする。それぞれの機能を統合し、高度なインタラクション(相互作用)を作り出したい」と説明する。
また、大阪大学の黒田嘉宏准教授と加藤銀河大学院生らは、VR空間での歩行をリアルにしようと足駆動装置「ハプステップ」を開発。足を置いた板を前後にスライドさせ、床を蹴り出す感覚や踏みとどまる感覚を表現した。
足を上下させずに、水平移動だけで表現するため、駆動モーターを小型化できる。加藤大学院生は、「VRで坂道を登る際に、進むスピードだけ遅くしても負荷は伝わらない。踏み込む力を表現できればよりリアルな体験になるはず」と期待する。
手を中心とした触覚デバイスが企業での事業化段階を迎えており、研究者は次の研究領域を開拓中だ。脳から最も遠い足の裏は、感覚利用の限界を追及する基礎研究も、新しい用途を提案する開発もまだまだ研究しがいがある。
ただ、靴は雨や体重がかかるため、電子部品を使うと耐久性やコストが課題だった。産業界からの触覚研究への感心は高い。積極的な産学連携によって実用化への道筋をつける必要がある。
(文=小寺貴之)
筑波大学の橋本悠希助教らが開発したのは「振動スリッパ」。爪に振動子を当てると反対側の指の腹側で触覚を感じる現象を利用する。橋本助教は、「グッグッと新雪を踏み抜く心地よさを表現できる」と説明する。
振動を提示すると歩行中の重心のブレを抑えることも発見した。振動ユニットは靴にも装着できるため、高齢者向けの歩行安定化デバイスとして開発を進める。
さらにマラソン選手のピッチ走法、自転車競技で選手がペダルを踏み込むタイミングを教えるデバイスとしても応用を模索する。「プロ選手のトレーニング用途やスポーツクラブでの導入などを目指したい。3年で技術をモノする」と力を込める。
電気通信大学の広田光一教授と首都大学東京の池井寧教授らは足裏用の触覚ディスプレーを開発した。8×16列の128本のピンが上下して足裏に形や圧力を提示する。ピンのストロークは3センチ―4センチメートル、空圧駆動で3・5ニュートンまでの力の分布を表現できる。
研究を推進する電通大の日岐桂吾大学院生は、「手は繊細な感覚の提示や操作を重視し、足裏はモノの形と柔らかさなどのラフな情報提示や補助的な操作をする。それぞれの機能を統合し、高度なインタラクション(相互作用)を作り出したい」と説明する。
感覚利用の限界を追及
また、大阪大学の黒田嘉宏准教授と加藤銀河大学院生らは、VR空間での歩行をリアルにしようと足駆動装置「ハプステップ」を開発。足を置いた板を前後にスライドさせ、床を蹴り出す感覚や踏みとどまる感覚を表現した。
足を上下させずに、水平移動だけで表現するため、駆動モーターを小型化できる。加藤大学院生は、「VRで坂道を登る際に、進むスピードだけ遅くしても負荷は伝わらない。踏み込む力を表現できればよりリアルな体験になるはず」と期待する。
手を中心とした触覚デバイスが企業での事業化段階を迎えており、研究者は次の研究領域を開拓中だ。脳から最も遠い足の裏は、感覚利用の限界を追及する基礎研究も、新しい用途を提案する開発もまだまだ研究しがいがある。
ただ、靴は雨や体重がかかるため、電子部品を使うと耐久性やコストが課題だった。産業界からの触覚研究への感心は高い。積極的な産学連携によって実用化への道筋をつける必要がある。
(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2017年1月9日